中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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イメージと実態

「ねえ、アリカ。アキラさんの最後の質問の意味って解る?」

 

 今回の件をシェリルに報告し、自室に戻ったナーシャが一番最初にしたのは、アリカにアキラの質問の意図を尋ねる事であった。

 

 ――ちなみにアリカも事件の時からナーシャの傍にずっと居たのだが、特にアキラの行動に言いたい事がなかったのか、黙っていたので目立たなかっただけであり。

 

 ルシアは騒ぎを起こした原因として、罰を兼ねて面倒な仕事を一つ任されて別行動中である。

 

「最後の質問って?」

 

「ほら。私が防壁の内側に住んでたかどうかみたいな……」

 

 いくらアリカがシェリルが頼りたくなる程にアキラの考えを読めるのだとしても、あんな脈絡のない言葉なんて理解出来ないだろうと思い――

 

 大して期待もせずにナーシャは訊ねる。

 

「ナーシャの事、凄く優しい人だと感じたからだと思うけど?」

 

「えっと、詳しく説明してもらえるかしら?」

 

 だというのに当然のようにアリカが答えたものだから、目を瞬かせつつも続きを促す。

 

「詳しくも何も自分の命が掛かってたのにルシアの事見捨てられなかったんでしょ? それを凄く優しいって感じるのは、何かおかしいの?」

 

「それが何で防壁の内側とかに住んでたって話になるのよ」

 

 正直、アキラがそんな繊細な感情を持ち合わせているようには、ナーシャには思えない。

 

 おそらく変に懐いているアリカの妄想だろうと思いつつ、それでも一応は最後まで話を聞いておこうと続きを促す。

 

「そんな自分を省みずに誰かの為に命を懸けられる人間なんて、スラムに居るなんて思わないよ。だから凄く良い場所で育ったんだろうなあって感じただけだと思うよ」

 

「…………」

 

 信じられなかった。

 

 この推測が事実なら、別に脈絡も何もない質問でもなかったし、辻褄自体は合っているように思う。

 

(いや、でも、あのアキラさんよ?)

 

 けれど、ナーシャの知っているアキラとは、交渉中に少し脅されただけで相手を射殺し、その死体を引き摺り平然と敵の徒党まで乗り込んでいく、控えめに言ってネジの外れた暴力者だ。

 

 そんな事を一々気にするだろうか。

 

(そりゃあ、思ってたより責任感とか強い人だったんだなとは思ったけれど――)

 

 あれは自己保身のようなもので、徒党の子ども達に何の興味もない人間だったと解かった筈。

 

 そもそも、そんな気遣いが出来るような人間なら、今回の件だって蹴り飛ばさずに穏便に済ませるだろう。

 

「……」

 

 けれど、シェリルが大金を渡してまで手元に置いている地雷探知機が、今回の地雷はここだったと告げているのだ。

 

 その言葉を無視する事は、ナーシャには出来ず。

 

 一先ずアリカの言葉が正しいと解釈して考えを進めていく事にする。

 

(それじゃあ何? あそこで回復薬を渡して観察してたのは、本当にルシアを助けようとする人間かどうか確認する為だったの?)

 

 だとすれば、あまりにも意味がなさ過ぎる。

 

 仲間達が見ているあの状況で、ルシアを見捨て回復薬は後で売り捌かせて頂きますなんて言える人間が居るとでも思っているのだろうか。

 

「……私の勘違いかもしれないけど、帰った時に傷付いているように見えたのは?」

 

 何となくナーシャには答えが予測出来ていた。

 

 それでも否定してほしい気持ちでアリカへと訊ねるが――

 

「同じスラム育ちなのに、自分とこんなに違うのかって感じかなあ? 私も自分がナーシャみたいな状況になったら絶対にルシア見捨てただろうし、ナーシャ凄いなあって感心したもん」

 

 だから本当にナーシャは優しい人だなんて無邪気に笑うアリカとは対照的に。

 

 ナーシャは苦虫でも噛み潰したように表情を歪めていく。

 

(何なのよ、それは……)

 

 それじゃあ何か。

 

 薬を返そうとして不機嫌そうに見えたのは、私の事を本当に優しい人間だと思って。

 

 そんな相手に詫びとして渡した物を突き返されるくらい自分は怖がられているのか、とか思ってショックでも受けていたとでも?

 

(いやいや、ないでしょ……)

 

 アリカの言葉を全て信じた上で、アキラの行動を推測していくならそういう事になってしまうが――

 

 『あの』アキラの事だと思うと、どうしてもナーシャには納得出来ない。

 

「……」

 

 けれど、もしアリカの言葉が全て事実で、自分の推測も全て正しくて。

 

 どこか小さく見えた背中が、本当に自分なんかに怖がられていた事に心底傷付いていた結果なのだとしたら――

 

「…………」

 

 乱暴で不器用にも程があったが、掏りの件でもう二度と誰にも文句を言われないようにしてくれた借りがある。

 

 後ろ盾としての恩恵を受け続けているにも関わらず、怖がるばかりで感謝した事だってない。

 

(そんな私の事を優しい、か……)

 

 もし本当に傷付いていたのだとしたら、放っておくのは違う気がする。

 

 けれど、もし予想が違っていればルシアのように蹴り飛ばされる程度では済まないかもしれない。

 

(こういうの柄じゃないんだけどなあ)

 

 それでもナーシャは決めた。

 

 次にアキラが拠点に来たなら、アキラとしっかり話そう。

 

(掏りの件は二度と話すなって言ったよな、とかいきなり蹴り飛ばして来ませんように……)

 

 そして願う。

 

 どうか穏便に終わりますように、と。

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