中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
あれから数日の時が流れ――
(明らかに何か仕掛けられているのだけは間違いないわ……)
シェリルは一人、自室で頭を悩ませていた。
(こうも立て続けに問題が起きる筈がないもの……)
それというのも、この間のような事件が徒党内で続いて起きているからだ。
(最初は予想以上に増員が多いのが原因かと思ってた……)
二大徒党が消滅した結果、行き場を失った者が多く出た。
その何割かが、遺物販売店を開こうという景気の良い話をしているシェリルの徒党に加わろうというのは極めて自然な流れだ。
そして、そこまで希望者が多いと制限していても想定以上に加入する人間を増やさずには居られなくなる。
そうしなければ、加入出来なかった人間の数だけ治安悪化に繋がっていくからだ。
(人員も増えてきてる上に、最近は遺物販売店の方に力を入れていたせいで、徒党の管理が甘くなっているのかもしれない、なんて軽く考えていた私が甘過ぎたわ……)
だからシェリルは、当初は仕方がないなんて思っていた。
(新入りと古参との間での仕事や待遇に対する不満からの軽い争い、女を取り合って殴り合い、エリオが止めたみたいだけど銃を抜いた者も居たらしいわね)
事件そのものが些細な出来事だったのも軽視に拍車を掛けていたのだろう。
大体はシェリルが出向かなくても勝手に終息して、こういう事があったと報告される程度だったのもあり、深刻に考えられなかった。
それでも事件は立て続けに起こり続けて、何かがおかしいと思っていた矢先――
(食事を与えていたスラムの子ども達に、食中毒のような症状が起きた……)
その瞬間、シェリルの中で何かしらの工作が自分の徒党に行われているのは決定事項となった。
スラムの子ども達に出来るだけ良い食事と勉強を、というのは数少ないアキラ直々の指示だ。
これだけは遺物販売店の方でどれだけ忙しくなろうとも、シェリルは視察に徹底的に力を入れていたし――
自分の手が回らない時は、数少ない幹部であるアリシア達を付けてでも、管理を怠る事はなかった。
それなのに問題が起きたのだ。
(許さない……)
シェリルは静かに事態の把握に努めつつ、それでも怒りに燃えていた。
(絶対に許さないわ……)
アキラ直々の命令の割には、アキラがこの事を気に掛けているようには思えない。
服や靴を買ってくれた時に面倒な事を頼んだから、と少し触れていたものの適当な理由付けに使っただけなのは態度から解った。
けれど、シェリルからすれば、だからどうしたという話でしかない。
アキラが直々に自分に頼んだのだ。
アキラ自身が大して気にしてなさそうだろうが、全力で挑む事に何の躊躇いが必要だというのか。
徒党の中には、そんなところに金を使う余裕があるなら、自分達の待遇をもっとよくしてくれよという不満の声が、表立ってこそないものの確かに存在している事も知ってる。
それとなく幹部であるアリシアが、どうしてこんな事に拘っているのかと探りを入れてきた事もある。
それでもシェリルは、この件に付いては一切の妥協をしなかった。
本当に出来るだけ上の食事を目指し、自分に余裕がある時は自ら勉強を教え、アキラからの指示だなんて一切匂わせる事もなく頑張り続けた。
(これが一番、褒めてもらえる可能性があったのに……)
シェリルは少しずつではあるものの、アキラという人間を確実に理解し始めている。
過去にアキラが人を褒めたり認めたりするような事を言ったのは、シェリルが知る中では二回。
遺物収集を手伝った時と、アキラの悩みの解決にルシアが応えた時だけ。
(アキラは自分からの頼み事や悩み事に成果を上げた時は、ちゃんと認めてくれる……)
気に入ってもらう為に、こちらから何をすればいいかは今でも解らない。
けれど、後ろ盾だから自分の頼みを徒党の者達が聞くのは当たり前だなんて考えず、頼みを聞いてくれた相手には、ちゃんと感謝してくれる。
そのアキラが自分では無理難題と言っていた頼み事を、自分が失敗もせず完璧にこなす事が出来れば、どれだけ褒めてくれるのか。
よくやった、と頭を撫でてくれるかもしれない。
それどころか、もう一度抱き締めてくれるかもしれない。
(そんな事ないとは解ってる……)
それでも万が一、なんて夢を見ていた。
数少ない希望の一つであり、生き甲斐と言ってさえいいものだった。
(必ず後悔させてやるわ……)
その淡い期待は砕かれた。
アキラに出来る報告は、失敗してしまったという情けないものだけ。
(その為にまずは――)
シェリルの怒りは深く重く――
だからこそ確実に犯人を追い詰めるべく、動き始めたのだった。