中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

56 / 138
ユミナの変化

「……なんだよ」

 

 警戒し身構えたアキラの様子に気付き、カツヤが不貞腐れたような声を上げる。

 

 曲がりなりにも謝ってるんだから、その態度はないだろうとでも言いたいのだろう。

 

「カツヤ! 謝りに来たのか喧嘩を売りに来たのか、どっちなの!」

 

「いや、でもだな……」

 

「でもじゃない! 今までの態度考えたら当然の反応でしょうが!」

 

 けれど、アキラが何かを言うよりも早くユミナの叱責の声が響いて、アキラは完全に口を開く機会を失ってしまう。

 

「あー、そのね。いきなりで驚いたと思うけど色々あったのよ」

 

 当事者なのに途方に暮れているアキラの様子に気付いたのだろう。

 

 ユミナの口から『色々』とやらの説明が大まかに告げられたのだが――

 

「ああ、うん。こいつらしい話だな……」

 

 シェリルには散々アキラとの違いを詰られた挙句、いくら疎遠になっているとはいえドランカムの仲間である筈のシオリ達までアキラを優先する始末。

 

 立て続けに自分じゃなくてアキラが正しいと見せ付けられ続けたカツヤだったが――

 

 結局、それを受け入れられず、皆アキラに騙されているんじゃないかと言い出したらしい。

 

「さすがに私も呆れてね。遺跡の時も賞金首の時も助けられて、回復薬まで貰ったのにその態度は何なのよって問い詰めたのよ」

 

「いや、問い詰めたっていうか思い切り殴り飛ばして――」

 

「殴られるような事言うからでしょ」

 

 これにはユミナも本気にならざるを得なかった。

 

 いつものように一発殴り飛ばしただけで済ませず、ユミナまであいつの味方をするのか、なんて喚き続けるカツヤの頬に平手打ちまで加えた。

 

 そこまでしてようやく、カツヤは今までの事を省みてアキラに謝罪しに行くという話になったらしい。

 

(要はユミナの手前、形だけでも謝っておこうって話だろ? どれだけ人を馬鹿にすれば気が済むんだよ……)

 

 話を聞いたアキラは不機嫌さを隠せなかった。

 

 どう聞いても本気で謝りに来たようには聞こえないからだ。

 

「解った。謝罪は受け取った。用が済んだなら、さっさと帰れ」

 

 だが、ユミナにはハンターランク調整依頼の件で負い目がある。

 

 仲裁する立場であるユミナの顔を潰す訳にもいかず、態度は酷いものの謝罪自体は確かにされた。

 

 それならこちらも形だけは和解する意志を示して終わらせようとするが――

 

「待って! お願い、ちゃんと話し合って……」

 

 ユミナがそれを許さない。

 

 これで終わりに出来るくらいなら、最初からカツヤに謝りに来させたりなんてしない。

 

(これじゃあ今までと同じ、それじゃあ駄目なのよ。だって私が人質になって無理やり収めた頃と何も変わってないもの……)

 

 アキラとカツヤの関係は、あの頃から何も変わっていない。

 

 いや、それこそ希望的観測で溝は更に深く大きくなっている可能性の方が遥かに高い。

 

(……これも全部、私がカツヤの事だけ気にしてアキラの釈明をしなかったからだわ……)

 

 その原因こそ、シオリやルシアの件の真実を大体予想出来ていながら、下手にカツヤが知れば余計面倒な事になると思って遠ざけ続けてしまった事。

 

 全部カツヤの思い込みと被害妄想。

 

 アキラは何も悪い事なんてしてなかった、と事実を突き付けなかった事にあるとユミナは後悔していた。

 

(面倒事さえ避けてカツヤだけ傷付かなければいい。アキラが誤解されてようが知るもんですかってのが間違いなのよね……)

 

 ユミナに取ってアキラという少年は、実力者であるという能力的な部分を省けば、ただの同年代のハンター程度の扱いに近かった。

 

 それはユミナという人間の良識を元にアキラを判断した結果、別に嫌ったり避けたりするような理由はないから会えば話すだけ。

 

 逆に言えば――

 

 わざわざ休みの日などに遊んだり話したいかといえば、そんな事もない。

 

 その程度の相手でしかなかったからだ。

 

 だからこそ、わざわざ自分が苦労したり、カツヤに嫌われる覚悟をしてまで誤解を解いてやる理由なんてなかったのだが――

 

