中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
(何か言い方悪かったか?)
アキラは男としてシェリルに好かれているとは一切思っていない。
というのも恋愛感情があるなら、まずは告白してくるだろうし。
その上で想いを誤解されないように極力気を付けるものだ、という認識がアキラの中に生まれてしまっているからだ。
そんな歪な感性になった原因は、アキラにちゃんと告白してきた人間がネリアとシオリという極端な二人しか居ない事にあった。
ネリアなんて殺し合いの真っ只中でも告白してきた上に、冗談かと取り合わなかったら冗談じゃなくて本気だと念押ししてきたし――
シオリだって自分が誤解していれば必死で弁明し、想いの強さが伝わる程の口付けをしてきた。
そんな二人を基準にシェリルの過去の行動や言動を判断していくと――
(シェリルってずっと恋人役辞めたがってたよな?)
シェリルの行動は、恋愛感情なんてまるでない情報工作の一環だったとしかアキラには思えなくなっていた。
何せ恋人同士だと言われた直後に、徒党の運営の為に必要な関係だと告げられるし。
抱き着いたりしてきた後だって、徒党の運営の為には仲がいいところを周囲に見せ付ける必要があるなんて言われただけ。
逆に異性として好きだとも、徒党とか関係なしに恋人同士になりたいなんて言葉も聞いた事がない。
むしろ言動だけで考えれば――
抱き着いたり甘えたりしているのは周囲を納得させる為の情報工作でしかありません。
勘違いしないで下さいね、なんて釘を刺され続けたようにしか考えられないのだ。
(最近までは少し勘違いしてたけどな……)
さすがのアキラでも、シェリルの気持ちに全く気付いていなかった訳ではない。
シェリルが抱き着く時、強化服を脱いだ方が満足度が上がるとかいう話をされた事がある。
その時の表情や態度から情報工作以外の想いがある事くらい薄々気付いていたのだが――
(確かに恋人同士なのに武装解除もしてもらえないのかって部下に思われたら、情報工作の意味ないものな……)
それらは全て、情報工作が満足な効果を発揮しないという意味に書き換えられていた。
それ程までに、シオリの想いの伝え方が真っ直ぐで情熱的過ぎた。
――シェリルの部屋で二人きりの時の場合はどうなんだという話だが、他に誰も居ないからといって安心なんて出来ない。
事実、ノックもせずに部下が入って来たり、ノックはしたけど返事も待たずに入って来た事もあり、不測の事態に備えて徹底しているんだなとアキラは解釈している。
(これで恋人のフリなんてしなくて済むって喜ぶと思ったんだけどな……)
だからこそ、シェリルも諸手を上げて賛成してくれると予想していたのだが、伝え方が悪かったのかとアキラは訝しみ――
『さっきの言い方だと、恋人関係と同時に後ろ盾も解消したいと思われる可能性があるわね』
『ああ、なるほどな』
そこで今まで黙って様子を見ていたアルファからの声が響いた事で、そういう可能性もあるのかと思い至る。
(十分力は付いたようだし、俺の助けなんてもう必要ないだろ。だから俺は後ろ盾を降りる、みたいに受け取られたって事か)
確かにそれならシェリルが怯えるのも無理はない、とアキラは納得した。
いくらシェリルの徒党が力を付けてきたとはいえ、それは武力的な後ろ盾あってのものだという事くらいはアキラにだって解る。
いきなり手を引かれれば、自分なんかと恋人のフリをしてまで徒党を維持していたシェリルが、あんな顔になるのも仕方ないかと結論付けた。
「悪い。勘違いさせたか」
自分の言葉足らずのせいで余計な心配をさせてしまったと即座に謝罪して――
補足の言葉をアキラは口にしていく。
「別に後ろ盾を辞める気はないぞ? そっちが新しい後ろ盾が見付かった。だからもう俺の助けなんて要らないって言うなら無理に続ける気はないけど、そうじゃないなら後ろ盾はこれまでと同じように続けるつもりだ」
「……そ、そうですか。ありがとうございます」
そんなアキラの言葉で僅かだがシェリルは落ち着きを取り戻し、言葉を返す事が出来た。
自分は見捨てられる訳ではない。
まだアキラとの繋がりが切れた訳ではないんだ、と砕けかけた心を必死で持ち直して残っている縁を繋ぎ留めようと思考を働かせていく。
(え、待ってよ。それって新しい後ろ盾が見付かれば、すぐに辞めてもいいって事よね!?)
けれど、思考を働かせれば働かせる程、余計に頭は混乱するばかり。
(どうしてよ! 徒党の後ろ盾をしていれば今までと違って十分な利益があるのよ! それなのに何で簡単に放り出せるの!)
今まで何の見返りも求めず力を貸してくれていたのは、いつか大きい見返りが出る事を期待しての投資じゃなかったのか?
