中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
修正するのが大変なので、今日は二話同時更新です。
アキラ舐められる
ミズハとヴィオラの協力が想定以上に効果を上げており、もはや遺物販売店の方は開店を待つばかり。
それでも仕事は多々多々あるものの、走り回っていた今までに比べれば随分落ち着き始めていた。
だが、それはあくまで遺物販売店の件だけであり――
徒党の方は、まるで反比例するように問題が起き始めていた。
「ボス。スマナイ。今回の新入り達の教育は駄目かもしれない……」
その日。
申し訳なさそうな顔をして、エリオがシェリルの部屋を訪ねてきた。
「エリオの方から、そういう事言ってくるのは珍しいというか初めてね。そんなに聞き分けのない人間が多かったの?」
新人教育、主に荒事向きの人間の教育は専らエリオが担当している。
というのもエリオは昔、アキラに殴り掛かり返り討ちにあった事がある。
その身をもってアキラの強さと恐怖を知っているエリオ以上に、その手の教育に向いている人間が居ないからだ。
「いや、聞き分けのなさだけなら多分いつもと同じくらいだとは思うんだが……」
「解らないわね。今回はあの映像だってあるんだし、いつもより楽なくらいじゃないの?」
あの映像とは先の事件でアキラが人型兵器を単身で倒した動画の事だ。
元々はアキラの強さを外部に広める為に作ったものだが、百聞は一見に如かずという。
口伝てにアキラの凄さを語るよりも、実際に映像で見てもらった方が新人教育も捗るだろうと思いシェリルはエリオに情報端末と共に渡していたのだ。
「その映像が問題だったんだ……」
「どういう事?」
「あまりに現実離れし過ぎていたらしくて、はったり用の作り物だって思われたみたいで誰も信じなかったんだ」
エリオの言葉にシェリルは映像内容を思い出す。
自分達と同じか、大柄な者からすれば自分よりも小さいアキラが三階建てくらいの大きさの人型兵器を蹴り飛ばす。
その後も終始圧倒し、一方的に人型兵器を叩きのめす動画だった。
「……これは私の失敗ね。迂闊だったわ」
少し前の自分が見せられていたら。
なんて改めて考えれば鼻で笑いたくなるであろう内容である。
(遺跡に行ったり攫われたり、モンスターやら人型兵器が襲ったりしてきたせいで完全に感覚が麻痺してたわね……)
現実感というのは、本人達に取って信じられるかどうかであり――
現実に起きた出来事かどうかなんてのは、何の意味もない。
そして現実感を覚えられない映像には、何の説得力もないのだ。
「おまけにそのせいで、今更何言っても大袈裟とか脅しの冗談にしか思わないみたいで……」
エリオだってシェリルが大変な事くらいは解る。
だから何とか自分だけで解決しようと出来得る限りの努力はした。
死体を引きずって別の徒党に乗り込んだ話をしたり、強化服もなしで別の徒党に単身で乗り込み皆殺しにした話だってした。
その時、アキラを殺そうとしたシェリルの徒党の人間が強化服を着ていたにも関わらず、全員返り討ちにあった事さえ包み隠さず話した。
「これ以上、俺じゃあどうすればいいか解らなくて……」
それでも新入り達の態度は変わらなかった。
そこまで脅さなくても大丈夫ですよ、なんて口だけの返事をするばかり。
エリオには解る。
いや、過去にやらかしたエリオだからこそ解るのだ。
(アレは駄目だ……)
実際にアキラを見て、自分より弱そうだなんて思ったら確実にやらかす。
その時、自分達が巻き添えを受ける可能性を考えれば、シェリルの負担になると解っていてもエリオには黙っておく事は出来なかった。
「良くない傾向ね……」
少し前のスリの件で、アキラは自分が弱く見られる事を気にしている様子を見せていた。
さすがにその程度の事で殺しはしないだろうが、それでも舐められた態度を取られれば不機嫌になるだろうし――
何よりシェリル自身、アキラを舐められるのは気に食わなかった。
「解った。私の方から注意するわ。それでも駄目なら追い出すか、始末しましょう。任せてもいいかしら?」
「この間みたいな事も考えて、戦える人間は優先して増やしたいって言ってたけどいいのか?」
徒党が大きくなってきた影響か。
確実に荒事の数は増えてきている。
前回のようにモンスターやら人型兵器が襲ってくるような事態になった場合、数だけ増えたところでどうにもならないのは解っているものの、それでも居ないよりはマシだと武力要員を積極的に増やすという方針をエリオはシェリルから聞いていた。
だからこそ、ある程度は自分で追い出す権限を持っていながら何とか追い出さずに済ませようとエリオはしていたのだが――
「アキラを軽んじる人間なんて、私の徒党に要らないわ」
シェリルに取って何より大事なのはアキラだ。
それは徒党のボスとしての判断でも個人の感情でも変わらず、アキラの邪魔になるだけの有象無象が自分の徒党に居るなんて、それだけで不快でしかない。
「文句ある?」
「ない。ある筈ない。ボスの言う通りだ」
異論なんて挟んでしまえば、それこそ自分が真っ先に追放され兼ねない。
その辺を差し引いても、自分達の居場所を脅かす事になるかもしれない不穏分子であり、それは自分と恋人であるアリシアの命を脅かす敵だ。
そんな奴等がどうなろうと知った事ではなく、エリオは即座に頷いていた。
「人を集めてくる。その間にボスも支度してくれ」
抵抗された時等の事を考え、エリオはシェリルに言われる前に万全の準備を整えようと動き出す。
「ええ、頼んだわ」
(エリオも大分、幹部らしくなってきたわね)
予想以上に板に付いた動きに、シェリルは僅かにエリオの評価を高めたのだった。
1月8日
話の順番が間違っていた為、修正しました。