中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「えっと、不合格?」
過去に想いを馳せていたシェリルを、少女の声が呼び戻す。
急に黙り込み、難しい顔をしたシェリルの姿に答えを間違えたのだと思ったのだろう。
「いいえ、文句なしに合格よ」
シェリルは間髪入れず、採用の言葉を口にする。
逃がす訳には、いかない。
この少女の存在はアキラを理解する為に大きく役立つ。
「それより徒党に入るなら、アキラに助けてもらった事を考慮して幹部候補として扱わせてもらう事になるけど、問題ないかしら?」
それだけでなく、少女を徒党に入れる大きな利点を見付けていた。
この少女はアキラの力を知っているにも関わらず、全く恐れていない。
それは今の徒党に欲しかった人材だ。
(私が居ない時のアキラの応対はルシア辺りに任せる予定だったけど、この子の方が適任そうね)
自分以外にアキラの応対が出来る人材を求め幹部の成長を祈っていたが、どうしても全員アキラへの恐怖を克服出来そうにない。
その点、この少女ならそもそも恐怖を抱いてなさそうだし、その役目を過不足なく任せるに相応しい人材になるだろうとシェリルは期待出来た。
だが――
「え、何で? 私の待遇は私の能力で決めるものでしょ? 何でアキラさんに助けてもらったら、私の待遇変わるの?」
今までどれだけ不都合な事を言われても、むしろ喜んでいたように見えたのに。
重宝すると示したら、今度は目に見えて不機嫌に――
(いえ、これは疑いね……)
その眼差しに込められた視線の意味を不信と理解したシェリルは言葉を探す。
このまま少女を幹部にしようとすれば、何か余計な問題が起きる気がしたからだ。
「言い方が悪かったわ。アキラの強さは知ってるでしょう? 皆怖がってアキラと接する事が多くなる幹部を嫌がっててね。助けられたあなたなら、見たところアキラの事を怖がってないみたいだし、適任だと思ったのよ」
アキラの付属品のように扱われた事で不信感を抱いたなら、これで納得してほしい。
言い聞かせるようにシェリルは言葉を紡いだが――
「……ここの人達はアキラさんを襲おうとしてるの?」
シェリルの予想を裏切り、少女の不信の色は一層強くなった。
信じられないものを見るような目で、シェリルの事を見詰める。
「そんな訳ないじゃない! 皆、アキラの事を敬ってるわ!」
(何てこと言い出すのよ!? というか、どこをどうしたら、そんな言葉出てくるのよ!?)
あまりにトンデモナイ事を言い出すものだから、さすがにシェリルも我を忘れて叫び出すしかない。
今の会話の流れから、どうしてアキラへの反意を疑われるのか。
本気で訳が解らなかった。
「変なの。襲おうとしてないのに何で怖がる必要があるの?」
「……逆にあなたは、どうして怖くないのよ?」
正直な話をすれば、シェリルだって時々アキラは怖い。
見捨てられる怖さとか、そういう意味ではなく――
単純に機嫌を損ねたら殺されてしまうのではないか、という本能的な恐怖は思い出したように浮かんで、どうしても消える事はない。
「えーと、怖がる事に力の大きさって関係あるの? 寝てる時に襲われたらナイフ一本でも簡単に殺されちゃうんだし、怖いかどうかって敵かどうかじゃない?」
少女は告げる。
殺そうと思えば、その気になれば誰だって自分なんて殺せる。
それなら怖いのは、その気になる相手だけだろう、と。
(……これが一人で生きてきた人間と、誰かに頼ってきた人間の差なのかしらね?)