それなら見返りが手に入るようになったんだから、投資が実ったって判断して関係を強くしたいと思うのが当然の流れの筈。
(何で繋がりを細くしようって話になるのよ!)
滅茶苦茶なアキラの行動を処理し切れず、頭の中だけで理不尽だと大合唱するしかシェリルに出来る事はない。
「それで恋人の件なんだけど――」
「だ、駄目です!」
そんな中、アキラが偽りの恋人関係を解消する言葉を言おうとしている事に気付いて、咄嗟に遮ってしまう。
(駄目、それは絶対駄目!)
理論的な根拠なんて一つもない。
けれど、もしここで関係を解消してしまえば遠くない未来でアキラは自分から離れて行く。
そんな予感がシェリルの頭を占め、咄嗟に声を上げさせていた。
「駄目なのか? もうそんな事しなくても運営には問題ないかと思ったんだけど――」
「カツラギもヴィオラも! 私じゃなくてアキラに助力してるんです! 私がアキラの恋人じゃないってなったら、二人共、私が個人で運営する徒党に協力する理由がなくなります!」
そして、即座に適当な理由をでっち上げ、アキラの言葉を堰き止める。
これ以上、アキラから自分や徒党に何の魅力も感じてないような言葉を続けられるなんてシェリルには耐えられなかったからだ。
「あー、そうか。いきなりあの二人の協力なくなったら徒党の運営は難しそうだもんなあ……」
能力は置いといて人間としては二人の事を、それほどアキラは信用していない。
だからこそ、自分という武力要員が本当は恋人でもなんでもないと解かれば協力しなくなるどころか、徒党を食い物にしようとする。
その可能性も考慮し、シェリルの言葉に一応の納得を示す。
「解った。それならシェリルが大丈夫だって思える状況になったら解消しよう。それなら問題ないよな?」
けれど、それでアキラの根本的な意見が変わる事はない。
当然だろう。
結局、シェリルは徒党の運営の為に恋人関係が必要だとしか話していないのだ。
それでは徒党の為に嫌々恋人役を演じているのだから、早く辞めさせてやらないとなんて考えているアキラの意志を変えられる筈がないのである。
(い、嫌っ! いくらアキラの言葉だからって頷きたくなんかない!)
ここで拒否すればアキラの機嫌を損ねてしまい、恋人関係どころか全てが終わってしまうかもしれない。
それなら嘘でもいいから頷くべきだと理性は言っているのに、どうしてもシェリルは肯定の意志を示す事が出来ずにいた。
もし、このまま沈黙が続けば、いくらアキラでもシェリルの様子がおかしい事に気付いていただろう。
そして理由を尋ねられれば、今の状態では想いを告げても何の脈もないどころか、鬱陶しがられるだけと思っているシェリルでは誤魔化す為に嘘を吐いていた筈だ。
そうすれば騙され裏切られようとしてると判断したアキラが、後ろ盾を辞めていた可能性さえあったのだが――
「ボス。アキラさんに取り次いでほしいって人が来てるんだけど……」
どうやら今日のシェリルの運は最悪という程ではないらしい。
「俺に?」
ノックと共に告げられたシェリルの部下の報告に気を取られ、シェリルが返答せず黙り込んだ事にアキラは気付かなかった。
「相手の身元は解る?」
逆にシェリルはアキラの意識が突然の訪問者へと移りつつある事を察し、その流れを加速させ話をうやむやにしようと詳細を求める。
「前に倉庫の警備をしていた、カツヤとかいう名前のハンターです」
果たして。
部下の口から告げられたのは二人が知っている人物であり――
そして、完全に想定外の訪問者であった。
「アイツかあ……」
自分が傍に居るにも拘わらず見るからに面倒臭そうに溜息を吐いたアキラの姿に、シェリルは心の中だけで笑みを浮かべる。
「追い返しましょうか?」
もうアキラの興味はカツヤに移った。
後は話を戻さないように事を進めれば、この場は乗り切れると意気を上げアキラの意見を仰ぐシェリルだったが――
「いや、わざわざ来てる以上、追い返したら余計面倒な事になりそうだ。会うとするよ」
シェリルの返事も待たずにそれだけ告げたかと思うと、迷いなくアキラは部屋を後にする。
(助かったわ……)
アキラが居なくなり、1人きりになった部屋でシェリルは安堵の息を漏らす。
カツヤが来なければ、どうなっていたか解からない。
(あんな奴でも役に立つ事あるのね……)
救世主とも言える相手へ感謝とも言えないぞんざいな事を考えつつ――
(けど、こんなの一時しのぎ。次同じ提案をされたら……)
偶々助かっただけで危機自体は何も解決していない事も忘れておらず、近い未来の事を想像してシェリルは不安と恐怖で顔を曇らせたのであった。
この中で七章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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面白かった
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これは良いシェリ虐
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もっとシェリルに優しくしてあげて
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確かに誤魔化し続けてきたし妥当な扱い