中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「…………」
間違いなく、当時のアキラに戦力的な余裕なんてなかった。
それこそ薄氷の上の勝利だったと言っていい。
(レイナを先に殺せば、シオリが本気になっていたから、か?)
アキラがシオリに負けなかった要因の一つに、シオリがそれこそ持てる力全てを使ってまでアキラを殺しに来なかったという部分がある。
レイナを人質にされていたから仕方なく戦っていただけであり、何も悪くないアキラを殺したくなんてないという迷い、アキラを殺してしまえばレイナを人質に取られた自分は死ぬしかなくなるという打算。
それらがシオリの力を削いでくれていなければ、アキラは殺されていたかもしれない。
(いや、違うな……)
それを言えば、アキラ側だってシオリ達を助ける為に力を抑えていたのだ。
ヤジマの隙を作る為に銃に罠を仕込んだが、それは銃を放棄したのと同じ事である。
そして格闘戦しかしないカナエを否定しているところから解るように、別にアキラは銃なんて使わない方が強いという事は決してない。
銃を失えば、大幅に戦力は落ちる。
不利を承知でシオリ達を助ける前提で動いていた事になる。
(アルファは……関係ないな)
そして、色々な死線を共に潜り抜けてきたアキラだからこそ、解る事がある。
アルファは、あくまでアキラの意志を元にサポートしようとする。
つまり、不利になろうともシオリ達を殺さないように決めたのは、アキラ本人の意志なのだ。
「気に食わなかったから、だと思う」
色々考えた結果、アキラの口から出てきたのは、そんな言葉だった。
「気に食わなかった、ですか?」
説明になってない言葉に、シオリは詳細を求めるように聞き返す。
「人質を取ったから抵抗するなって言われて、従うのは気に食わなかったから最初は無視した。多分、それと同じようなもんだと思う」
「同じですか?」
「人質にされたヤツを見殺しにするよりはさ。人質は助けて敵だけ殺した方がざまあみろって思えるじゃないか」
「なるほど……」
この時点でシオリはある程度、納得出来ていた。
敵を喜ばせたくないから、当て付けのように人質を守った。
それなら人質を見殺しにしようとした印象とも矛盾しなかったからだ。
けれど、次の言葉がシオリを驚かせる。
「何かさ。そういうの嫌なんだよ。悪い事したヤツが得をして、良い事したヤツとか何もしてないヤツが、そういう連中のとばっちり食うのがさ」
取って付けるように、言い訳染みた態度で放たれた言葉。
どこか軽い調子で告げられた言葉の裏に、どれだけの感情が刻まれているかに気付いてしまったからだ。
「……そういう事、ですか」
エレナ達との出会いの話を聞き、それを悔やんでいたアキラの様子を見ていたシオリだから気付けた。
本人さえ気付いていない心根の核の部分は、こちらの方だという事に。
(エレナ様達の件は、何の関係もない二人を囮にしただけでなく、囮を引き受けてくれた二人の優しさを踏み躙ったからこそ、アキラ様は許せなかったのですね……)
悪い事もしてない人間が踏み躙られるのが気に入らない。
そうやって踏み躙ってくる連中の言いなりになんて、なって堪るかという反骨心。
そして――
そんな連中を決して許しはしないという果てのない憎悪。
(お嬢様の時は見殺しにしようというよりも、銃を捨てて相手を殺せなくなるのが嫌だったのでしょう……)
そこから考えればレイナの件も、シオリには推測出来る。
銃を捨てたところで全員死ぬだけ。
それなら、ふざけた事をしたお前だけは絶対に殺してやるという怒り。
(そんな方が、踏み躙られようとしている相手を本当にどうでもいいとか、見殺しにしたいなんて、思っている訳がないでしょうに)
おそらくアキラ本人でさえ、自身の行動原理に気付いていない。
だからこそ、指摘されるまで自分でも矛盾に気付けなかったのだ。
本当に生きてようが死んでようが、どうでもいいなら。
最初から見殺しにする気なら。
エレナ達の時もレイナの時も、もっと楽な方法なんていくらでもあった筈なのだから。
(カナエ。確かにアナタの言うとおり、凄くロマンチストな方ね)
全てに気付いた時、シオリは感動した。
レイナの事を誰よりも大事にしていると自負していたシオリでさえ。
荒野で生きていくにはレイナは甘過ぎると、その優しさを今だけは切り捨てるべきだと考えていたのに。
アキラだけが、自分でも気付いていない癖に。
その優しさを何よりも尊いと考え、踏み躙った相手を確実に殺したい程に許せなかったのだ。
(お嬢様が聞いていなくて良かったです……)
もし今の言葉をレイナが直接聞かされ、その裏に隠された想いに気付いていれば、アキラに恋をしていたかもしれない。
そうならなくて良かった、と心底シオリは安堵する。
(……良かった?)
