中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
修正するのが大変なので、今日は二話同時更新です。
「もう少し早く止めてくれる? 危うく全部台無しになるところだったじゃない」
ミズハ達が帰ったと見るや、シェリルはカツラギにそんな事を告げる。
シェリル的には補償の話が出たところで、「その辺りで……」とでも言ってカツラギが止めてくれるのが理想だった。
けれど、止めてくれる気配がなかったのでワザと補償なんて要らないとカツラギが口を出すように仕向けたのである。
「アレ全部演技だったのかよ。てっきり本当にブチ切れちまったもんとばかり……」
「そんな訳ないじゃない。アキラが。私に。期待している、のよ。それを私から台無しになんてする訳ないでしょうが」
「そ、そうか……」
「まあ、怒っていたのは確かだけどね」
言葉自体は確かに本心ではあり、アキラから任せられているという意識がなければ切れていただろう。
「だから相手を選んだんじゃないの」
その怒りのぶつけどころとして、これから嫌でも付き合わなければならないミズハではなく、縁が切れてもどうでもいいカツヤを標的にしたのである。
「丁度いいストレス解消要員が居て助かったわ。まあ、そもそものストレスの元もアイツだったけど」
カツヤが傷付くような言葉選びだったのも、全てわざとだ。
「そこまで冷静に考えてたとは恐れ入ったぜ……」
軽い調子で答えようとしたカツラギの顔が、解りやすい程に引きつる。
(もう、こいつと下手に駆け引きするのは止めよう)
商売人として、その方が得というか無駄に損するだけだと畏敬を覚えたからだ。
「ヴィオラ。ミズハに私を疑うよう仕向けたのはアンタね」
カツラギが情けなくも勇敢な決意を固めたところで、シェリルはヴィオラへと視線を向ける。
「あら、どうしてそう思うのかしら?」
突然話し掛けられたからか。
それともしらばっくれてるだけか。
「そうね……」
とぼけた様子のヴィオラに付き合おうともせず、シェリルは返答を考える。
理由はいくつかあったが、最大の要因はミズハがシェリルの裏に居る人物を探ろうとした時、迷いなくヴィオラの方を見たからだ。
だが――
「勘よ」
自分の推理を伝えたところで、それじゃあ証拠にならない、なんて白を切られるだけ。
一瞬で判断したシェリルは、あえて具体的な推理を口にしない。
「…………」
(この子もアキラと同じように嘘を見抜けるのかしら?)
悩むヴィオラであったが、一人居るなら二人目が居る可能性は十分ある。
(もし嘘を見抜くのが何かしらの技術であるなら、アキラの近い位置に居るシェリルには教えている可能性だってあるわね)
それならば下手に誤魔化して機嫌を損ねるよりは事実を告げるべきだろうと判断したヴィオラは、今回の顛末を話す事にした。
「まず誤解しないでほしいのは、私が何かするまでもなく向こうが既にシェリルを疑い始めていたの。ドランカムの補償の話がここまで遅れたのは、それが原因よ」
「続けて」
「このまま無駄に時間だけが過ぎれば補償以上に痛手の方が大きい。挙句に結局補償も出ないとなったら大変。そう考えた私は彼女を動かす事にしたわ」
「それならこちらが有利になる情報で動かす訳には、いかなかったの?」
「こちらが有利な情報を渡せば、却って疑いが深まって動きが遅くなるかもしれない。人間、自分に都合の良い情報はすぐ信じても、都合の悪い情報は信じないからね。だから彼女にとって有利な情報、シェリルがスラムの住人だと思い込めるような情報を流したわ」
ヴィオラの言葉に嘘はない。
実際、急がなければマズい状況ではあったのだ。
あれだけの事件があったから仕方ないといえば仕方ないのだが、遺物販売店に協力している商人達の間に、本当に遺物販売店は開店出来るのかという不信が生まれている。
これ以上、何も進展がないまま時間だけ過ぎていけば、一人が遺物販売店から手を引き、それを皮切りに次々に手を引く者が続いて立ち回らなくなっていただろう。
「話は理解したわ。けど結果的に上手くいったからよかったようなものの、全部台無しになる可能性もあった。その時はどう責任を取るつもり?」
シェリルは睨むでもなく静かに問い掛ける。
けれど、返答次第ではアキラにヴィオラは役立たずだったと報告するつもりなのは火を見るよりも明らかだった。
「それについては、もう少し待ってくれるかしら? 多分そろそろだと思うし」
アナタなら何とかするだろうと思った、なんてゴマの一つでもすろうかと考えたヴィオラだが、すぐに考えを改める。
シェリルが求めているのは、アキラからの評価だ。
それ以外でしかない自分が何を言ったところで、冷めた眼を向けられるだけだと何となく解ってしまったからだ。
「そろそろ?」
時間が経つくらいで何が変わるのか。
シェリルが不審の眼を向けた時だった。
「ああ、俺だ。え、何だって? そりゃあ本当か? こっちとしちゃあ助かるが、何か裏とかあるんじゃねえか? ああ、解った。後で俺も確認する」
カツラギの情報端末に連絡が入る。
「何かあったの?」
「それがよく解らねえんだが、遺物の寄付が集まっているらしい。それも相当な量だそうだ」
カツラギの相方であるダリスから連絡が来たようだった。
「私が用意した商品が届き始めたみたいね。それだけでも前回の事件で失った分くらいの収益は上げられる筈よ。これで答えにならないかしら?」
ヴィオラが何らかの手段で手配したのは、ほぼ間違いないと言えるだろう。
タイミングが良過ぎるし、ミズハが協力を申し出たのは数分前の話だ。
周囲に知れ渡るには、どれだけ早くてもまだ時間が掛かる。
(開店が危ぶまれていると思われている状況で、協力してくる者なんて居る訳ない。この話だけは信じてもいいわね)
だから今回の遺物の寄付がヴィオラの手配だと納得するには十分であったが――
それで許すかどうかは別問題。
(どう判断すべき? どうするのが一番アキラの得になる?)
