中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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血の雨降って色々固まる

「悪い、やり過ぎた」

 

 そんな言葉から始まったアキラの通信に従い、シェリルは部下を引き連れ指示された場所へと赴いたのだが――

 

 そこで見たのは瓦礫の山だった。

 

「お、俺、知ってるぞ。この間までここに結構大きい規模の徒党があったんだ……」

 

 アキラを侮る発言をして、古参から殺され掛けていた新入りが震える声で拠点があった場所を指さす。

 

 先程もいったが廃墟どころではない。

 

 どんな建物だったのかも想像出来ないくらい文字通りバラバラな姿に、シェリルの表情が僅かに引き攣った。

 

「ず、随分と派手にやりましたね?」

「いや、壊すつもりはなかったんだが殴ってたら壊れた」

 

 シェリルの問いに、アキラは少しバツが悪そうに答えた。

 

 本当に壊すつもりはなかったのだ。

 

 ただ――

 建物にだって耐久力があり、それを超えれば壊れるという観点が抜けていただけ。

 

『気付いてたなら教えてくれたって良かっただろ?』

 

『それを学ぶのも勉強だと思ってね。それに敵の制圧は出来た訳だし、アキラ自身が何か窮地に陥ったりもしなかったじゃない』

 

『そりゃあそうだけどさ……』

 

 反論しようもない程、アルファの言い分は正しい。

 

 けれど、どこか騙されたような気分があるのも拭いされない事実で――

 納得出来ないとばかりの態度をアキラは取ってしまう。

 

「悪いんだけど、前と同じように片付けといてくれるか?」

 

 とりあえずアルファと言い合っていても仕方ない。

 そう感じたアキラは、シェリルに事後処理を頼もうとした。

 

「これを、ですか……」

 

 だが、シェリルは顔を更に引き攣らせただけで即座には頷けない。

 

 こんな物、どこからどう処理すればいいか解らない。

 かといってアキラからの頼みを、無理ですなんて断りたくはなかった。

 

「お困りのようだな」

 

 そこに部下を引き連れて、男がやってきた。

 

 シジマだ。

 

 中規模の徒党のボスであり、遺物販売店を通してシェリル達とは協力関係にある相手だった。

 

「事後処理は全てこちらで請け負おう。ないとは思うが、その瓦礫の山から使える物が出てくれば全てそちらに引き渡す。どうする?」

 

 シジマの提案はシェリルに取って都合の良過ぎるものであった。

 シェリル側には得しかなく、逆にシジマが一方的に損するだけのもの。

 

「何が狙い?」

 

 迂闊に頷けば代わりに何を求められるか解らない。

 慎重にシェリルはシジマの様子を窺う。

 

「なあに、実は今回の件はこちらにも落ち度があったもんでな……」

 

 シジマは都合の悪い事も含めて、全て包み隠さず話していく。

 嘘や隠し事が後でバレた方が、遥かに厄介な事になると知っていたからだ。

 

「アキラが出張ってくればどうにもならない。だから工作員を仕向けようって噂を、小耳には挟んでいたんだよ」

 

 情報というのは何よりも大事だ。

 だからこそ、シジマもその情報自体は掴んでいたのである。

 

 だが先の二大徒党の襲撃で多くの部下を失った上、シェリル達と共同で行う遺物販売店での仕入れや自分に有利な立ち位置を確保する為の工作。

 

 シジマには、あまりにやる事が多かった。

 

「だが、工作員ったって喧嘩を売る事には変わらねえ。まさか、そんな馬鹿をする間抜けは居ないだろうと本気で調べちゃいなかった」

 

 そして油断もあった。

 

 あの二大徒党に喧嘩を売ったアキラが後ろ盾をしているシェリルの徒党だ。

 

 今更ちょっかいを掛ける馬鹿なんて居ないだろうという思いから、噂の調査にあまり力を入れてなかったのだ。

 

 そのせいで最初に聞いた噂以降、何の情報も入らなかったのもあり半ば忘れ掛けていた。

 

「そしたらこれだ。どうやら本当に工作員が送り込まれていたらしいじゃねえか。それなのに不確かな情報だからって、そっちに伝えなかったのは同じ遺物販売店を経営する協力者として申し訳ないと思ってな」

 

 そんな時、シェリルの徒党に工作員を仕向けた馬鹿が、拠点諸共アキラに潰されたという話が飛び込んできたのだ。

 

 シジマは他の用事も全て投げ捨て、慌てて現場に駆け付けたのである。

 

(ここで俺は味方だと示しておかねえと、どうなるか解らねえ……)

 

 知らなかったから放置するしかなかったのと、知っていて放置していたでは意味が全く異なる。

 

 そして今回は、かなり後者寄りだ。

 

(見殺しにする為、黙っていたと思われる可能性は十分にある)

 

 だからこそシジマは、そんな裏はないのだと全てを正直に話した上で――

 自分は敵対する気なんて一切ない、今でも変わらず協力者だ。

 

 それを示す為、瓦礫の山を片付けるという損にしかならない重労働を引き受けに来たのだ。

 

「なるほど。私としては受けたくはありますが、アキラはどう思います?」

 

 シジマからの説明を受けたシェリルは、嘘はないと判断した。

 

 本当にアキラの機嫌を取る為だけに慌てて駆け付けたのだろうし、そこに何の裏もないのだろう、と。

 

 なので肝心のアキラに最後の判断を委ねる。

 

「俺はシェリルがいいなら、いいぞ。徒党関係はシェリルに任せてるからな」

 

 アキラも頷いた。

 

 別にシジマが裏切ったとも思ってなかったし、面倒臭い事を全部やってくれるならどうでもよかったからだ。

 

