中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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小話 常識知らずの徒党入り希望
礼儀知らずの徒党入り希望


 アキラがシオリ達と温泉旅行に出掛けていた頃――

 

 シェリルの徒党ではある事件が起きていた。

 

 その日、シェリルは目まぐるしくなる程の仕事を片付け。

 

 ようやく就寝しようとしていたのだが――

 

「ボス! ボス! 緊急事態だ! 起きてくれ!」

 

 けたたましい程の扉を叩く音と必死なエリオの叫びが、眠りを妨げた。

 

(アキラが来たのかしら?)

 

 今から眠ろうとしていただけあって、もう外は暗い。

 

 この時間帯に発生するエリオ達では対処出来ない問題といえば、大体はアキラの突然の訪問だ。

 

 シェリルは期待と共に身体を起こそうとしたが――

 

「徒党に入りたいって女が来てるんだ! 十万オーラム持ってる!」

 

 色んな意味で期待外れの内容に頭痛を覚える。

 

(今更十万オーラム程度のお金に何を慌ててるんだか……)

 

 今やシェリルの徒党は、中堅級の徒党が正面衝突を避けて工作員を送り込んでくる規模なのだ。

 

 それに伴い徒党入り希望の質や規模も大きくなっており、弱小徒党が丸々シェリルの徒党の傘下に入りたいと願い出てくる事さえある。

 

 確かに個人で十万オーラム稼ぎ徒党入りの為に使おうというのは、一定の評価を与えていい事ではあるのだが――

 

(こんな時間に訪ねてくる無礼を押し通せる程じゃないって事くらい解らないのかしら?)

 

 シェリルは溜息を吐く。

 

 最近の出来事でエリオの評価を大きく上げていたのもあって、その程度の判断も出来ないのかと落胆の衝撃は大きかった。

 

(エリオには内部の武力要員を束ねていって貰わないと困るんだけどね)

 

 だからといって、エリオはこの辺が限界かなんて見切りを付けようとは一切思わない。

 

 遺物販売店が動き出せば、外部から入れられる警備の質も数も大きく上昇する。

 

 倉庫警備で雇っていたドランカムを省いた警備人員をそのまま、遺物販売店や拠点の防衛にあてがう事すら出来るようになるだろうが――

 

(外部の人間は、どこまでいっても外部の人間でしかないもの)

 

 あくまで契約の範囲、お金の為に戦う人間であって本当の意味で生死を共に出来る、いや、しなければならない仲間ではない。

 

 他にもっと良い契約があればそちらに行かれても止めようがないし、本当にどうしようもない敵に襲われた時、逃げずに拠点を守ろうとする可能性は決して高くはない。

 

(その点、エリオならアリシアが居るし、徒党が消滅してしまえば自分達がどうなるか誰よりも理解してる)

 

 徒党が消滅すればエリオは、ただのスラムの子どもでしかなくエリオ本人だけでなくアリシアさえ、明日をも知れぬ境遇に逆戻り。

 

 そうなればどうなるか。

 

 アキラに殴り掛かり拠点を叩き出された事があるエリオ以上に、理解している人間は居ない筈だ。

 

(倉庫の襲撃事件の対応から見ても、そこは疑いようがない……)

 

 襲撃事件の際は危うく命を落とす直前まで負傷したものの、義体男の襲撃の件での油断のない対応から判断するに――

 

 それは身の程知らずの蛮勇の結果でなく、徒党を守る為に命を賭けた結果であったのだとシェリルは大きく評価していた。

 

「……追い返しなさい」

 

 そういう経緯もあり、エリオには幹部の中でも一際期待していたのだが、それを裏切られた事。

 

 この程度の事で睡眠を妨害された不機嫌も相成って、一際冷たい声がシェリルの口から飛び出す。

 

「アキラさんに命を助けられたから、ここに来たって言ってるんだ! 本当に追い返していいのか!?」

 

 だが、次にエリオから告げられた言葉で一気に眠気は吹き飛んだ。

 

「それを先に言いなさい!」

 

 シェリルは飛び起きて、慌てて支度する。

 

 もしその言葉が本当なら無下になんて出来る訳がない。

 

 アキラがわざわざ助けた人間を、その事実を知った上で見捨てたなんてなれば大失態どころかアキラに反旗を翻したと思われても仕方ない程の行為だが――

 

(はいそうですかなんて鵜呑みにして徒党入りさせる訳には、いかないわ!)

 

 かといって嘘だった場合、アキラの名を利用しようとした不届き者。

 

 そんな人間を徒党入りさせたら、それこそ大失態だ。

 

「応接室に通してアリシアに相手してもらってるけど――」

 

 暗い声でエリオが現状報告を追加する。

 

 エリオとしては、下手すると大問題に繋がり兼ねない事態にアリシアを巻き込みたくなかったのだろう。

 

 けれど、おそらくアリシアの方が自分が相手をするからボスを呼んできて、と願い出たという事くらいシェリルには容易に推測出来る。

 

「ええ、良い対応よ。すぐ行くわ」

 

 心配しなくても悪いようにはしない、と言わんばかりに迷いなく答えてシェリルは応接室へと向かう。

 

 深夜に訪問してきた礼儀知らずの徒党入り希望者一人に幹部二人にボスが相手しているという過度にも思える対応ではあるが、それでもやり過ぎだとはシェリルは思わない。

 

(十万オーラム。ルシアの時を思い出すわね……)

 

 おそらくエリオが最初にアキラに助けられた事でなく十万オーラムの方を告げたのも、同じ事を思い出してしまったからだろう。

 

 十万オーラムの金を差し出して徒党に入りたがり、アキラと何らかの繋がりがある。

 

 ルシアの件を彷彿させるが、ルシアはアキラの財布をスリ盗った不届き者であり――

 

 今は数少ない徒党の幹部という複雑な経緯の持ち主になっている。

 

 ――義体男の襲撃後すぐ、ルシアは幹部襲名を果たしていた。

 

(出来たら面倒臭い事にならないといいんだけど……)

 

 そんな事を願うシェリルであったが、それが不可能なのは解っていた。

 

 本当にアキラが助けた相手ならば、徒党に入れた上で扱いは慎重にしないといけないし。

 

 逆に不届き者だと確信出来たとしても、それでも万が一がある。

 

 拠点内に拘留した上で丁重に扱い、アキラに確認と処分を仰がねばならない。

 

 シェリルは気が重くなるのを感じつつ、応接室へと突入した。

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