中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「ぜ、全部僕が悪いんです! もうしません! 命だけは助けて下さい!」
案の定、面倒臭い事になっていた。
義体男はアキラとカツヤ達に丁度挟まれるような位置に立ち尽くし、カツヤの方を見る余裕さえないといった態度で必死でアキラに命乞いをしている。
(じょ、冗談じゃねえ! あんなので撃たれたら義体だろうが一撃でお陀仏だ!)
今回は徒党の時と違い、少年の振りこそ演技ではあったが、怯え自体は演技の必要など一切なく心の底から恐怖していた。
というのも、だ。
「……」
アキラは義体男に照準を合わせて銃を構えている上に、使っている銃もシェリル達が持っていた対人用の低火力の物ではない。
モンスター用、それも大物狩り用の大型銃であり、しかも威力を底上げする改造が施された物だ。
別に義体男を倒す為に、わざわざ持ってきた訳ではない。
というのもシェリルの連絡を受けたのが外であり、装備を取りに戻る暇も惜しんで急いで義体男の元へと駆け付けたからだ。
(こんな事になるなら他の銃も持ち歩いておけばよかったか?)
軽い用事で街をうろつく時、アキラはわざわざ小銃を持ち歩かない。
街中で銃撃戦なんてすれば警備に目を付けられるし、多少の揉め事程度なら強化服の戦闘力だけで十分お釣りが来るからだ。
それでも大型の銃を持ち歩くのは、単に威嚇の為。
素人目に見ても解る程に強そうな武器を持ち歩けば、舐められて無用なトラブルが起きる可能性が減る。
ただ、それだけの為にアキラは大型銃を持ち歩いていたが――
それでも使う事態が起きれば、躊躇しないのがアキラという人間だ。
「その子だって反省してるみたいだし、何とか穏便に済ませられないか?」
それなのに構えるだけで、未だ銃が火を吹かない理由がカツヤである。
対人用の小銃なんて豆鉄砲にしか思えない義体男が、一発でも撃たれれば死を確信する威力の銃だ。
当然、義体男に着弾した瞬間に弾が消滅してくれるなんて都合のいい事はなく、貫通してその先まで飛んでいく。
カツヤはそれを理解し、あえてアキラと義体男を結ぶ直線の延長線上に立っていた。
『アキラ。絶対に撃ったら駄目よ』
『解ってる……』
カツヤの意図は明白だ。
その子を撃つなら俺諸共になる。
さすがにそうなれば俺も口だけで済ませないぞ。
という脅しの為の立ち位置だ。
そしてカツヤの方も完全装備ではないとはいえ、強化服も着てるし銃も持っている。
後ろにはユミナとアイリも居る。
戦闘になるのは、アキラとしても絶対に避けたかった。
「ちょっと食事に薬を入れてくれればお小遣いをくれるって。少しお腹を壊すくらいだって言われたから、そのくらいならって! ごめんなさい! 殺さないで!」
膠着状態の中、義体男が同情を引こうと叫ぶ。
事実ではない。
だが、掛け離れているとも言い難い内容にアキラの気が逸れるなり、その程度で殺されるのは哀れだとカツヤ達が庇いに来てくれる事を期待しての事だったが――
義体男がカツヤ達の方へ少しでも近付こうとした瞬間、アキラの銃が火を吹き、義体男のすぐ傍の地面が爆発した。
「少しでも動けば撃ち殺すし、近寄るならそいつに味方したとして容赦しない」
アキラは決して義体男から目を逸らさず、カツヤ達の動きにさえ気を配る。
もう二度と隙を見せて人質なんて取らせはしない。
過去の手痛い教訓をアキラは無駄にする事なく、確かな糧へと変えていた。
「確かに今回はその子が悪い。けど殺すのまでは、やり過ぎだ」
前回と違い、誰が悪いかは明らかだ。
さすがにカツヤも諸手を上げて義体男を庇う訳にもいかず、何とか会話で落としどころを探り穏便に済ませようとする。
だが――
(何が今回は、だ……)
余計な一言がアキラの琴線に僅かに触れてしまった。
