中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「……アキラ様。お口に合いませんでしたか?」
かつて、どこかで聞いたような言葉がシオリの口から発せられる。
「え、あ、大丈夫です。美味し過ぎて驚いただけです」
それにアキラの方も全く同じ言葉で返答していた。
「そうですか。お楽しみ頂けているようで、こちらも嬉しく思います」
けれど、そこから先のシオリの態度は前回とは大きく異なるものであった。
アキラの様子を窺ってこそいるものの、そこに警戒の色は全く見当たらず、アキラを喜ばせる事で出来て本当に嬉しいとばかりに柔らかく微笑んでいた。
(武装解除しなくても入れる店でも、こんなに美味しい料理が出る場所があるのか……)
そして、かつてと大きく違う点の一つとして、アキラもレイナも武装したままだという点が挙げられる。
それは強化服を着ているという程度の話ではない。
アキラは普段使っている銃を傍らに置いていたし、シオリだって刀を手元に置いている。
おまけに店内にはアキラ達と同じように武装したままのハンターが、ちらほらと点在する。
セキュリティという観点では前回と比べ物にならなかった。
(…………)
けれど、アキラはそんな事を気にした様子もなく、料理を口にしていく。
一口食べる度に動きを止め、感動を味わい。
もう一口目を味わう為に手を動かす時には期待で目を輝かせた。
あまりにも料理が美味し過ぎて、警戒に回す余裕さえないという訳ではない。
いや、ひょっとしたらそういう部分もあるかもしれない。
けれど、最大の要因はシオリの柔らかい態度が嘘でないとアルファに事前に確認していた事と、普段通りに武装しているという事がアキラの警戒心を大きく緩めていた。
一見すると矛盾して聞こえるかもしれない。
だが、普段から武装をしている者がわざわざ武装解除をしてまで、敵意がないと示そうとするという事は、だ。
逆に言うならば――
私の側に敵意はありません。
だから、そちらも敵意を向けないで下さい、という最大限の警戒を示す態度でしかないのである。
「追加注文してもいいのよ。甘いのいけるならこのデザートとかお勧めね」
「がっつりいきたいならこの辺とかいいっすよ」
そして、シオリがアキラに敵意などまるでない。
警戒なんて微塵もする必要がない相手だと感じていると判断出来る最大の理由が、レイナとカナエの存在だ。
カナエは特に関係ないとして。
もし僅かでもアキラに不信があるならば、シオリは出来得る限りアキラの傍にレイナを近付けないようにするだろう。
そのような理由から、アキラの警戒心は極めて薄かった。
(俺は近い内に死ぬのかもしれない……)
ほとんどの意識を料理に集中していたアキラは、レイナ達に話し掛けられた事にさえ気付かず、そんな事を考える。
それというのも今回提供された料理は、あまりに美味し過ぎた。
前回、これ以上料理で幸せを覚える事なんてないと確信したアキラが、その事さえ忘れてしまう程に。
アルファに出会って自分の幸運を使い果たしたなんて半ば本気で思っているアキラに、この幸福感は幸せ過ぎて恐怖さえ覚えてしまっていた。
「はは……」
「ふふふ……」
その様子を見てレイナが嬉しそうならいいかと微笑み、シオリもまたレイナが無視された事に怒るでもなく、どこかおかしそうに微笑んでレイナと見詰め合う。
「ちょっとー、アキラ少年。無視っすかー。そういうのどうかと思うっすよー」
そんなアキラにカナエだけが、しつこく話し掛け続けていた。