中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
『何か買い足しておいた方がいい物はあるか?』
元々、キバヤシの無理難題とも言える依頼を請けるつもりだったアキラは、弾薬等は十分あると思っていたし、すぐにでもシオリの救助に向かいたかった。
けれど、ユミナに準備はしっかりするように言われた事もあるし、モンスター討伐や遺物収集と違い救助なんて不慣れだ。
後から足りない物があったなんて事態に陥っても困ると確認しようとしたのだが――
『アルファ?』
いつもと違って返事が来ない。
不思議に思ってアルファの方へと顔を向けたアキラは――
自分を見詰めているアルファの顔を直視して、思わず息を呑む。
どこか思い詰めたような、見た事ない表情を浮かべていたからだ。
『アキラ、結論から言わせてもらうわよ』
シオリなら助けたら依頼料は弾んでくれる筈だ、なんて取って付けたような言い訳を口にする暇もなく。
表情に見合った深刻な雰囲気のまま、アルファが言葉を紡ぎ始める。
『私がどれだけサポートをしても、今のアキラの実力と装備じゃシオリの救出は不可能よ。共倒れするだけ。アキラ一人が生きて帰って来れる可能性も決して高くないわ』
その後に続いたアルファの説明はこうだ。
本来なら今シオリが取り残されている遺跡の難度は高い方ではなく、シオリ達なら十分攻略可能な筈だった。
ところがシオリが前回、遺跡で取ったある行動が、遺跡の危険度を跳ね上げる事に繋がってしまったらしい。
『シオリは遺跡から追加のモンスターが出てくるのを防ぐ為、遺跡の入口を切り落として塞いだの。これを破壊活動と認識した遺跡の管理人格は、警備レベルを大きく上げてしまったのよ』
遺跡側から見たハンターというのは侵入者であり窃盗犯だ。
ハンター達から見れば全力で命を刈り取りに来ているようにしか見えないモンスターだが、遺跡側としては万引き犯を相手にしている程度のものでしかない。
ところが前回のシオリの行動は、遺物を回収しようとするでもなく単に遺跡を破壊しただけ。
遺物を持ち帰ろうとしなかった事が、逆に遺跡を警戒させる事になったのだ。
『普段は窃盗犯に対する警戒くらいしかしてないのに、今は襲撃者を相手にする状態まで警備が強化されてるって事か……』
アルファの説明に、確かに危険そうだとアキラは納得して頷く。
『それだけじゃないのよ』
ただ警備が厳重になっただけなら、まだシオリを助けられる可能性はあった。
問題は、シオリが襲撃者として遺跡に登録されてしまった事にあるのだと、アルファは告げる。
『この登録は非常に厄介よ。アキラが知っているもので似たようなものを挙げるなら死後報復依頼プログラムが近いけれど、あれ以上に執拗で解除も困難なの』
そこでアルファはカツラギとの出会いの話を始める。
あの時のモンスターも、もしかしたらカツラギを標的にしていたから、どれだけ遺跡から離れてもお構いなしに追い続けてきていたのかもしれない、と。
『それじゃあどうして前回は無事だったんだ?』
どこまでも執拗に追ってくるのなら、前回はどうやって逃げ切ったのか。
そこに一筋の活路を見出しアキラはアルファに訊ねたのだが――
『登録されたのが今回の遺跡攻略時だからよ。もう二度と来ないなら遺跡側としてはどうでもよかったんでしょうけど、二度も来られた上に前回より重武装となったら対応するしかなかったのでしょうね』
もし前回の時点で登録され奇跡的に生き残っていたのなら、アルファは何とかしてシオリを遺跡に近付けないよう努力しただろう。
シオリに告白されてからのアキラは、ユミナやシェリル、サラ達とも適度な距離を取りアルファとしては理想的な活動をしていたからだ。
『登録が解除されてない以上、まだシオリは生きてるわ。だから死ぬ前に最後にシオリと会って話をしておきたいって言うなら、私も協力するけど――』
出来ればアルファとしても助けたかった。
その方が都合が良いし、アキラからの信頼も増す。
それが出来ない以上、アキラの知らないところでシオリが死ぬ事を願っていたのだが、それも無理となった今――
アルファは賭けに出た。
『どうしてもシオリを助けたいって言うなら私の協力はないものと思って。さっきも言ったけど、今のアキラの力じゃ私の計算外の奇跡でも立て続けに起きない限り、どう頑張ってもシオリの救出は無理なの。さすがにアキラが死ぬ手伝いをする気も義理も私にはないわ』
おそらくアルファが諦めろと言ったところで、アキラはシオリを助けに行ってしまうだろう。
そのくらいは今までの付き合いでアルファにだって解る。
だが、自分との契約を天秤に掛ければどうなるか?