前回のスリの件だって俺は悪くないだろう。
そんな気持ちがアキラの心を泡立たせていくが――
『駄目よ! 止まって、アキラ!』
「待って! 話し合いましょう!」
漏れ出した殺気に気付いたアルファとユミナの声が同時に響いて、何とかアキラは落ち着きを取り戻す。
「……もし、仮に、だ。そいつの言っている言葉が全て事実だったとして――」
そして、会話だけでカツヤを納得させようと試みる。
「実は渡されていたのが強力な毒薬だったとしたら? それを自分か護衛対象が口にしていたら? そう考えても、お前はそいつを許せって言うのか?」
「それは――」
アキラに護衛対象と言われ、カツヤの脳裏に真っ先に浮かんだのはシェリルだった。
そしてアキラの言い分がカツヤを黙らせる為の誇張や脅しではなく、十分に在り得る事なのを理解して言葉に詰まる。
「知らなかったから悪くない、俺だって騙されてただけなんてのは通用しないんだよ。解ったら退け」
先程僅かに苛々させれらたものの、それでもアキラは自分でも不思議なくらい落ち着いて対応出来ていた。
確かにカツヤの事は気に入らない。
変に自分に突っ掛かってくる上に、ルシアの時は事情も真面に聞こうとせずに犯人扱いしてきた失礼極まりない人間だ。
けれど、アキラ自身は気付いていなかったが――
見ず知らずの相手にも関わらず、当たり前のように助けようとする感性は決して嫌いではなく、羨ましくさえあったのだ。
――もっとも、じゃあ何で俺だけは助けるどころか無条件で悪人扱いなんだよ、という気持ちもカツヤへの苛立ちの理由の一つではあったのだが。
だからこそ、カツヤが変な敵意を向けて来ない限り――
アキラも本当に穏便に済ませたいと思っていた。
「それじゃあ俺達の方で責任もって、その子を警備に引き渡すんじゃ駄目か?」
そして、それはカツヤの方にも伝わっており、二人にしては珍しいというか奇跡とも言える確率で交渉だけでお互いの落としどころを探り合う。
「……そいつの言ってる事が全て事実だったらって言っただろ? こいつがやったのは、そんな低次元の事じゃないんだ」
予想外に静かに事が進む中、アキラはそれ以上の事情を説明するか迷う。
『子どもみたいな見た目は、全部義体で作った偽物だって伝えた方がいいと思うか?』
『やめときなさい。疑われて拗れるだけよ』
『だよなあ……』
シェリルの話からアルファが推測して、アキラは義体男が少年の姿をしているだけで、実際は見た目とは掛け離れた人間なのは、大体理解していた。
けれど、もしアルファが居なければ信じなかったかもしれない。
それ程までに義体の作りは精巧で、演技も卓越したものであり、どこからどう見ても何の力も持たない子どもにしか見えなかった。
(どうする?)
このまま膠着状態を続ければ、騒ぎを聞き付けた警備が来る。
その場合、問題を起こしたアキラ達と義体男に、警備がどのような処分を下すかがアキラには予想出来ない。
仮に自分に何もお咎めがなかったとして、義体男の処分も相当に軽いものになる可能性も否定出来なかった。
『ここで逃がすとアルファでも捕まえられないんだよな』
『絶対に無理とまでは言わないけど、姿とか変えられたら、ほとんどお手上げね』
仕留めるなら、やはり逃がす訳にはいかない。
だが、この手の工作行為でもアキラが出張ってくると証明出来ているんだし、ここで見逃すという道もあるんじゃないのか。
しかし、これで見逃してはカツヤを恐れて引いたように傍目には映るかもしれない。
そうすればまたスリの時のように侮られる原因になるんじゃないか?
アキラは悩む。
「これは、どのような状況でしょうか?」
動けないアキラの代わりに場を動かしたのは、新たな人物の参入であった。
「差し支えなければ、お聞かせ頂けませんか?」
レイナとカナエを連れたシオリが状況の説明を求め、アキラの方をじっと見詰めていた。