中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

20 / 138
少年義体の工作兵

「あんな態度取ってボス舐められないかな? ボスって綺麗だけど戦えなさそうだし心配……」

 

 最近、徒党内では問題ばかり。

 

 それに対してボスであるシェリルが取った対応は、全ては自分の管理不足だと部下達全員に頭を下げる事だった。

 

 先の言葉は、それを聞いたある新入りの少年の反応である。

 

「馬鹿! 死にたくないなら滅多な事を口にするな」

 

 それを聞いた古参の一人は、慌てて少年の口を塞いで辺りを見渡す。

 そして、誰も聞いてない事に胸を撫で下ろすと話を続けた。

 

「お前はアイツ等みたいにアキラさんを馬鹿にしたような事言わなかったし、仕事だって真面目にやってるから俺も面倒見てるんだ。変な事言うならアイツ等みたいにお前だって見捨てるからな」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いいか。アキラさんに殺されたくないなら、絶対にボスに手を出すんじゃないぞ」

 

 これだけは絶対に忘れるな、と古参は少年に強く言い聞かせた。

 

 ここまで古参が強く念押しする理由は、古くから徒党に居る者達の中に一つの共通の仮説があるからだ。

 

 それは、アキラ本人に手を出すよりも、シェリルに手を出した方が危険だという事だ。

 

 というのも――

 

 アキラに殴り掛かったエリオは今では幹部だし、アキラから金を盗んだルシアだって殺されていない。

 

 だが、シェリルを攫ったハンターは全員皆殺しにされたと聞いてるし、同じくシェリルを人質にしたゼブラ達も一人残らず殺された上、唆した徒党まで壊滅させられている。

 

 この事から古くから徒党に居る者の中では、シェリルがアキラのお気に入りであるというのは疑う必要もない程の常識であり――

 

 あのアキラにそこまで気に入られているなんて、やはりボスは凄い人間なのだと畏敬を集める結果を生んでいたのだ。

 

「ボスに呼ばれているから少し離れるけど、サボるんじゃないぞ」

 

 最後に新入りに軽く注意をして、古参は言葉通りボスであるシェリルの元へと向かう。

 

(ちきしょう、どうなってやがる……)

 

 一人になった新入り少年は、真面目に掃除の仕事をこなしつつも内心では酷く焦っていた。

 

 先程までの古参との及び腰な応対と違い荒々しい雰囲気であるが、こちらこそが少年の皮を被った男の本性である。

 

(普通、上があんな対応をすれば舐められて反乱でも起きるもんだろうが……)

 

 見た目こそ貧弱で大人しそうな少年の姿をしているが、男の実年齢は三十を超えていた。

 

 その弱々しい子どもの姿は全身を義体化して作り出した物であった。

 

(何なんだよ、この掌握力は……)

 

 義体男は別の派閥からの依頼を請け、シェリルの派閥の内部崩壊を目論み侵入していた。

 

 先程のシェリルに対する感想のような言葉も、その一環であり――

 襲えば簡単に倒せそうだぞなんて、それとなく反乱を促したつもりだったのだ。

 

 けれど――

 

(話に乗って来る気配すらねえ……)

 

 それどころか、軽口さえ許されない空気が漂う始末。

 はっきり言って異常としか言えない統率力である。

 

(さすが有力勢力の一つってか? ガキばかりだと思って舐め過ぎてたかもしれねえな……)

 

 義体男は、わざわざ自分に依頼が来たのか大体の事情は推測出来ている。

 

 先の抗争による二大徒党の消滅により、現在、スラムに最大勢力と言えるような徒党は存在していない。

 

 同等の中堅勢力が点在し、隙あらば自分達こそがスラムを牛耳ろうと水面下で牽制し合っているような状況だ。

 

 そんな中、一気に成り上がり巨大勢力に成り兼ねない徒党があった。

 それこそがシェリルの徒党である。

 

(本来なら吹けば飛ぶような弱小徒党でしかない……)

 

 他の中堅徒党、例えばシジマの徒党に比べればシェリルの徒党は治めている縄張りも狭く、構成員だって決して多くはない。

 

 おまけに、ただでさえ少ない構成員も全員が年端もいかない子ども。

 

 単純な規模だけで見ればシェリルの徒党は、間違いなく下から数えた方が早い有象無象の徒党と言える。

 

(だが、あの規模の遺物販売店を動かすとなると話は別だ……)

 

 遺物販売店を経営しているスラムの徒党だけならば、それ程珍しい事ではない。

 先程挙げたシジマの徒党だって小規模なものを経営している。

 

