中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
アキラとカツヤの話し合いが終わるより少し前。
ユミナは二人の会話を聞き続けるのに耐えられなくなり、外へと飛び出していた。
顔に浮かぶは強い自責の念。
まるで拷問でも受けているような苦痛の表情を浮かべ、歯を食い縛る。
(アキラが私に好意を持ってくれていたのには気付いてた……)
仲良くないどころか目に見えて嫌っているカツヤの窮地でも、頼めば見返り一つ求めず助けてくれるし。
カツヤやアイリと一緒に居たって、進んで話し掛けて来るのは自分だけ。
これだけ露骨に好意を示されて、解らない程ユミナは鈍くない。
(けど、それは同年代で異性のハンター仲間が珍しいくらいのもので、シェリルさんとは比べるまでもない、その程度の気持ちでしかないって……)
口数が少ないアイリより話しやすかったとか、見た目が自分の方が好みだったとか。
その程度の軽い移り気。
カツヤが可愛い女の子を見ればデレデレしているのと同じようなものでしかない、なんて勝手に思い込んでいたし。
調整依頼の同行を断られた事で、その考えは確信に変わっていた。
「……あんなの、争う気はないって見せたいだけのパフォーマンスだって丸解りだったじゃない」
ルシアの掏りの一件。
あの時の言葉に確かに嘘はない。
盗んだ人間より盗まれる人間が悪いなんて事、あっていい筈がないと心の底から思っている。
けれど――
アキラの事なんてユミナの頭の中には全くなかった。
どうすればカツヤをあの場から無事に切り抜けさせられるか。
それだけしか考えていなかったのに。
あんなにも強く、アキラが受け取っていたなんて想像すらしていなかった。
「アレだけの事で今まで助けてくれるなんて……」
アキラの気持ちを聞かされた今だからこそ、ユミナには解る。
遺跡や賞金首の時に命を助けてくれたのはアキラくらいの実力があれば、助ける事が大して手間じゃなかったからだとか。
自分に良いところを見せたいから少しくらい無理してた、なんて簡単な理由ではなかったのだと。
あんな見え見えの、演技と言っても差し支えない行動に恩義のようなものを感じて――
あの時はありがとう、嬉しかった。
そんな言葉の代わりに、それこそアキラ自身の命も顧みず危険を冒して助けてくれていたのだろう。
(それなのに私は今まで、ううん。今回だって……)
アキラの事を全く考えていなかった訳ではない。
けれど、やはり本質的には今回もカツヤの身を案じての事。
そのついでに、アキラとシェリルの事を考えていたに過ぎないのだ。
(本当、今までアキラの何を見てたんだろう、私……)
別に好意には好意で答えなければならないなんて考えはユミナにはない。
それではストーカー染みた男に好意を寄せられればどうすればいいんだという話になるし。
その気もない相手に思わせぶりな態度を取る方がどうかしていると思うタイプだ。
――何せカツヤという、女と見れば全方位に愛想を振りまく八方美人男が想い人なのだ。
その手の行動に良い顔なんて出来る訳がない。
(身勝手で、アナタに凄く良い人だなんて言ってもらえるような人間なんかじゃないのよ……)
ただカツヤを救おうとしただけの事に、見当違いの感謝を捧げられた事が。
その事に全く気付いてなかった事が。
ユミナの心を強く締め付けて放してくれない。
奇しくもアキラがサラ達の命を救い、その事で礼を言われた時と同じような気持ちをユミナは味わっていた。
「ユミナ……」
突然駆け出したユミナの後を追ってきたアイリだが、慰める言葉が浮かばず立ち尽くしてしまう。
アイリには解らない。
どうしてユミナが逃げるように去ったのか、ではない。
言葉が少ないだけで割と察しが良いアイリには、ユミナが何にショックを受けて逃げ出したかくらいは解る。
(それは、そんなに苦しそうな顔しないといけない事なの?)