シオリはレイナの立場的に一介のハンターとは付き合えない、なんて思っていない。
もしカツヤがレイナだけを見て、真剣にレイナだけを愛してくれるなら祝福したいと思っていたくらいなのだから――
その相手がアキラに代わったからって否定する理由になんてならない。
アキラとレイナが恋仲になるのを否定したいのは、あくまでシオリ自身の気持ちの問題だ。
「アキラ様」
そして、その気持ちの正体が解らない程に初心でもなければ――
誤魔化したせいで機会を逃すのを良しともしなかった。
「私の事を、どう思っていますか?」
卑怯な事をしている自覚はあった。
先程の言葉をレイナに伝える事もせず、お嬢様には他に好きな方が居るのだからなんて自分に言い聞かせて。
それなら裏切りではないなんて正当化している時点で、後ろめたいものがあると認めている。
それでも尚――
シオリは止まれなかった。
「ああ。人質を見殺しにしようとしたんだし、相当恨まれてるから近寄らないようにしようとか思ってたんじゃないかな」
けれど、そんなシオリの想いは受け流されるどころか、完全に届かない。
第三勢力で戦った相手がシオリだった場合の話だぞ、なんて忘れていたとばかりに付け加えるだけで、アキラは全く気付かなかった。
「申し訳ありません、少々焦ってしまいました。十分納得させて頂ける答えを下さいましたし、先程の例え話は終わりにしてくれて大丈夫です。お付き合い頂きありがとうございます」
「どういたしまして」
助けて頂いたのに恨む筈がありません、と本来のシオリなら声を上げていただろう。
その事に気付けない程に。
シオリの気持ちは高ぶっていた。
「その件を抜きにして、今現在、私の事をどのように思って頂けてますか?」
自分以上にレイナの事を認めてくれている。
その上で、自分以上にレイナを守る力があると二度も証明されている。
レイナと年齢も近いところも含めて、まさに理想的。
シオリに取ってアキラは、恋人に求める要素を全て満たした完璧な存在としか言えない事に気付いてしまったからだ。
「凄いなって思うぞ。レイナとの関係はあんまり解らないけど、それでも他人の為に自分の命を差し出せるのは本当に立派だと思う。俺には真似出来そうにない」
仕切り直したにも関わらず、シオリの想いは再び届かない。
もしかして気持ちを確認されているのか、とさえ思ってもらえない。
(……そうでしたね。裸同士で居るのに何も思われてない時点で、このような反応が返ってくると想定すべきでした)
予想外に好印象を持たれている事を知れたのは、シオリとしては嬉しい事ではある。
が、今聞きたい事はそれではないし。
今更ながら、全く女として意識されてないというのは――
女としての自尊心を酷く傷付けられた。
「それでは一人の女として。一人の男であるアキラ様としては、どのように考えて頂けてますか?」
それならば是が非でも意識してもらおう。
シオリの気持ちは萎えるどころか更に膨れ上がり――
誤解のしようのない言葉でアキラを攻め立てる。
「えっ……」
さすがにアキラも気付いた。
いきなり何が起きているのか解らない、とでも言いたげな戸惑いを顔いっぱいに浮かべていたものの――
それでもシオリが伝えたかった言葉の意味は、ようやく伝わった。
「お慕い申し上げております。生涯を、共にしたいと願う程に」
それでも何かの間違いじゃないかという視線を向けたアキラに、シオリは更に強い気持ちをぶつける。
私と結婚して下さい、なんて。
それこそ、これ以上ない告白の言葉を。
この中で五章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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面白かった
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受付メイド可愛い
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大分レイナ一行の態度変わったな