中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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 という訳で本編とはあんまり関係ない、おまけ的な小話です。

 時系列的にはアキラが温泉旅行に行っている間から、シオリが遺跡に取り残されるまでの時間内に起きていた事件だと思って下されば有難いです。

 アリカって誰だという方は、30話『都合の良い現実』とか48話『礼儀知らずの徒党入り希望』辺りを読んで頂ければ嬉しく思います。
 書籍には居ないオリジナルキャラなので、覚えてなくとも仕方ないと思いますので。

 ちなみに小話の最終話にてアリカの名前の由来を伝えますので、興味のある方は由来を想像しても面白いかもしれませんね。

 でも答えが予測出来ても、小話の最後で明かすまでは黙っていてくれると嬉しいです。


短編 アキラとナーシャ
少女の名はアリカ


 それはアキラがレイナ一行と温泉に出掛けていた時の事だった。

 

「次の幹部候補のアリカよ。悪いんだけど、暫くこの子の面倒を見てもらえないかしら?」

 

 突然、シェリルから一人の少女を紹介されたナーシャは戸惑いを隠せなかった。

 

 確かに自分は新入りの面倒を見る事が多い。

 

 それでもシェリル直々に面倒を見てくれと個人を紹介されたのは初めての事だし、それが見覚えのない少女な上に幹部候補ともなれば、戸惑うなという方が無理な話だろう。

 

「解かりました……」

 

 とはいえ、徒党のボスであるシェリルの命令を断るなんて事は、ナーシャには出来ない。

 

 戸惑いながらも確かに頷き、面倒を見ると約束する。

 

「噂には聞いているかもしれないけど、この子がアキラの助けた女の子よ。くれぐれも扱いは慎重にお願いね」

 

(待って待って。聞いてない!)

 

 了承してから何でもない事のように付け加えられた情報に思わず文句に言いたくなるナーシャであったが、ボスであるシェリルに文句を言えるような立場ではない。

 

 何とか気合で口に出すのだけは堪えた。

 

「……幹部として最低限問題を起こさない程度の常識だけ付けてくれればいいわ。それじゃあ頼んだわよ」

 

 シェリル自身、面倒な事を頼んだ自覚があるのだろう。

 

 言葉と共に教育料兼迷惑料だとでも言いたげに、お金をナーシャに押し付けるように渡して、アリカを置いてこの場を立ち去る。

 

(……これ、何オーラムあるの? 十万や二十万どころじゃないんだけど……)

 

 手に感じる百万オーラムはありそうな纏められた札束の重みに、ナーシャは思っている以上に厄介そうな案件だと思いながら――

 

 それでも任された以上は問題なく、こなさなければならないだろうと気持ちを引き締める。

 

「始めまして。私はここで一応幹部をやらせてもらってる、ナーシャって言うの。アナタの名前は?」

 

 シェリルから名前は聞かされているし忘れてもいないが、お互いに名乗り合う事に意味がある。

 

 ナーシャは面倒事を託されてしまったという内心を完璧に隠し、親近感を抱かせる柔和な笑顔を浮かべ、置き去りにされたアリカに向き合う。

 

「アリカです。今までは向こうの方で身体を売って生きてました。よろしくお願いします」

 

 そして、迷いもなく放たれたアリカからの自己紹介に自分の笑顔が固まるのを感じた。

 

(……爆弾でも渡された気分)

 

 おかしいとはナーシャも思っていたのだ。

 

 今やシェリルの徒党は、シェリルファミリーと呼ばれスラムでは知らぬ者が居ない規模。

 

 そのボスであるシェリルが直々に連れてきた幹部候補の人間だというのに、最低限の常識から教えないといけない女の子だなんて。

 

(要するにこのアリカって子は、アキラがそういう意味で贔屓しているお気に入りの女の子だから丁重に扱えって事ね……)

 

 シェリル自身が面倒を見ないのは徒党の運営に忙しくて手が回らないだけでなく、私怨が混じって変な事をしてしまうかもしれないと懸念しての事だろうとナーシャは推測し――

 