(なんで私、あの時までそんな事も考え付かなかったんだろ……)

 

 その認識がユミナの中で大きく変化したのがハンターランク調整依頼で同行を断られた件だ。

 

 好きな相手に誤解されたくない。

 

 他のハンターが聞けば鼻で笑うか、仕事と私情も分けられないのかと呆れたくなる理由で、都市のお偉いさんからの依頼をアキラは断ろうとした。

 

 それはユミナが初めて、アキラに親近感を抱いた瞬間だった。

 

 自分がカツヤを大事に思っているように。

 

 アキラにも何を捨ててでも守りたい相手が居るんだ、と。

 

(シェリルさんは幸せよね……。カツヤもあれくらい甲斐性あったらなあ……)

 

 そしてアキラとの同行を女というだけで断られたユミナは、その事に怒るでもなく。

 

 アキラとシェリルの関係に、自分とカツヤを重ねた。

 

 ――相手がシオリだとは、ユミナは想像さえしていなかった。

 

 そうする事で、もしカツヤが何も悪い事をしていないのに一方的に悪者扱いされてたらどう思うか。

 

 自分はアキラやシェリルに対して、そういう事をしている立場なのでは?

 

 ようやく、その考えに至る事が出来たのだ。

 

「カツヤ。本当に反省してるのよね? 私に怒られたから渋々謝りに行く訳じゃないって言ってたわよね?」

 

 だからこそ今回のユミナは、いつもみたいに目先の面倒事を避けて引いたりなんてしない。

 

 アキラにもシェリルにも悪いし――

 

(もう一度、下らない誤解でカツヤとアキラが殺し合うなんて御免だわ……)

 

 前は自分が人質になる事で何とか収められたが、次はどちらかが死ぬかもしれない。

 

 そして、その確率は決して低くはないのだ。

 

 何せ殺し合いにまでなった自分達とアキラの関係は、何一つと言っていい程に改善なんてされてないのだから。

 

(私は二人に生きて幸せになってほしいのよ)

 

 言うまでもなくカツヤの事は大事だし。

 

 あそこまでお互い想い合ってるんだから、アキラとシェリルには報われてほしいとユミナは願っていた。

 

「でも謝ってるのにコイツが……」

 

「言い訳出来る立場!? 本当に反省してるの!?」

 

 だからこそ、既にカツヤには誰が悪いのかというのは全力で解らせていた。

 

 ミズハに事情を話し、アキラとシオリが殺し合った際の記録をミズハの権限でカツヤと共に見せてもらったし。

 

 ルシアの件に関しては、ルシア直々にカツヤに真実を説明してもらっている。

 

 ――カツヤ達より長く徒党の警備に就いていたユミナは、徒党の面々と友好関係を築いており、ルシアとも再会し事実を全て聞いていた。

 

「アキラが何か悪い事した? どれだけ失礼な態度取ってても助けてくれたのは誰? それを踏まえて今の自分の態度見直しても同じ事言える?」

 

「…………」

 

 捲くし立てるユミナの言葉にカツヤは何も言い返せない。

 

 確かに全てを踏まえた上で考えれば、自分の態度は悪いなんてものじゃないからだ。

 

「あー、その、ごめん。これじゃあ余計に私が無理やり謝らせてるみたいに見えるわよね。これでも本当に自分から謝りに行くって言ってたのよ……」

 

 半ば置いてけぼりでカツヤとユミナの聞き続けるしかなかったアキラは、突然ユミナに視線を向けられ、何と答えればいいか迷う。

 

 何せカツヤは、今でも一度だってアキラの顔を真面に見ようとしないのだ。

 

 そんな不貞腐れたような態度なのに本気で謝りに来たなんて言われても、何の冗談かという話でしかない。

 

「本当にちゃんと話し合って、それでも許せないなら諦めるわ。こっちが全部悪いんだもの。だからお願い! 一度でいいの。話し合いの機会を頂戴!」

 

 けれど、それでも食い下がるユミナを邪険にし続ける事はアキラには難しく――

 

「……解った。ユミナにはハンターランク調整依頼の時に失礼な事したしな。今回の頼み聞くから、それでチャラって事にしてくれ」

 

 ここに。

 

 アキラとカツヤ、二人の和解を目指す話し合いの場が設けられる事になったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。