中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「別にいい。お前があの時ああ言わなきゃ、俺はユミナの事だって他の奴等と同じように敵だと思い続けただろうしな」
だが、本当にその発言に対してだけは、アキラの方には遺恨も嫌悪もない。
自分を悪くないと言ってくれる人が居る。
それも仲間であるカツヤを殴り飛ばしてまで。
「多分、あの時のユミナの言葉がなきゃ、俺は今でも誰も信じられないままだっただろうからな」
間違いなくアキラという人間の世界を塗り替えた出来事であり――
この出来事がなければ、きっとアキラはもっと他人の気持ちに対して無頓着な人間になっていただろう。
自分と恋人関係なんて嫌だろうなんて慮り、シェリルに変な気を回したりもしなかっただろうし。
シオリに告白されたって、考える事もせず一笑に付して終わらせていた筈だ。
「お前……」
そんなアキラの言葉と態度にカツヤも気付く。
ユミナは単に女だったからという理由だけで、調整依頼の同行を拒否された訳ではない。
誤解されてもおかしくない。
少なくともアキラ自身が思ってしまう程度には気に掛けている相手だったからこそ、あえて同行を断ったのだと。
「なんだ?」
何か気になる事でもあったのか、と言いたげなアキラの視線にカツヤは答えない。
わざわざ口に出して指摘するような事でもないし――
(そりゃあシェリルさんに告白されたら他を捨ててでも応えようって気になるのは解るけど、だからって……)
憎からずユミナの事を想っていたのに、それでも切り捨てた。
それがまるでユミナとシェリルじゃ比べるまでもないなんて言われたみたいで、何だかカツヤには妙に腹立だしくて。
「アキラ。俺はお前が嫌いだ」
少し前までは素直に謝ろうと本気で思っていた筈なのに。
カツヤの口から飛び出したのは、そんな言葉だった。
「多分これからも突っ掛かるのは止められないだろうし、失礼な事もして、恩知らずな態度も取ってしまうんだろうなって思う」
謝罪なんてものからは完全に掛け離れた開き直った内容。
もはや犯行予告と言っても差し支えない暴言だろう。
「けどな、それは単に俺がお前を気に入らないのが理由だ。お前に何か悪いところがある訳じゃない」
それでもカツヤは悪いのは全て自分だと宣言した。
嫌っているからって酷い扱いをしていいなんて道理はない。
意味もない嫌悪で横暴な事をしているのは俺の方だから、アキラが悪いなんて思うななんて。
一方的で身勝手で。
だが、カツヤなりの精一杯の言葉でアキラに気持ちを伝える。
「何だよ、それ」
これにはアキラも思わず苦笑するしかなかった。
自分に何の非もないのに嫌がらせ染みた態度を今後も取られ続けると言われたんじゃあ、どうしようもないだろと呆れ果て、笑うくらいしか出来ない。
けれど――
「俺もお前が嫌いだ」
どこか清々しくもあった。
この場で謝って、それを許して。
これからは仲良くしていこうなんてのは自分達には似合わない。
いや、そんな事をしたって結局は不満や苛立ちが募っていき、遠くない未来で傷付け合う事になるだけ。
「根拠もなく悪者扱いしてくるし、助けてやっても礼の一つも言わない。関わらないようにしてても無駄に突っ掛かってくる」
自分達に出来るのは、お互い嫌いだと素直に認める事しかないのだ。
何故なら――
「そんな失礼の塊みたいな奴の癖に、周りには信頼して命を賭けてくれる仲間が居る。好きになんてなれる訳ねえだろ」
(それに俺と違ってアルファが居る訳でもないのに、自分の力だけで強いのだって凄いって思ってたさ……)
アキラだって本当はずっとカツヤが妬ましかった。
カツヤの求めるものの多くをアキラが持っているように。
カツヤもまた。
アキラの求めてやまないものを多く持っている。
お互いがお互いを羨ましくて仕方がない。
だからこそ、二人はきっと相容れる事なんて出来ないのだろう。
「そうか。それじゃあ嫌い合う者同士、今後は気を付けて付き合っていこうぜ」
「ああ。無駄に揉めて時間や体力なんて使いたくないからな」
これで話は終わったとばかりにカツヤは部屋を後にする。
どちらも握手の一つさえしようとしない様子は、和解が成立したというよりは――
これ以上話すだけ無駄だという、ある種険悪にさえ見える態度でもあり。
『その、仲直り、したのよね?』
話の流れ的に多分大丈夫だと思いつつ。
それでも念の為にアキラに尋ねるアルファだったが――
『直るような仲なんて最初からないんだ。仲直りなんて出来る訳ないだろ』
アキラは迷う事無くアルファの言葉を否定する。
(別に進んでアイツと協力し合いたいとか思えないしな)
事実、和解したつもりなんて一切ない。
もし任意で一緒に依頼を請けられる機会があったとしても、面倒事が起きそうだから御免だなんて迷う事無く断るだろう。
だが、もしそれで断る羽目になったのが割の良い依頼なら。
話し合う前までのアキラならカツヤに気を遣って何で自分が依頼を譲らないといけないんだと、苛立ちや不快感を覚えずには居られなかった筈だ。
『まあ確約までは出来ないけど、今後アイツとのトラブルは減るとは思うよ』
『そうなの? それならいいんだけど』
けれど今の自分達なら、今回の依頼は譲ってやるから、次はお前が譲れよくらいの話し合いくらいなら出来るだろうなんて。
確かにカツヤとの関係が変わった事をアキラは自覚していたのだった。