(これは物凄く大変な役目を任されてしまったわね……)

 

 ある意味ではボスであるシェリルに匹敵するだろう重要な人物との、これからの日々を思い浮かべ――

 

 まだ世話の一つもしていないのに、ずしりと身体が重くなるような感覚に襲われるのであった。

 

 

   ○   ○

 

 

「アリカ! 出来ない事は無理にしなくていいって伝えたでしょ!」

 

 ナーシャの予想は良い意味で裏切られた。

 

 いきなり幹部候補として入ってきた上にアキラのお気に入りの子ともなれば、自分の立場を理解した我儘放題の女である事を覚悟していた。

 

 けれど――

 

「ごめんなさい。出来ると思ったんだけど……」

 

「任せられるようになったら、ちゃんと言うから。それまでは私の指示を待って。別に焦って仕事覚えなくたっていいんだからさ」

 

「でも幹部候補って事は、たくさん期待されてるって事でしょ。だから早く仕事出来るようになりたくて――」

 

「確実に覚える方が大事なの。解かった?」

 

「うん、解かった」

 

 何というか身構えていた自分が馬鹿だったとナーシャ自身が思ってしまう程に、アリカは素直で健気な女の子だったというか。

 

 むしろ、そこ等辺に居るスラムの子達の方がスレていて扱い難いんじゃないかと思うほどに、純粋過ぎて逆に危なっかしい子であった。

 

(何でボス、この子を幹部にしようとしているのかしら?)

 

 そして、ナーシャがアリカを危なっかしいと思ったのはアリカが自分はアキラのお気に入りでも何でもない、ただ偶然アキラに助けられただけの人間だという事を全く隠す気がない事であった。

 

(最初は結構、強かな子かと思ったんだけどなあ)

 

 アリカが身体を売り生活をしていた女だというのは、知っている者は知っている。

 

 というのも、そもそもアリカ自身がスラムではそれなりに有名な女だったからなのだが――

 

(何と言うか男って馬鹿よね……)

 

 アキラのお気に入りだという噂がある女に普通手を出そうと思うかとナーシャとしては感じるのだが、身売りしていた女なら自分達でも金を出せばいけるんじゃないだろうかと考える徒党の人間が何人か居たのだ。

 

 ――もし本当にアキラのお気に入りだったらと考えると、命知らずにも程があるでしょと今でもナーシャは思ってる。

 

「アキラさんがいいって言ったらいいよ」

 

 けれど、そうして群がる男達に無邪気な笑顔でアリカが言い続けた言葉が、先の言葉であり――

 

 アリカに金を払い相手をしてもらおうと企んでいた男達全員、血相を変えて逃げ出していた。

 

(まあ、本物の命知らずの馬鹿までは居ないのが解かったのは救いかしらね?)

 

 これなら二度とそんな事を言って来なくなるだろうし、自分がアキラのお気に入りだと周知されていく。

 

 やっぱり素直そうに見えてもシェリルがわざわざ連れてきた幹部候補、その辺の狡賢さを持っているんだな、なんてナーシャは感心していたのだが――

 

(本気で言ってるなんて、想像すらしてなかったわよ……)

 

 さすがボスが直々に連れてきた幹部候補だけあって、こういうのを交わすの上手いわね、なんて本心から賞賛の言葉を掛けたナーシャは色んな意味で驚かされる事になる。

 

 完全に本心からの言葉であり、裏も打算も何もなかったと聞かされたのだから。

 

(おまけに自分はアキラに助けられただけで、客として関係を持った事もないどころか、助けられた時に少し話しただけとか自分から言い出すんだもの……)

 

 この事を知ったナーシャは迷った。

 

 アキラのお気に入りでも何でもない上に、素直で従順そうではあるが実務能力も何もない子を幹部にしてもいいのか。

 

 それ以前にシェリルは、この事を知っているのか、と。

 

(本人に騙す気はないってのは、すぐに解かったんだけどね……)

 

 それでもシェリルが勘違いして騙されているなら、それは騙しているのと変わらない。

 