シェリルは考える。
ヴィオラを遺物販売店に協力させるのは得なのか。
余計な事をする前に始末しておいた方がいいのではないか?
「解ったわ。ひとまずは役に立っている、とアキラには伝えておきます」
疑念は残るものの今は保留にする事にした。
決して信用してはならない。
けれど、役に立っている間は利用する。
その匙加減を見極める事こそ、自分の仕事だとシェリルは思ったからだ。
「そうして頂戴。私も無駄に撃たれたくはないからね」
軽い調子で返すヴィオラだが、掛け値なしの本音だった。
シェリルがヴィオラに遺物販売を邪魔されたとアキラに報告すれば、言い訳なんて一切聞かずにアキラは自分を撃ち殺しに来るだろう。
別に撃たれる事自体は、ヴィオラとしては気にする程の事ではない。
面白いなら、それで死ぬのも有りかとは思っている。
けれど、駆け引きの余地もなく作業のように撃たれて死ぬ。
そんな面白味の欠片もない事は心底避けたかった。
「それにしても、わざわざこの場で確認するなんて。もし私が遺物販売店を潰すつもりだったって言ったらどうする気だったのかしらね」
勿論、ヴィオラにそんな事を言うつもりはなかった。
商人としての印象が強いカツラギではあるが戦闘能力は決して低くはないし、必要とあらば命を刈り取る事に何の躊躇いもない人種だと調べている。
(下手すると死後報復プログラムがあるなんて言う前に殺され兼ねないわ)
キャロルという護衛が居ない今、そんな危険を冒す意味などなく、これは単にシェリルをからかう為だけの発言だ。
「私がアンタを殺すだけよ」
にも関わらず――
当たり前のように物騒に返してきたシェリルに、ヴィオラは僅かに驚いた。
「確かに今日は護衛も居ないし、私は戦闘訓練も何もしてないけど、アナタだって何の訓練もしてないでしょう?」
それなら体格的に自分が有利。
そんな事をしても返り討ちになるだけよ、と暗に告げるヴィオラだが――
「ええ、そうね。十中八九返り討ちでしょうね」
シェリルは否定どころか肯定して話を続けていく。
「私がアンタを殺せるならそれが最善。返り討ちにあったとしたって、それはそれで構わないわ。そうしたらアキラがアナタを殺してくれるもの」
気負っている訳でも脅している訳でもなく。
アキラの敵を潰せるのなら自分の命を捨てるなんて当たり前でしょうに、とでも言うかのようにシェリルは静かに告げる。
(正気というか狂気ね……)
錯乱している訳でも状況を理解していない訳でもない。
(確かにシェリルが私を殺せれば死後報復プログラムの標的になるのはシェリル。アキラの被害は最小限で済む。そしてアキラが私を殺す事を躊躇わないのは前回の時に確認済み)
むしろ状況を冷静に把握し、その上でアキラの障害を確実に排除出来る手段を選んでいる。
そこに自分の保身が一切含まれていないだけだ。
(アキラの役に立てれば命なんて惜しくない、それどころか彼の心に少しでも残るなら本望だと本気で思っていそうな感じね)
頭がおかしいとヴィオラは素直に思った。
そして――
それは実に面白かった。
「アキラから私に乗り換えない? アナタの事、気に入ったわ」
ヴィオラは本気でシェリルを誘う。
それこそ代わりに金や身体を求められるなら、差し出してもいいかなくらいには思っていた。
「寝言は寝てから言って。私はアキラ一筋よ」
対するシェリルの返答は、考えるまでもないといった冷めたもの。
「そう。それなら仕方ないわね」
本心から残念に思いつつ、それでも本心からヴィオラはこの返答を喜んだ。
(ここで誘いに乗るような子なんて、つまらないものね)
これで手に入るような人間なら、そもそも欲しくなんてならない。
ヴィオラは本当にシェリルを気に入り――
(どう付き合っていけば一番面白くなるのかしら?)
だからこそ、素直に協力していく気なんて一切なかった。
(シェリルに投資した俺の勘は正しかった……)
もはや蚊帳の外の住人となって、二人の会話を聞いていたカツラギは思う。
スラムの住人にしては優れた容姿以外に何も持ってなかったシェリルが、こんな化物になると何となくでも気付いていた自分の嗅覚は大したものだと。
(ただ、ここまで鋭くなくても、いいだろうに……)
けれど、ここまでの化物に自分は関わるべきだったのか、と。
初めてカツラギは己の商売人としての嗅覚を恨んだ。
この中で一章に何か言いたい事があれば
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面白かった
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シェリルの書き方が良い
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ヴィオラの書き方が良い
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ミズハの書き方が良い