中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
変わりゆく人間関係
(ユミナ達も居るのか……)
カツヤを待たせている部屋へと向かったアキラは、ユミナとアイリも同行している事に気付いて気まずそうに顔を歪める。
実は少し前。
能力の割にハンターランクが低過ぎるから、その調整の為の依頼をキバヤシから持ち掛けられ、同行者にユミナを推薦されたのだが――
アキラはユミナの同行を頑なに拒否していた。
これは別にユミナが足手纏いで調整依頼の邪魔になるとか、そういう理由からではない。
シオリからの告白を保留にしている身で、少し前まで気になっていた女の子と長期間二人っきりで過ごす。
それはシオリに対して、非常に不義理な事のようにアキラには思えたからだ。
そして、キバヤシに理由を聞かれたアキラは『自分はそんなに足手纏いなのか』とでも言うように目に見えてユミナが落ち込んだのもあって、正直に理由を答えていた。
気になる相手が居て誤解されたくないから、他の女と二人っきりになりたくない、と。
これにはキバヤシも大爆笑。
――そんな理由で都市に目を付けられてもいいってのか! いいね、最高だよ!
なんてアキラの言葉を笑いながら受け入れただけでなく、同行者を男だけに限定した上で希望者のみの承諾制の依頼として流したのだが――
『ハンターランク調整依頼を出される程の凄腕の男が居るが、同年代の女と二人きりになるのを頑なに拒否し、男同士での二人旅を熱望している。同行希望者は申し出ろ』
要約すれば、こんな依頼がキバヤシの名前で出されているのである。
勿論と言うべきか、希望者は一人たりとも現れていない。
『だからってキバヤシの奴、じゃあせめて戦歴に箔くらい付けろとか言って面倒な依頼ばっかり寄越しやがって……』
そもそもアキラの場合、実力に比べてハンターランクが低すぎるのも問題なのだが、その上で真面な戦歴が一つもないというのも困り所なのである。
せめて実力の一端が垣間見える大物殺しの戦歴でもあれば、実力はあるがあまりハンター稼業に力を入れてないとか、これから伸びるだろう将来有望のハンターという扱いに出来るのだろうが――
その手の戦歴は毎回何かしらの厄介事に絡み、全て売り払われている。
それを少しでも解消する為、キバヤシがアキラのハンターランクでは絶対に来ないような討伐依頼やら何やらを寄越してくるのだが、アキラはこれを嫌々請け続けていた。
『自業自得でしょう?』
『解ってるよ……』
何せアキラがシオリを気にして、ユミナの同行を断ったのが面倒な事になっている原因なのだ。
これで俺のせいじゃないなんて言って、無視出来るような性格をアキラはしていない。
(怒ってるよなあ……)
以上の話から解る通り、アキラはユミナの同行を完全に私情で断っている。
それもハンターとして実力不足だと判断して拒否したならまだしも、一人のハンターとして扱おうともせず女という理由で、だ。
怒りを買うだけでなく軽蔑されていても仕方ないとアキラは思い、チラリと覗き見するようにユミナへ視線を向けてしまうが――
「忙しいのに悪いわね。カツヤがどうしても言いたい事があるみたいだから、付き合ってあげてほしいの」
意外というべきか、ユミナの顔に怒りや嫌悪の色は見えない。
むしろ以前よりも親しげというか、遠慮がなくなったようにアキラには感じられた。
「解った。それで何の用だ?」
その態度を前の事は気にするなというユミナからの気遣いだと解釈したアキラは、ユミナの顔を立てる為にも早速カツヤに本題を求める。
「あー、その、何だ……」
だが、自分から訪ねてきた割には妙に歯切れが悪い。
その上、いつもは無駄に突っ掛かってくるのに今日は目を合わせようともしない。
「聞いているかもしれないが、これでも結構忙しくて久しぶりの休みなんでな。用があるなら手短にしてほしいんだが……」
これにはアキラも調子を狂わされ、用があるなら早くしろなんて強い言葉で急かす訳にもいかず――
(何で俺がこいつに気を遣わないといけないんだよ……)
苛立ちを覚えながらも、ぐっと堪えてカツヤの次の言葉を待つ。
「まずは渡す物を渡す」
それでも動こうとしないカツヤを、アイリが小突いて行動を促した。
「ああ、解ってる。その、借りっ放しだった回復薬だ。遅くなって悪かった……」
酷くばつが悪そうにカツヤが回復薬を差し出してくるが――
差し出されたカツヤの腕を不思議な物でも見るような目で眺めるだけで、アキラは受け取ろうとしない。
『前にカツヤを助けた時に回復薬を渡して、買って返してもらうって事になってたでしょう? 忘れたの?』
『あー、そんな事もあったな……』
アルファに言われるまで、すっかり存在を忘れていたからだ。
あまりに時間が経ち過ぎているし、物だけ渡されて事情も何も説明されずに思い出せという方が難しい話である。
「確かに返してもらった。これで用事は終わりか?」
とはいえ、これでアキラはカツヤの態度に納得し、苛立ちは大分薄れていた。
貸した自分自身さえ忘れてしまっていた回復薬を、今更ではあるが返しに来たのだ。
これだけ遅くなったのだから気まずくなるのも解るし、それでも約束を守ろうという心掛けはアキラとしては好ましいものではある。
「ほら、カツヤ……」
けれど、これで終わりという訳ではないらしい。
今度はユミナが小突いて、早く本題を済ませなさいとカツヤを急かした。
「その、遺跡の時は助けられたり回復薬貰ったり、他にも賞金首の時とかも色々あったよな……」
漸く言い難そうに口を開いたかと思えば、全く要領を得ない。
まさかわざわざ訪ねてきたというのに、思い出話をしたい訳でもないだろう。
「何が言いたいんだ?」
お前の助けなんてなくったって俺は自力で解決出来た。
要らないお節介ばかり焼きやがって、なんて文句でも言いに来たのかと思い――
(まあ、そういう奴だよな)
約束を守ろうとするくらいの義理は持ってたのか。
なんてカツヤの事を少しは見直そうとしていたアキラは、やっぱり無駄に喧嘩を売ってくる無礼者じゃないかと評価を据え置きにしようとする。
けれど――
「助けてもらったのに礼も言わないだけじゃなくて、突っ掛かってばかりで感じ悪かったよな。今まで悪かった。謝る、許してくれ」
そんなアキラの予想に反して、カツヤは謝罪の言葉を口にした。
相変わらず気まずそうにアキラの方を見ようともしないし、頭だって少しも下げない。
謝罪というには悪過ぎる態度だろう。
それでも自分が悪かったと確かに認めたのだ。
(こいつ、頭でも打ったのか?)
だが、あまりに普段の態度が悪過ぎた。
掏りに遭おうが被害者であるアキラが悪いと宣い、命を助けようが憎まれ口を叩く。
そんな相手が突然、今までの事は全部俺が悪かったなんて言ってきたところで信じる人間なんて、相当なお人好しくらいだろうし――
ましてや重度の人間不信持ちなアキラでは受け入れられる訳もない。
『疑うのも解るけど嘘は吐いてないわよ』
『……そうか』
それを察してアルファがカツヤの言葉を肯定したのだが、それでもカツヤの事を信じ切るなんてアキラには無理だったようで。
(強化服も着てるし銃やブレードだってある。いきなり襲ってきても対処は出来るか?)
荒野に行く時に比べれば心許ないものの、最低限の装備自体はあるから大丈夫かなんて。
不審者と遭遇でもしたかのように警戒を強めたのだった。