「交渉は成立だ。これからも良い関係を続けていこうじゃないか」

 

 シジマは内心だけで、胸を撫で下ろす。

 

 ついこの間、アキラ達を陰謀に巻き込んだヴィオラは、シジマの目の前で胸を撃ち抜かれた。

 

 噂を知っていて見逃した形になったシジマも、似たような立場になってしまったという自覚はあり、今度こそ殺されるかもしれないと本気で焦っていたのである。

 

「ええ。これからは気楽に連絡を取り合える良い関係を築きたいですね」

 

 次にこの手の情報を知っていて伝えなかったら許さない。

 

 最後にシェリルが釘を刺すと――

 

「じゃあ俺は帰るぞ」

 

 そこから縄張りの管理などの交渉が始まると察したのだろう。

 

 面倒臭くなりそうだから、後はそっちでやってくれという態度を隠しもせず、アキラがこの場を去ろうと歩き出す。

 

「はい。力添え、ありがとうございました」

「ああ。後はボス同士の話し合いの場だ。これ以上、手間は取らせねえよ」

 

 もし同格ならば相当に失礼な態度にも関わらず、二人はむしろその扱いが当然であるように気にも留めずにアキラを丁寧に見送ると――

 

 空白地になった縄張りの処理など、細かい内容に付いて話を詰めていく。

 

「あ、あの、建物ぶっ壊したって……」

 

 シェリル達の様子に、新入り達は言葉にならない声を漏らす。

 

 アキラが一人で建物を壊したという事に、誰も何の疑問も抱いてない。

 

 それが当たり前のように対応されている事が不思議を通り越して、不気味にしか思えなくて。

 

「ああ? 今更だろ」

 

「買った強化服の試運転に遺跡ぶっ壊すような人だぞ。むしろ今回は敵の拠点な分だけ、まだ解る」

 

 けれど、アキラが遺跡の入り口を破壊した場面を見ている古参達は、面倒臭そうに御座なりな対応をするだけで、真面に新入り達と取り合わない。

 

 これは別に、前回の件があって新入り達を邪険にした訳ではなく――

 本当に古参達からすれば、当たり前過ぎて今更な事だったからだ。

 

「…………」

 

 その態度が逆に新入り達に解らせた。

 

 この場でアキラが建物を壊した事に驚いているのは自分達だけで、その程度の事は驚くに値しない常識でしかない。

 

 下手をすれば自分達より小さいかもしれないアキラには、それくらいの事は軽々やれる力があるという事を。

 

「あ、あの映像って作り物じゃなかったんだ……」

「それじゃあ他の話も全部脅しじゃなくて……」

 

 そして、納得から僅かに遅れて背筋に悪寒が走る。

 自分達がどんな相手に舐めた態度を取っていたのかを理解してしまって。

 

「せ、先輩方!」

 

 半ば無意識に新入り達は動いていた。

 本能的な恐怖に支配され、恥も外聞も投げ捨てて古参達に詰め寄る。

 

「な、なんだよ……」

 

 突然の先輩呼びに古参達は困惑する。

 

 曲がりなりにも武力要員として新しく入ってきた新入りだ。

 強さには多少の自信があり、荒事に進んで挑んでいける気の強さだってある。

 

 それが太々しさや馴れ馴れしい態度を生み出しており、初対面の頃から先輩呼びなんてされた事はない。

 

 その後はアキラを舐めた発言をしていた件で殺す直前までいった事もあり、お互い気まずくて会話なんてしてこなかった。

 

 それなのに、この態度は驚きを覚えるなという方が無理な話だ。

 

「これからは心を入れ替えます! だから、俺達の今までの態度をあの人に伝える事だけは勘弁してください!」

 

 新入り達は古参の困惑に、気付く事さえ出来ず必死に懇願する。

 

 それは銃を向けた時に匹敵する――

 いや、それ以上の恐怖に塗り潰された表情で。

 

「……」

 

 古参達は一瞬だけ顔を見合わせる。

 そして、すぐに耐えられないとばかりに笑い出した。

 

「ああ、いや、俺も悪かったよ。そうだよな。見てもないのに信じろってのが無理な話だよな」

 

「安心しろよ。俺達だって巻き添えなんて食いたくないんだ。わざわざあの人が機嫌悪くなりそうな事なんて伝えやしないって」

 

 新入り達の姿に過去の自分達が重なって見えたのだ。

 

 そして、紛れもなく新入り達は自分の後輩であり、同じ徒党の仲間なのだと古参達は初めて実感する。

 

「俺達なんてあの人からすれば塵芥のゴミみたいなもんだ。幹部にでもならなきゃ顔なんて覚えられやしないんだから、下手に謝りに行こうとかするなよ。それで無駄に怒らせたら俺達じゃ庇えないからな?」

 

「後、絶対にボスに手を出そうとか思うなよ。知ってると思うがアキラさんの恋人だからな。どうなるかは言わないでも解るよな?」

 

 そして改めて先輩として、徒党で無事に生きていく為の心構えを新入り達へ伝えていく。

 

「はい、はい!」

 

 新入り達は心に刻むように必死で頷いて。

 そこにはもう口だけの返事を返す身の程知らずなんて、どこにも居なかった。

 

 この日を境に。

 シェリルの徒党は完全に一つに統率された。

 

 アキラという存在への恐怖をもって。

この中で四章に何か言いたい事があれば

  • 解像度が高い
  • 展開が上手い
  • 納得が多かった
  • 面白かった
  • オリジナル少女好き
  • アキラの活躍が良かった
  • シェリルの扱いが面白い
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