 けれど、逆に言うなら中堅級のシジマの徒党で小規模の遺物販売店の経営が、やっとなのである。

 

 シェリルが始めようとしている遺物販売店には、既に相当多くの商人が関わっており規模は相当大きいものになるだろう。

 

 しかも、商人達を省けば一番の中心はシェリルという事になる。

 

 この遺物販売店が成功すれば、スラムの勢力図が一気に塗り替わってもおかしくはない。

 

(おまけに三十億オーラムの賞金首を撃退した上に、二大徒党に喧嘩を売ったのに生き残ったハンターが後ろに居やがる……)

 

 そして、もう一点がアキラという後ろ盾の存在だ。

 

 高額の賞金首を撃退したという点だけ見ても、個人なんて単位で考えられない凶悪な戦力という扱いなのだが――

 

 スラムで恐れられているのは、むしろ後者。

 アキラが二大徒党に喧嘩を売った話の方であった。

 

(もし雑魚が二大徒党の抗争に割って入ったなら、真っ先に殺される……)

 

 雌雄を決する規模の抗争に単独で横入なんて、誰がどう考えてもどちらの徒党も舐めきった行為でしかない。

 

 そんな人間を無視すれば、抗争に勝ったとしても面子は丸潰れ。

 

 余程邪魔にならない限りは、どちらの徒党からも最優先で狙われ殺される筈だ。

 

(だが、アキラは生きて帰ってきやがった……)

 

 アキラが戦いから離脱した後も戦いは続いていたから、少なくとも二大徒党を相手取る程の力はなかった。

 

 けれど、アキラを優先すれば抗争に影響が出る。

 だから仕方ないから見逃すしかなかった。

 

 そう思われるくらいには奮戦したのだろう、というのがスラムに居る多くの者達のアキラの評価であった。

 

(確かに、あの映像を見ればそのくらいは出来そうではあったしな……)

 

 義体男も他の新入り達と同じように、アキラが人型兵器と戦う映像を見ていた。

 

 そして、他の新入り達とは違い、アレが作り物なんかではなく実際にアキラが戦う映像を記録した物だという事は一目見ただけで理解している。

 

 ――もっとも、他の新入り達に作り物だと誤解させるよう仕向けたのは義体男であったが。

 

(だからこその俺への依頼だってのは解っているが、請けたのは失敗だったか?)

 

 義体男が依頼主に求められている役割。

 

 それは、反乱など内部のいざこざによる自滅で、誰にも工作を気付かれる事無くシェリルの徒党を消滅させる事だ。

 

 あくまでシェリルの統治が行き届かない結果の自滅でなければならない。

 そうでなければ、アキラが出てくるのは確実だからだ。

 

(もし手を出したなんて知れたら必ず報復にやってくるだろうからな)

 

 二大徒党が相手でも怯まなかったのである。

 今更、中堅級の徒党相手に怯む理由も見逃す理由も一切ない。

 

 そして、過去にシェリルの徒党を唆した者達の末路は知れ渡っている。

 

(交渉の余地もなく殺されるだろうな……)

 

 バレた時、最初の犠牲者は間違いなく自分になる。

 義体化しているにも関わらず、男は背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

 

 その時だった。

 

「真面目にやってるトコ悪いが、ボスが呼んでるからすぐにボスの部屋まで行ってくれ」

 

 少し前にシェリルに呼ばれているからと席を外した古参が帰ってきた。

 しかも義体男的には、相当にマズイ言伝と共に。

 

「え、僕をですか?」

(まさかバレたのか?)

 

 義体男は内心の動揺を全く出さず、それでも新入りが突然ボスに呼ばれたに相応しい演技で応対する。

 

「お前をっていうか、最近問題起こす新入り多いだろ? だから一人ひとりボスが直接話してるんだってよ。ほら、掃除変わってやるから急げよ」

 

 古参の方も義体男がシェリルに呼ばれた事に疑問があったのだろう。

 

 理由を説明しつつも、今更、新入りの掃除の仕事をやらないといけない事に対する面倒臭さが見え隠れしていた。

 

「解りました。それじゃあ、その、お願いします」

 

 本当にバレているなら、無理やりにでも連れていこうとする筈。

 何より古参の言葉にも態度にも演技の様子は見えない。

 

 それならば下手に拒否した方が目を付けられて、後で面倒な事になる。

 

 そう判断した義体男は、仕事を押し付ける形になって申し訳ないという態度を滲ませて、シェリルの部屋へと向かうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。