 もしシェリルが勘違いで幹部にしようとしていたのなら、この事を伝えれば、どう頑張ってもアリカは碌な事にならないだろう事は解っていた。

 

 それでもナーシャは僅かな迷いを振り切り、シェリルに誤解がないか確認に向かったのだが――

 

「知ってるわ。その上で、あの子は絶対に今後の徒党に必要な人材なの。だから色々と頼んだわよ」

 

 シェリルは驚き一つ見せずに問題ないと告げた上に、必ず幹部として問題ないようにしてと念押して更に百万オーラム渡してきたのである。

 

 ――前回渡された金も、丁度百万オーラムであった。

 

(すぐに確認に行ってよかったわ……)

 

 今でこそ徒党の幹部を務めているナーシャだが、その経緯は一言では言い表せない程に複雑であり、内心でアキラやシェリルを恨んでいる可能性があると思われても仕方ない。

 

 アリカの事情を知り、それを伝えるかどうかで忠誠心を量られていたのではないかとナーシャは考えていた。

 

(色々って事は多分、アキラのお気に入りだって噂はそのままにしておいた方がいいのよね?)

 

 その噂がなければ、このよく言えば天真爛漫で将来性のある。

 

 悪く言えば能天気で現状では無能としか言えないアリカを、幹部候補に据えている事への不満が爆発してしまうだろう。

 

 そう考えたナーシャは、アリカにアキラとの出会いは自分とシェリル以外には話していけないと約束させていた。

 

「ナーシャー。こっちのはどうすればいいのー」

 

 考え事をしながら、アリカの失敗の後始末をしていたナーシャにアリカからお呼びの声が掛かる。

 

 見れば、まだ教えていない仕事に手を出そうとしていた。

 

「ああ、もう。だから出来ない事は無理にしないでってば……」

 

「うん。だからやらずにどうすればいいか聞いてるの」

 

 どうやら手を出そうとしているように見えたのはナーシャの勘違いで、言い付けを守り、教えてもらえるのを待っているらしい。

 

(この子が徒党に絶対必要な人材、ねえ……)

 

 素直だし意欲があるのも認めるが、どれだけ考えてもそんな特別な力があるようには、ナーシャには思えない。

 

 むしろ足りないものの方が多いくらいに感じるが――

 

(まあ私なんかじゃ解からない何かを持っているんでしょうね)

 

 自分なんかとは比べ物にならない程に、ボスであるシェリルの運営力や人を見抜く力が飛び抜けている事をナーシャは知っているし。

 

 合計で二百万オーラムも渡されて頼まれてしまったのだ。

 

 もはや投げ出す事など出来る訳もなく、疑う事に意味なんてない。

 

「いい? これはね――」

 

 とりあえず幹部としてアリカが最低限、使い物になるようにナーシャは教育に励むのであった。




 誤解している人居ると思いますが、私が一番好きな女キャラはツバキで二番目がシェリル、三番目がシオリです。
 見た目だけならモニカが一番好みでしょうか。

 男キャラだとアキラが一番で二番目はイナベだったりします。

本編は完結で、ここから小話です。という訳で全話通してこの中で何かあれば

  • 解釈一致が多かった
  • 解釈違いが多かったが面白かった
  • 元々シオリ好きだったが、より好きになった
  • シオリ好きじゃなかったけど、好きになれた
  • シェリルのアキラへの想いがよかった
  • カツヤとの関係の変化よかった
  • 徒党関係の話よかった
  • オリジナルキャラよかった
  • レイナの成長よかった
  • ユミナの描き方がよかった
  • アキラの心の描き方がよかった
  • サラとエレナが上手く対比出来てた
  • 原作の読み込み具合に感心した
  • 展開の巧みさに驚かされた
  • アルファの扱いが新鮮で面白かった
  • キャラの掘り下げが上手かった
  • この作品読んで書籍版気になって買ったよ
  • 恋愛中心なのに違和感薄かった
  • アンタ、良い腕してるな
  • え、シオリ最推しじゃなかったのか!?
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