中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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アキラの選択とそれを許せぬ者

(アキラがウダジマとの抗争の果てに生き残れる可能性は、シオリの救出よりも更に低い……)

 

 それこそ偶々高レベルのハンターと知り合いになり、気に入られて一緒にウダジマと戦ってくれるだとか、ウダジマが何かの事故や事件に巻き込まれ突然死でもしない限りは、確実にアキラは死ぬだろうというのがアルファの計算だ。

 

(けど、0ではない……)

 

 それでもそんな事象が起きる可能性もあれば、アルファの計算外の事態が起きて生き残る可能性だって、僅かという表現でさえ過大過ぎるが残っている。

 

 これ以上ごねて契約を破棄されるよりは、そんな砂粒程の可能性に縋るべきかとアルファが返事をしようとした瞬間――

 

「お待ち下さい」

 

 それよりも僅かに早く、シオリが口を挟む。

 

「アキラ様。今回の最大の被害者は私だと思いますが、異論はありますか?」

 

 正直、シオリからすれば放っておかれれば死んでいただけの話でなく、感謝こそあれ被害者ぶる気なんてなかったが――

 

(申し訳ありません、アキラ様。ですが、どうしても見過ごせません……)

 

 アキラの命が関わっているとなれば話は別だ。

 

「異論なんてないよ。反論のしようもないくらい、その通りだと思うし、俺に出来る償いなら何だってしたいと思ってる」

 

「本当に出来る事なら何だってしますか?」

 

 アルファならともかく、アキラには感謝こそすれ謝られる理由なんてないと思いながら、それでもシオリは今だけは気持ちを押し殺して話を続けていく。

 

「ああ、出来る事限定なのは悪いけどな」

 

「それでは多少の契約内容の変更は必要かと思われますが、アルファ様との契約を続けて下さい」

 

 アキラの性格や罪悪感に付け込んだ、了承を取ってからの卑怯な取引。

 

 恩人や想い人への対応というには、あまりにも誠意の欠片もない騙し討ちである事は理解していた。

 

「シオリ、それは――」

 

「アナタには非常に耐え難い事だろうとは思っています。アルファ様とやらへの信用だけの問題ではないのでしょう?」

 

 それでも、そこまでしなければ被害者であるシオリが頼んだところで、アキラが聞いてくれない可能性があったからだ。

 

(アキラ様は身勝手な理由で他人を踏み躙る行為を憎む程に嫌っています……)

 

 それは自分自身が踏み躙られるだけでなく、他人が踏み躙られる事に対しても強い執着を持っているのは、サラ達との出会いの話を聞いたシオリには解っている。

 

 それならば今回の件は、どうだろうか。

 

 シオリ自身に殺されるだけの理由はあったかと言えば、そんなものはない。

 

 ただ自分の邪魔になるからというアルファの身勝手な理由だけ。

 

(アキラ様からすれば知らなかったとはいえ、私を踏み躙る片棒を担いでいたようなものと思っているのでしょうね。その罰を受けたいのでしょうが……)

 

 それがおそらくウダジマとの戦いに一人で挑む事なのだろうとシオリは思う。

 

 それで死んだならアルファに頼り誰かを傷付けた自分には相応の結末を迎えたと納得して死に、仮に生き残れたとしても今度はアルファが誰も傷付けないように一人で生きていくのが自分にはお似合いだなんて考えているのだろう。

 

(それは確かに相応しい罰なのかもしれませんが――)

 

 アルファの力で成り上がり、アルファの力で誰かを傷付け――

 

 そしてアルファの為に人生全てを捨てていく。

 

 大いなる力には大いなる責任が付きものだとよく言うが、身の丈に合わない力を求め恩恵を受けてきた者と考えれば、然るべき末路だと言えるのかもしれない。

 

「もし私に悪いと思っているのでしたら、それこそ生き残ってまたこうして私と一緒に過ごす時間を作って下さい」

 

 けれど、それがシオリへの償いになる事はない。

 

 全てを懸けて自分を助けてくれた恩人であり、同時に想い人であるアキラを永遠に失う事になってどこに救いがあるというのか。

 

「私を助けたせいでアキラ様が死ぬなんて事になったら私は泣きます。死んだと知った日には食べ物が喉を通らないくらい泣きますし、死ぬまでアキラ様の事を思い出しては後悔して生き続けます」

 

「シオリ……」

 

 ここで後を追って死ぬという言葉が出て来ないからこそ、アキラはこれがシオリの本音なのだと思えた。

 

 レイナが居る以上、シオリが自分の後を追って死ぬ事なんて出来ないだろうから。

 

「お願いです、アキラ様。今回だけで構いません。どうか生き延びる為に全ての手を尽くしては頂けませんか?」

 

 自分に本当に悪いと思うなら何が何でも生き残る事。

 

 それだけがアキラに出来る唯一の償いなのだとシオリは告げる。

 

「……正直、シオリが望むならアルファとの契約を続行する事自体は、今はいいかなって思ってる。アルファに身体を預けるのは抵抗あるけど、却ってそれが罰らしいとは思う。何でもするって約束もしたしさ」

 

「でしたら――」

 

「けど、そんなの償いって言えるか?」

 

 どう考えたってアキラ一人が得するだけの話にしか聞こえず――

 

 そりゃあ確かに今更アルファと同じように過ごせなんてのは難しい話ではあるが、それは単にアキラ自身の意地の問題に過ぎず、到底罰や償いに匹敵するとはアキラには思えない。

 