シオリを助けに行ってアキラが死んでしまえば、報酬を前借りして踏み倒したようなもの。
それも事故等で踏み倒してしまったのではなく、アキラの意志で踏み倒す事と同じ。
義理や契約というものを必要以上に大事にしているアキラなら、止まってくれるのではないかという完全な賭け。
アルファの演算能力ですら判断出来てないギャンブル。
――そこまでの賭けに出てアキラを止めなければならないくらい、シオリの救出は絶望的だった。
『……解った』
アキラの逡巡は深く長かった。
何の得なんてなくても守り続けてきた意地や義理を守り、スラムで野垂れ死ぬしかなかった自分をここまで引き上げてくれたアルファへの恩を取るか。
命を捨てる事になろうとも、自分なんかを好きだと言ってくれたシオリを取るか。
そして――
『アルファに契約破棄の手伝いさせる訳にもいかないもんな。今回は俺一人で行くよ』
悩んだ末にアキラはシオリの元へ向かう事にした。
それがアルファへの手酷い裏切りだと理解していながら。
それでも、その道を選ぶ事しか出来なかった。
『……私の手伝いがあっても死ぬ確率の方が高いのよ? それでも一人で行く気?』
シオリの救出を阻止出来ない以上、少しでもアキラの生存率を上げる為、アルファとしては不本意ではあるものの協力したかった。
だが、先程のアキラの言葉では協力どころか一緒に行く事さえも出来ない。
手伝ってほしいという言質を求めようとするアルファだったが――
『ああ。ほとんどアルファを裏切ってるようなもんなんだ。これで手伝ってくれなんて言えないよ』
アキラから、その言葉を引き出す事が出来ない。
(マズいわ。このままだとそのまま契約破棄に繋がるかもしれない……)
シオリが死んでアキラだけ生き残る可能性が残されてる以上、契約だけは破棄される訳にはいかず、焦るアルファだが――
『もし奇跡が立て続けに起きて生き残れたらさ。その時はアルファの依頼を再開してもらう事って出来るか?』
その心配は杞憂に終わる。
アルファの手伝わないという発言を、これで契約終了だとアキラが判断していて、確認してきたからだ。
『……随分都合の良い話だけど、その時は寄り道分を少しでも取り戻してもらう為、今まで以上に厳しくさせてもらうわよ?』
それなら下手に出るよりは、上からの言葉を返した方がいいだろう。
即座にアルファは判断し、からかい混じりにアキラに笑い掛ける。
『お、お手柔らかに頼むよ』
その言葉を拒否されなかった事に内心だけで安堵しつつ、アルファは考え始める。
(これで契約だけは維持出来たけど……)
ここからアキラを生き残らせる為に自分は何を出来るのか。
そして――
(契約自体は守ろうとしてるから、恋慕の方が優先順位が上なだけ? それなら危険がない相手なら両立出来るし、生き残れたらそういう相手を探して当てがう方がいいのかしら?)
アキラの思考の流れと選択に対する考察と、今度は確実に制御する為の方法を。
『それじゃあ今から私が言う物を買ってきなさい。救助に向かうなら、弾薬も消耗品も心許ないわ』
けれど、そんな思考は欠片も表に出さない。
当たり前のような態度で装備の調整を手伝う言葉を告げる。
『え、でも――』
『助けには、一人で行くんでしょ?』
その手前くらいまでは協力してあげると言わんばかりに、悪戯っぽい笑顔を向けるアルファに――
『……ありがとう、アルファ』
アキラは酷く沈痛な表情で感謝の言葉を述べたのであった。
この中で九章に何か言いたい事があれば
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ワクワクしてきた
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不穏な空気だ……