シェリルは少女との価値観のズレの根幹にあるものを僅かながら理解する。
少女は他人というものを等しく信用してない。
非力な自分では誰であろうと簡単に踏み躙れる。
それなら頼るだけ無駄なのだ、と仕方なく一人で生きる道を選んだのだろう。
(……どうしたら、そういう考え方になるのよ)
シェリルだって自分は非力だと思っていたし、誰も信用してないつもりだった。
けれど、少女の言葉にその認識が甘かった事に気付かされる。
自分が何かしらの価値さえ示せれば、少なくとも対等に取引してくれるくらいには他人を信じている。
損得勘定というものが前提として存在した。
(この子は自分と対等な取引をする人間なんて居ないって本気で思ってる……)
少女には、それすらない。
自分みたいな非力な人間なら、相手は好き放題してくる。
それなら自分が不利な条件でないと取引さえ、してもらえない。
その事を当たり前のように受け入れているのだ。
(この子からすれば、自分を好き放題出来るくらい強いのはアキラも他の人も同じ、か……)
むしろ助けてくれた分だけ、他の人間より怖くないくらいなのだろう。
シェリルは理解こそ出来ないが、そういうものだと納得した。
「あなたと違って徒党内ではアキラの事を怖がってる人が多いの。だから私が居ない時とか、アキラの相手を頼みたいのよ。駄目かしら?」
やはり幹部としてアキラの相手を務められる最有力候補だ。
シェリルは確信し、どうにか幹部になってもらえないかと提案する。
「恋人の代わりの相手って身体の付き合いの事? それはアキラさんが駄目って言ってたから出来ないけど……」
その途端、予想外の言葉が返ってきてシェリルの目が鋭くなる。
「……誘ったの?」
もしアキラを身体で篭絡しようという気なら、ただでは済まさない。
意識せずシェリルは少女を睨み付けてしまうが――
「ううん。助けてもらった時、また会えるって聞いたら仕事の誘いと思われて、そういうのは他を当たってくれって言われた」
「ああ、だからここでは身体を売らないって最初に言ったのね」
気にした様子も見せずに平然と告げる少女の姿。
そして、どうして今まで身体を売っていたのに徒党に入るとなった途端、それは出来ないと自分から言い出していたのかの辻褄が合い、シェリルは納得感で頷く。
「うん。アキラさん、そういうの嫌みたいだったから。だからもしボスに頼まれても身体は売れないわよ?」
「ええ。それで構わないわ。身体とか抜きで応対だけしてくれれば大丈夫よ」
ボスである自分に面と向かって、ボスよりも後ろ盾の方針に従うと告げる少女の姿に――
むしろシェリルは満足気に微笑む。
(この子、別にそこまで頭が悪いって訳じゃないわね)
何が大事なのか自分の中でしっかり優先順位を付け、それに沿った行動が出来ている。
ただ判断基準が損得勘定で考えるシェリルとは大きく異なり――
シェリル基準で安易に判断すれば、何も考えてないように見えるだけなのだろう。
「それで待遇なのだけど……」
これなら少し学ばせれば、とりあえずアキラの話し相手だけなら問題なさそうだ。
幹部としての他の仕事は追々出来るようになっていってもらうとして。
今はとにかく、自分以外にアキラの応対を出来る人材が早急に欲しかった。
「高過ぎるわ。そこまでの働きを求められても無理よ」
だから幹部候補として扱うと待遇を示したのだが、どうやら少女にはお気に召さないらしい。
(……本当。一筋縄では、いかない子ね)
アキラの付属のような扱いをして不信を見せたかと思えば。
力を認めて好待遇を見せても不満を覚える。
改めて、この少女は何か自分とは価値観が色々ズレていると再確認し――
(だからこそ、理解し甲斐があるってものよね)
やはり、この少女を理解出来ればアキラの事も少しは解るようになりそうだなんて。
口元に僅かな笑みを浮かべ、シェリルは少女を納得させるべく思考を働かせるのであった。
今のトコ、この中でお気に入りの章はありますか?
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0章 世界線の変更
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一章 女狐達の騙し合い
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二章 少年義体の工作兵
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三章 中立ではなく――
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四章 これがアキラという後ろ盾
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五章 メイドだらけの温泉旅館
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六章 アキラはズルい卑怯者
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小話 常識知らずの徒党入り希望
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選べないくらい割とどれも好き