中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
不本意な格闘戦
「早くボスに知らせろ! アキラが来たぞ!」
結論から言うと、アキラは何も思い付かなかった。
なので入口から堂々と入り、自分に銃を向けてきた人間を片っ端から殺していこうと思っていたのだが――
お誂え向きに、アキラが拠点に入るなり構成員達が戦闘態勢を取る。
『さすがに前みたいにボスのとこまで案内されたりは、しないか』
『そりゃそうよ。前の事件が知れ渡ってるんだし、こうなる事はアキラも予測してたでしょう?』
『まあな』
あくまでアルファはサポートも助言もしないだけらしい。
半ば独り言のようなアキラの言葉に答えたアルファを少し意外に思いつつ、まるで虫でも払うように簡単にアキラが構成員を殴り飛ばして始末していくが――
アキラは、現時点で盛大に失敗したと思っていた。
(こいつらっていくら倒しても弾代にならないんだよなあ……)
というのも義体男を追っていた時のままの装備で来ており、強化服以外には手元には大物狩り用の大型銃しかない。
別に使えないという訳ではないが、弾の費用は小銃とは比較にならない。
かといって弾数も解らなければ使い慣れてない相手の銃を奪って戦おうという気も起きず、不本意ながらアキラは敵を全員殴り殺していく羽目になる。
――小銃さえ持ってきていれば絶対に取らなかった戦術だろう。
「きょ、強化服を着ているだけで頭は生身だ! 当たれば殺せる! 怯むな!」
ただ全く失敗かというと、そうでもなかった。
銃も使ってない相手に手も足も出ず、一方的に仲間が虐殺されていく光景が与える恐怖は並みではない。
事実、何割かの構成員が既に戦意を失い掛けていたのだが、それに気付いた幹部構成員の叫びが周りを鼓舞する。
「相討ちなんて恐れるな! どうせ殺らなきゃ、こっちが殺されるだけだ!」
そして、殺さなければ自分達が皆殺しにされだけだという悲痛の声が、崩れかけていた構成員達の士気を高めた。
何もせず殺されるくらいなら、少しでも生き残れる可能性に賭ける。
相討ちになっても構うものかと、構成員達の銃口が一斉にアキラに向く。
もし相手の姿が見えてさえいれば、時間を圧縮して感じる事が出来るアキラなら避ける事は容易かっただろう。
だが、敵が相討ちすら恐れなければならない状況とは、最低でも挟み撃ち。
今回はそれ以上に悪く、四方八方を取り囲まれているような状態だ。
全ての敵を自分の目で視認出来る訳もなく、情報端末越しでは引き金を引く瞬間までは解らない。
そのまま撃ち込まれれば、万が一でも頭に当たる可能性はあった。
けれど――
(させるかよ!)
撃たれるよりも早く、アキラが跳躍する。
溜めもなく軽く跳ねたようにしか見えない動作にも関わらず、一瞬で天井に到達したかと思うと、天井を腕で押し方向を変えて急降下。
突然の立体的な動きに即座に対応出来る訳もなく、アキラに狙われた構成員が死体へと変わる。
それは人型兵器と戦った経験が生んだ動きであった。
普段相手にするモンスターは、基本的に大体水平方向に撃てばいい。
けれど巨大だった人型兵器に対しては、いつもより高い場所を狙わなければならない場面も多くあり、慣れない射撃角度にアキラは少し違和感を覚えた。
その記憶を思い出し、ただ単純に速く動くだけでなく立体的な動きを加えてみたのだが――
効果は絶大。
室内を縦横無尽に飛び回るアキラを捉えられる者は居らず、もはや真面にアキラに照準を合わせる事さえ出来ないまま構成員達が血煙にされていく。
あっという間に全ての構成員を死体に変えたかと思うと、何の感慨も見せずにアキラは階段の方を見る。
『ボスは上だろうな』
拠点は二階建て。
まさか今倒した連中にボスが混じっていた訳ないだろうし、上で他の仲間達と共にアキラを迎え撃とうと待ち伏せしていると予測して、アキラは気合を入れ直す。
『待って、アキラ』
とりあえず敵も居ない事だし、落ちている銃でも拾って試し撃ちしてから持っていこうかとアキラが考えていると、アルファから静止の声がする。
『もしかして銃に罠でも仕掛けられてるのか?』
多少の不手際はあるものの、それでも結構上手くやっている。
そう思っていたアキラは、アルファの静止の声が銃を持っていく事を咎めるものだと判断した。
『いえ、そうじゃないわ。アキラには何の問題もないし、このまま任せても大丈夫だとは思うんだけど――』
『けど?』
『これは伝えておかないと、後で知ったらアキラは気にするんじゃないかと思ってね』
けれど、問題は別にあったようだ。
アルファから上の階での出来事を聞かされたアキラは、僅かに悩む。
『今の調子でやれば、どうなるとアルファは思ってる?』
『アキラ以外は全員死ぬでしょうね』
それは制圧だけなら問題なく出来るという事。
だが、上で起きている問題は解決出来ないという事であった。
『それなら――』
アキラは別の制圧方法を提案する。
言葉とイメージで伝えられたその提案を聞くと、アルファは少し感心したような顔を見せると頷いた。
『多分、大丈夫だと思うわよ』
『多分、か』
『さすがに不測の事態が起きる可能性までは私にも解らないからね』
『つまり不測の事態が起きなければアルファの予測では問題ないって事か』
それならアキラに迷う必要などない。
早速、その制圧方法を実行する事にした。