解らないのは、それにショックを受ける理由だ。
本人にそんな意図はなかったとしても、その言葉に救われた者がいる。
それがそこまでショックを受けないといけない事だとは、どうしてもアイリには思えないのだ。
(救われた側が納得してるってだけじゃ駄目?)
何故ならアイリ自身が似たような形で救われた側だから。
カツヤに取っては多く助けてきた中の一人でしかなくて、特別でも何でもなかった筈。
それでもアイリの世界は、カツヤに救われた時に間違いなく変わった。
(ごめん、ユミナ。どんな言葉を掛ければいいか解らない)
だからアイリには何を言ってユミナを慰めればいいか解らないし。
一緒に悲しんであげる事も出来ない。
「……ごめん、心配掛けたわね」
それでも傍に居る事は非力であっても無力ではなかった。
一人なら、もっと落ち込んで塞ぎ込んだままだっただろう。
けれど、この程度の事で仲間に心配を掛けたまま俯き続ける程ユミナは弱くはない。
「……もう大丈夫?」
「大丈夫って程大丈夫じゃないけど、落ち込んでばかりもいられないしね」
無理やり笑顔を絞り出し、空元気で前を向く。
ただの虚勢でしかなくても塞ぎ込んで動かないままでいるよりは、ずっとマシだと信じて。
「どうするの?」
「どうするって……」
心配させない為に無理に顔を上げただけで、その先なんて考えてない。
だが――
(あっ、そっか。受け取ったまま何も返せてないから後ろめたいのよね)
アキラだって調整依頼を断った件で後ろめたい部分があったからこそ、じゃあカツヤと話し合うからチャラにしてくれと持ち掛けてきた。
自分も同じように。
アキラの感謝にも気付かず甘え続け助けてもらった分だけ、アキラに何かを返せばいいのでは、とユミナは気付く。
「もしアキラが困る事があったら、今度は私が助けられるよう頑張ろうと思うわ。それでお相子だものね」
いつかカツヤの事とか抜きにして、純粋にアキラの助けになればいい。
一人で勝手に傷付いているより、その方がよっぽど建設的だ。
「ありがとう、アイリ。助かったわ」
「どういたしまして」
今度は虚勢じゃない心の底からの笑みをユミナは浮かべ。
それに気付いてアイリも笑みを返す。
その直後。
「こんなトコに居たのか」
アキラとの話し合いを終え、ユミナ達を探しに来たカツヤと再会する。
見るからに晴れ晴れとした表情であり、付き合いの長いユミナでさえ今のカツヤの顔からは憂いの一つすら見出す事が出来ない。
「その様子だと話し合いは上手くいったみたいね」
心配事が一つ片付いた事を確信し。
先程までの悲痛な表情とは打って変わり、安堵の表情を浮かべたユミナだったが――
「ああ。お前の事嫌いだって言ってきた」
ユミナの葛藤なんて知った事かとばかりに。
あまりにふざけた事をカツヤが言い出したものだから、その表情を一変させる事になる。
「……人が、どういう気で居るかも知らないで」
無表情だ。
あまりに怒りと呆れが強過ぎて表情を作る事も出来ず。
それなのに怒気だけが視認出来そうな程に激しく立ち上っていた。
「ま、待て。誤解だ、ユミナ。本当に上手くいったんだ!」
さすがのカツヤも自己完結し過ぎた説明不足な言葉だったと気付き、慌てて説明しようとするが。
時既に遅く。
「信じられる訳ないでしょ! この馬鹿!」
ユミナの拳がカツヤの顔面に叩き付けられる。
声も出せずに吹っ飛び地面を転がっていくカツヤを、アイリは冷めた目で見下ろしながら呟いたのだった。
「言葉足らず」
この中で八章に何か言いたい事があれば
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カツヤの扱いはもっと雑な方が相応しい
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大きい変化だが違和感はなかった