中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「ぼ、ボス。頼む、俺達が悪かった……。許してくれ……」
慌てた様子のエリオに連れられ、シェリルが急いで向かった先で見たのは古参の構成員達に囲まれ銃を突き付けられている新入り達の姿だった。
「これはどういう事?」
エリオが人を集めに行こうとしてから五分と経っていない。
つまり、これはエリオの命令ではなく古参の構成員達が勝手にやったという事である。
「俺達はこいつ等とは無関係だ! 見たら解ってくれるだろう!?」
事情を聞こうと古参達にシェリルが目を向けた途端、返ってきたのは悲鳴染みた弁解の言葉だった。
何の説明にもなってなかったが、心底何かに怯えているのだけはシェリルにも伝わった。
下手に止めようとすれば、かえって引き金を引き兼ねない。
「アナタ達にもそこまでしないといけない言い分があるのは解ったわ。だから銃は下ろさなくていい。けど、私かエリオが指示するまで絶対撃ったら駄目よ」
追放か始末するつもりだった新入りより、ある程度は信用が置ける古参の構成員達の肩を持つのは当たり前ではあるが――
それ以上にボスや幹部の許しもなく、自己判断で粛清などされては組織が成り立たなくなる。
それを理解しているからこそ、シェリルは慎重に会話を進めていく。
「ああ。解った。約束する」
自分達の話をちゃんと聞いてくれている。
その事に安心感を覚えたのか、古参達の緊張が僅かに解けた。
(こっちは、これで大丈夫そうね……)
これで突然、発砲する事はないだろう。
「それで、どうしてこういう事になってるのかしら? 説明してもらえる?」
ならばとばかりに、次は新入り達の方にシェリルは視線を向けて話を促した。
「お、俺達はただ『あんなふざけた映像見せなくても、折角徒党に入れたんだから逆らったりしない』って言っただけなんだ。そしたら急にアイツ等の態度がおかしくなって――」
「そうだ! アキラさんを馬鹿にしたのはコイツ等だけだ! 俺達は関係ない!」
新入り達の会話を遮るように、古参の一人が声を張り上げる。
それは会話を遮りたいというよりは、必死で命乞いでもしているようであった。
「う、撃たないで……」
「うるせえ! 仲間面して話し掛けてくんな!」
新入り達は銃から目を逸らす事を出来ず半泣き。
古参達は、こいつ等を逃せば自分達が殺されるかもしれないと言わんばかりに、再び銃撃態勢に入るが――
「そこ、興奮しない。大丈夫。アナタ達がアキラを敬っているのは、よく解っているわ」
間一髪のところでシェリルの声が古参の動きを止める。
「あ、ああ! 俺達の中にアキラさんに敵意を抱いてるヤツなんて一人も居ない!」
必死で叫ぶ古参の姿に、どこか懐かしさを覚えつつ、シェリルは大体の事情を把握した。
(要するに、新入り達の仲間とか同類に見られるくらいなら、始末した方がマシだと思った訳ね……)
恐らく新入り達としては、アキラの愚痴でも言いながら仲良くなろうとでも思っていたのだろう。
だが、相手があまりにも悪過ぎた。
荒事担当予定の新入りの面倒を見るのだから、当然だが古参達も荒事担当の戦闘員であり、先の遺物販売店の倉庫の警備に参加してたのだからアキラの強さをその目で確認している。
おまけにアキラが皆殺しにした徒党の死体処理に参加していた。
ついでに言えば、アキラを脅して殺されたワタバの現場に居たくらい古くから徒党に在籍していた者も居り、アキラの狂気とも言える行動を本当に目の前で見せ付けられているのである。
一緒になって愚痴を言い合うなんて選択肢などある筈もなく、むしろ絶対に巻き込まれて堪るかと必死になる方が自然であった。
「た、頼む。そんなにヤバイ奴だなんて思ってなかったんだ。もう舐めた事は言わない。徒党から出てけって言うなら出てく。だから殺さないでくれ……」
さすがにこの状況になれば、新入り達も嫌でも理解出来たようだ。
後ろ盾のアキラという人物が、トンデモなくヤバイ人間だという事くらいは。
(映像に対しては半信半疑どころか、今でも疑ってるってところね)
大方、あんな作り物の動画を作ってでも自分を強く見せなければ気が済まない。
少しでも舐めた態度を見せれば、無差別に銃を乱射する危ない人間辺りを想像しているのだろう。
(どうしようかしら……)
シェリルの正直な感想を言えば不愉快極まりない。
始末したいとまでは思わないが、さっさと追い出してしまいたいというのが本音だ。
けれど、これからの事を考えると、多少の跳ねっ返りに目を瞑ってでも武力要員は多く居た方が良いのも事実。
そして、勘違いから来る恐怖とはいえ今後はアキラを軽んじたりはしないようには思える。
「エリオ。任せてもいいかしら?」
今ならエリオの手に負える範囲には、なった気がする。
そう判断したシェリルは、駄目押しとばかりにあえてエリオに尋ねた。
「ああ、解った。任せてくれ」
ここでエリオが頷かなければ、新入り達は良くて追放。
悪ければ、このまま殺されていただろう。
「あ、ありがとうございます! ボス、エリオさん!」
その辺りを解らせ、エリオがより教育し易くなるようにシェリルが仕向けた事に気付けた者は居らず――
けれど思惑通り、新入り達はエリオに命を救われ事だけは理解して。
「アナタ達もそれでいいわね?」
「あ、ああ。俺達はアキラさんを敵に回す気はないって解ってもらえさえすればいいんだ」
古参達も自分達が面倒を見ないで済む事に胸を撫で下ろし。
この事件は幕を閉じた。