「シオリが俺に生きていてほしいって願ってくれる気持ちを疑う訳じゃないけど、傷付けられた筈のシオリだけが我慢しているようにしか俺には思えない」

 

 逆にシオリは自分を助ける為に、アルファへの復讐の機会を捨てたようにしか思えなかった。

 

 これではアキラから持ち掛けた訳ではないとはいえ、被害者である筈のシオリの優しさに付け込んで、自分だけ得しているようなもの。

 

 どう考えても真っ当な取引とは言えなかった。

 

(言いたい事は解からなくもないですが、これ以上は……)

 

 けれど、シオリ目線ではアキラだって同じく巻き込まれた被害者のようなものであり、命の恩人でしかない。

 

 いくらアキラを納得させる為とはいえ、この上で罰の代わりになるような頼み事というのは提案し難い。

 

『……そうね。アキラよりも先に被害者であるシオリからの許しを得るべきよね』

 

 それに気付いたアルファが、アキラを納得させる為だけに口を開く。

 

『謝罪だけで済まされる事ではないのは解かってる。だから私に償う機会を貰えないかしら』

 

「償う機会ですか……」

 

 シオリは一切信用出来ないと言いたげに表情を歪めつつも、それでも自分がアルファに何かしらの許しを与えない限り、アキラがアルファと再び協力し合う事なんて無理だろう事も解る。

 

「おい、アル――」

 

『アナタやレイナがお金の為にハンターをしている訳ではないという事は想像出来るわ。見るからに裕福だしね。何か目的があるのでしょう? 協力出来るかもしれないわよ』

 

 シオリの不信を察したアキラが、アルファに言い包められないように言葉を遮ろうとするが、それより早く走ったアルファの言葉にアキラの言葉が止まる。

 

(確かに。言われてみればシオリ達がドランカムに所属してまでハンター稼業に精を出しているのっておかしいんだよな……)

 

 はっきり言えば違和感しかなく、その理由を知りたいし。

 

 協力出来るのならば独り善がりな贖罪と違い、本当にシオリの助けになれるという想いがアキラの言葉を止めさせる。

 

「……アナタが協力すれば、目的を達成出来る、と?」

 

『内容も聞かずに頷く事は出来ないけど、わざわざハンターとして活動しているという事は、探している遺物があるか旧世界に関わる事だと思うのだけど、前者でも十分なサポートが出来るし、旧世界に関わる事なら私より詳しい相手はそれ程多くないと思うわよ?』

 

「…………」

 

 ただのスラムの子どもでしかなかったアキラを成り上がらせたアルファの能力だけならば疑いようはないが――

 

 アキラにこれ以上の迷惑を掛けたくない、能力以外何もアルファを信用出来ない、レイナの役に立つ可能性があるならば自分の心情は無視し、リスクとの兼ね合いだけを考えるべきかと初めてシオリの中に自分の目的の為に迷いが生まれる。

 

 返事に窮したのは数秒。

 

「よし、アルファ。契約内容の変更の話をしよう」

 

 その数秒でアキラの意志は完全に決まってしまった。

 

 アルファを信用するどころか嫌悪を隠しもしないシオリが迷う程に魅力を覚える話だというのなら、これ程相応しい贖罪はないだろう、と。 

 

「まずシオリから依頼を請ける。これが出来ない時点でアルファのサポートは、金輪際一切なしだ」

 

『解かったわ。シオリ。もしアキラには知られたくない内容なら、端末に入力してくれれば、返事するわ』

 

「シオリからの依頼を達成するまで、完全にアルファの依頼は後回しだ。アルファの依頼に関わる活動は一切禁止」

 

『それは依頼達成の為に力を付ける訓練とかも含めるのかしら?』

 

「ああ、全部なしだ。シオリの依頼達成の為の力が足りないならともかく、それ以外はアルファの依頼に繋がるなら全てなしだ」

 

 正直、やり過ぎだろうとはアキラも思うが、少しでも許可すればアルファなら屁理屈で自分を好きなように動かしそうな気がしてならないし、その屁理屈を自分が看破出来るとも思えない。

 

 それならば全て禁止にする以外の方法が浮かばなかった。

 

『……解かったわ。シオリの依頼達成だけを優先。それまでは私の依頼に関わる活動やサポートは全て凍結しましょう』

 

 これにはアルファも面倒臭い事になったと本気で思う。

 

 アキラ相手なら解釈次第でどうとでも動かせると高を括っていたが、この内容ではどれだけ無理に解釈しても限度があるからだ。

 

「俺からは、これくらいだな。後の条件はシオリが決めてくれ。シオリからの提案に受けられないものがあった時点で、アルファのサポートを引き続き受ける話は全部なしだ」

 

(……本当に余計な事をしたわ)

 

 おまけに更に好き放題にシオリが条件を加えていい話まで出てしまう。

 

 アルファの今回の失敗の大きさを改めて思い知る。

 

「そういう事でしたら――」

 

 アキラの言葉を受け、シオリは細かに条件を加えていく。

 

 その多くはアキラ自身やアキラの知り合いを守る為のものであり、アキラは非常に申し訳なさそうな顔をしていたのだが――

 

 それとは対照的に、シオリは満足そうに微笑んで契約は更新された。

この中で二十四章に何か言いたい事があれば

  • 解像度が高い
  • 展開が上手い
  • 納得が多かった
  • 面白かった
  • シオリがアルファに嫉妬するのも解かる
  • アルファには良い薬
  • アルファ可哀相
  • アキラの解釈の仕方が凄い
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