中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

23 / 138
三章 中立ではなく――
アキラ動く


「ああ、いいよ。元々無理難題だと思ってたし。出来るなら頑張ってくれればいい程度のものだったから」

 

 シェリルからスラムの子ども達への食事の件で失敗してしまったという報告を通信で聞かされたアキラは、そういえばそんな事も頼んでいたなと言われて思い出し――

 

 本当に心の底から、どうでもいい気持ちでそんな言葉を返していた。

 

「ち、違います。本当に簡単な事だった筈なんです」

 

 けれど、その態度は情報端末越しでは突き放して聞こえる程に、冷たく伝わってしまったらしい。

 

 シェリル自身、その程度でいいならと自信満々に答えていたのに失敗したという負い目の影響もあるのだろう。

 

 慌てて事情を説明し始める。

 

「要するに、そいつが邪魔したせいで失敗したって事でいいのか?」

 

 シェリルから話を聞き終えたアキラは、そう結論付けた。

 

 そして、これは後ろ盾である自分が出なければならない案件ではないかと考え、無意識のうちに雰囲気が戦闘時のものへと切り替わっていく。

 

「は、はい。邪魔さえ入らなければ絶対に失敗なんてしませんでした」

 

 鋭さを増したアキラの声に慌てて言葉を返すシェリルだが、そこに言葉以上の意味などある筈ない。

 

 あくまで自分は全力でアキラの願いに応えようとしており問題もなく、失敗したのは義体男のせいだという事を伝えたかっただけ。

 

 アキラの手を借りたいなんて微塵も思っていなかった。

 

「解った。始末してくる」

 

 けれど、アキラはわざわざ自分に連絡してきた以上、そういう事なのだろうと解釈した。

 

 無駄に時間を掛ければ探すのが面倒になるだけだと思い、通信を終える。

 

『アキラ、いいの? シェリルは別にその男を始末してほしいとは思ってないわよ』

 

 そこでアルファが話し掛けてきた。

 アルファはアキラと違いシェリルの意図を完璧に把握出来ている。

 

『え、そうなのか?』

 

『ええ。自分達で対処出来たから、わざわざアキラの手を煩わせる必要はないって伝えたかったんだと思うわ』

『ああ、そういう事か……』

 

 だから最初は義体男の事を話さなかったのかと納得したアキラだったが、今更勘違いだったと連絡するのも何か変だし――

 

『どうでもいい事だけど、俺が頼んでいた事を邪魔したのは事実だからな』

 

 追う理由はあれど、見逃す理由はない。

 丁度暇だったのもあり、義体男を仕留める事に決めた。

 

『アルファ。居場所は解るか?』

『解る、けど。どうしてもやらないと駄目かしら?』

 

 早速アルファに義体男の居所を尋ねたアキラだが、どうも様子がおかしかった。

 

『どうしてもって訳じゃないけど、こういうのって最初に倒しておいた方がいいんじゃないのか? 仕掛けるだけ仕掛けて逃げたら手を出してこないって解ったら、こういう事増えるだけな気がするんだけど……』

 

『まあ、その通りね……』

 

 自分が他に気付いてない事でもあって、実は追わない方がいいのかとも思ったが、そんな事でもないらしい。

 

『何か都合の悪い事でもあるのか?』

 

 アキラとしては別に、そこまでして倒したいという程でもなかった。

 

 だからアルファから納得出来る理由を提示されれば、急用が出来たとシェリルに連絡して止めていただろう。

 

『その、悪いって訳じゃないんだけどね』

 

 アルファは気まずそうに言葉を濁しつつ、けれど聞かれたからには答えないといけないといった様子で渋々と事情を告げる。

 

『……標的の近くにカツヤが居るのよ。下手すると鉢合わせし兼ねないわ』

『アイツかあ……』

 

 それだけでアキラはアルファのおかしな態度を全て納得出来た。

 

 カツヤとは遭遇する度に問題ばかり起きる。

 それもアルファが顔をしかめたくなる程の大事になってばかり。

 

 挙句の果てに半分くらいはアキラ自身の態度が原因なのもあり、アルファが渋るのも当然とさえ思いはする。

 

(だからって、それで止めるのもなあ……)

 

 それで避けるのは変に意識しているみたいだし、逃げるみたいで何かが嫌だった。

 

『近くに居るだけだし、問題を起こさなければいいんだろ?』

 

 結局、アキラは当初の予定通り義体男を仕留める事に決める。

 

『解ったわ。アキラがそう決めたなら私も協力する。でも絶対に問題を起こさないで冷静に対処するのよ?』

 

 念を押すようにアルファが告げるが、アキラはすぐには応えられない。 

 

 アキラ自身、言われなくても気を付けるつもりであったが、それでもカツヤとは馬が合わない上に、自分が運の悪い人間だという自覚もある。

 

 何か想定外の事態が起きた時、問題を起こさずに済ませる自信がない。

 

『……善処する』

 

 僅かに考え、それだけ返した。

 

 それがアキラに出来る精一杯の約束であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。