中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
ですので時系列的には、ほんの少し先の話になります。
シェリルとキャロル
「全く呆れるわ。今やスラムの統治を任される立場でしょ? それが横恋慕している相手の為に部下に仕事任せて、現場に向かおうとか。アナタに責任感ってものはないのかしら?」
カツラギが運転するトレーラーの中。
心底呆れた顔でキャロルのぼやきが響いていく。
「キャロルさんは今は私の護衛ですよね。それに見合った態度というモノがあるんじゃないですか?」
「私が請けたのって護衛の依頼なのよね。雇い主のご機嫌取りの依頼は請けてないつもりだけど?」
「雇い主に嫌われて護衛に得なんてないでしょう?」
「この程度でヘソを曲げるような器の小さい依頼主なら、こっちから願い下げ。別に私はお金に困ってないし、違約金払って依頼を降りてもいいのよ?」
二人の雰囲気は決して良くはないというか、控えめに言って悪い。
今の態度だけ見れば、それこそ敵同士だと言われた方が信じる者が多いくらいだろう。
「おいおい、勘弁してくれよ。こいつとヴィオラがアキラを殺そうと企んでたのは誤解だって解かったんだろ? 仲良くやろうぜ」
元々シェリルとキャロルの仲は決して悪くはなかった。
むしろアキラに好意を伝えても無視されている者同士、ある意味では共感し合う部分もあり、どちらかと言えば仲は良好であったのだが――
アキラがシオリの救出に行った際、シェリルがミズハを騙して救援部隊を送ろうとしたのを妨害した者が居た。
その実行犯がヴィオラだという事まではシェリルも気付いていたものの、人型兵器を戦場に送りアキラが助かる決定打を生み出したのもヴィオラであり、敵か味方か判断し兼ね、どう対応すべきか保留にしていた。
――場合によっては、かつて宣言した通り、シェリル自らヴィオラを始末する覚悟さえあった。
そんな限りなく黒に近い灰色染みた人間と二人きりで旅に出るとなれば、アキラを愛する女としてもアキラを後ろ盾とするボスとしても見過ごす事は出来ない。
おまけに電波障害か何かが起きているらしく、イナベですらアキラと連絡が取れない状態なのだ。
それで超特急で雑務を片付け、自分が居なくても暫く回るようにイナベから都市の人材を一時的に回してもらいスラムの統治を一時任せて、キャロルを護衛にアキラの後を追おうとしてたのだが――
「そうそう。むしろ、その件では感謝してほしいくらいよ。現場知らずの文官共が頭でっかちな事して取り返しの付かなくなるのを防いであげたんだから」
そこでヴィオラに指示した黒幕こそが、キャロルだとシェリルは聞かされていた。
「……感謝は、しています。これは本心です」
まさかの告白に最初は驚き、怒りを隠せなかったシェリルだがキャロルから事情を聞かされて愕然とした。
アキラは確かにハンターとしても滅茶苦茶な人間で無鉄砲に見える事も多いが、それでも何の勝算もなく命を捨てに行くような人間ではない。
むしろ変な事に巻き込まれて大変な事になるだけで、ああ見えて結構自分の命に関しては慎重な方だ。
だから一人で向かった事自体に意味があり、例えば単独ならば安全にシオリの元まで行く方法を持っているのかもしれない。
だが、それも下手に大人数で押し掛けてモンスターを刺激した場合、台無しになってしまう可能性がある。
特に遺跡の中はモンスターの陣地。
モニカとの戦いで敵の陣地内で戦う事の恐ろしさを学んだアキラが、そこで救助者を庇いながら脱出する事の難しさを理解してないとは思わない。
少なくとも遺跡からシオリと共に脱出する手立てくらいは考えている筈。
それを邪魔させない為に、ミズハの動きを止めたのだとシェリルはキャロルから聞かされていた。
(確かにおかしな話だとは思ってたのよね。もしアキラを殺したいだけなら、あそこまで面倒な事をする必要はないもの……)
アキラを殺したいのならば、単にミズハに「シェリルはお前を騙そうとしている。嘘だと思うならイナベに確認してみろ」とでも密告し、それでも信じないならシェリルがイナベの後ろ盾を得てない確固たる情報でも伝えれば済む。
それなら都市に喧嘩を売る事も無く、簡単にアキラを見殺しに出来ていた事だろう。
(都市を混乱させたかっただけにしても、人型兵器をアキラの応援に取り付けるまでの流れを作り過ぎてる)
混乱を起こしたいだけならモンスターの群れが都市に押し寄せているという話を流すだけで十分だ。
都市に喧嘩を売る事になると解っていて、アキラと黒狼の動画を表に大々的に流出させる意味がない。
(確かに救援はとにかく早く多く出せればいいだなんて、現場知らずの文官の浅知恵と言われて反論のしようもなかった……)
自分の無知がアキラを殺していたかもしれない。
それに一早く気付いたキャロルが、都市に喧嘩を売る事になってでも素早く対応してくれていたのだ。
「ありがとう。私のアキラを助ける手助けをしてくれて」
それを知らされたシェリルは、反省と感謝の気持ちが溢れ出し、半ば無意識に本心から御礼の言葉が零れ出たのだが――
この言葉がキャロルの癪に障った。
「礼なんて要らないわよ。惚れた男を助けるなんて当たり前の事でしょう?」
アキラはアンタのもんじゃないでしょ。
正妻面してんじゃないわよ負け犬、なんて満面の笑顔の裏に壮絶な毒を持ってシェリルの礼を言葉を拒否する。
――無論、聡いシェリルが言葉の裏に秘められた意味に気付かない訳がない。
「御自慢の身体で誘惑しても一切相手にされてなかったからって、私に当たるの止めてもらえます?」
「あら、そんな事で当たる訳ないじゃない。むしろ同情するわよ。一番付き合い長い癖に女扱いすらされてない方が哀れ過ぎて」
そこから二人は、ずっとこんな調子なのである。
(本気で勘弁してくれよ。護衛降りられたらアキラの元までなんて辿り着けやしねえぞ……)
これにはカツラギも肝を冷やしているが――
シェリル達の仲が拗れている訳ではない。
単にじゃれ合っているだけなのは、本人達には解っていた。
――ただ素直にじゃれ合いだと認めてしまうと何か負け犬同士の傷の舐め合いみたいで嫌だから、ちょっと捻くれた態度を取っているだけである。
「ところで一つ、その恰好について言いたい事があるんだけどいいかしら?」
ここでキャロルは言葉を区切ると、あえて今まで放置していたシェリルの姿に触れる。
「解ってるだろうとは思うけど、そんな服着てもあんまり意味ないと思うわよ」
いくら相手がメイドだったからって、対抗してメイド服着ていくのは安直過ぎない、と。
なんでこの話だけ、時系列とか無視して置きに来たのかと言えば、この話ないとキャロルのアレってただの嫌がらせだったの? で終わってしまうので。
出番は確かに少なかったけど、それなりに良い役貰ってるっていう形にしたかったんですが、入れられなかったのは力不足ですね。
この中で何か言いたい事があれば
-
解像度が高い
-
展開が上手い
-
納得が多かった
-
面白かった
-
キャロルのアレ、嫌がらせじゃなかったんだ
-
嫌がらせじゃないのは解ってたよ
-
今の状況ならシェリル確かにメイド服着そう
-
この二人の掛け合い好き
-
間に挟まれたカツラギ可哀相