中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
(ユミナから何回も通信が着てるな……)
カツラギの所で足りなかった消耗品の注文を済ませたアキラだったが、遺跡の場所を確認しようと端末を見ると、五分置きくらいにユミナから着信通知が届いている事に気付く。
折り返しの連絡でもしようかとアキラが端末を弄ろうした瞬間、目の前で再びユミナからの通信が入り――
『よかった、繋がった! アキラ、今どこ!』
アキラが何かを言う暇もなく、慌てたユミナの声が響いた。
『拠点のすぐ傍だ』
『まだ救出には行ってないのね! 私も近くに居るの。すぐに行くからそこに居て!』
そんな叫びと同時に通信が切れ――
程なくして、息も絶え絶えで汗だくな様子のユミナがアキラの前にやってきた。
おそらく強化服の力を全開にして、休み無く走ってきたのだろう。
「……何とか間に合ったってところかしらね」
アキラの後ろにある車を確認したユミナは、そこに遺物を詰め込む余裕もない程に弾薬や消耗品が詰め込まれている事に気付いて。
疲れた身体に気合を入れ、真っ直ぐにアキラに向き合った。
――あれからドランカムで情報を仕入れたユミナは、シオリが取り残されている遺跡の危険性を知り、慌ててアキラを止めに来たのだ。
「シオリさんの救出に行くのよね?」
「ああ。ちょっと足りない物があったからカツラギに急いで用意してもらうように頼んだ。それが届いて、後はもう一つ用事を済ませたら行くよ」
(この様子だと、まだアキラは遺跡の危険性を知らないのかしら?)
気負う事無く平然と答えるアキラの姿に。
無理やり止めなくても危険性を説明すれば止まってくれるのではないかと、ユミナは緊張を僅かに緩めた。
「それ待ってほしいの。というのもね――」
そして、自分が手に入れた情報をアキラへと説明していく。
「ああ、知ってる。それだけじゃなくて、都市の上層部が動き始めてる。ユミナも何か手伝えるかもって思ってるみたいだけど、危ないから近寄らない方がいいぞ」
けれど、それはアキラがアルファから聞いた情報よりも随分甘い内容で。
このままだとユミナが無駄死にしそうだと感じたアキラは、逆にユミナに近寄らないように注意した。
「都市が動いてるって……。それを知っててアキラは一人で行く気なの!?」
「そうだけど……」
「死んじゃうわよ!」
「そうなる確率の方が遥かに高いのは知ってる」
ユミナに言われるまでもなく、アルファから宣告されている。
その上でアルファを裏切る事になると解っていても、行くとアキラは決めたのだ。
今更死ぬと言われたところで迷いなどしない。
「……アキラの意志が固いのは解ったわ」
言葉だけでアキラを止められない事を悟ったのだろう。
ユミナは銃を抜くと素早く構える。
「ユミナ、何して――」
その銃が自分の方に向いてくれていたなら、アキラは迷わずユミナを取り押さえる事が出来ただろう。
けれど、銃口はユミナ自身へと向けられていた。
「私じゃあ、どうやったってアキラを止める事なんて出来ないもの。それくらい解るわ。だからお願い。ドランカムが部隊を派遣するか、都市がハンター達に依頼を出すまででいいの。それまで待ってもらえないかしら?」
止まってくれないなら、自分の身体を撃ち抜く。
死にはしないだろうけど大怪我は免れない、とユミナは自身の身体を盾にアキラを止めようと交渉する。
「……どうしてそこまでするんだ?」
ユミナが仲間の為に身体を張るだけでなく、命を賭けられる人間なのはアキラも知ってる。
だが、それはあくまで仲間の為ならだ。
自分の為にユミナが身体を張る理由なんてない筈だった。
(どうして、ね……)
恩の一つも返せないままアキラに死んでほしくないだとか、アキラが死んだらシェリルはどうなるのだとか。
一瞬のうちに色々な理由が思い浮かんだユミナだったが――
「大事な友人が死にに行こうとしてるのよ? 入院する程度の怪我で止められるなら止めるわよ」
この面倒なくらいに解り難くて、常識外れで無茶苦茶な価値観を度々見せ付けてくる。
だけど、不器用過ぎる程に誠実で、真っ直ぐな友人が死んでしまうのが嫌。
それがユミナが表面意識で理解してる一番の理由だった。
――深層心理としては、アキラとシェリルに自分達を重ねており、シェリルを置いて別の女の為に命を捨てようとしているアキラを許せない部分も大きいだろう。
「逆に聞くわ。どうしてアキラはシオリさんの為にそこまでしようとしてるの?」
「……キバヤシからの依頼の時に言ったよな。誤解されたくない人が居るって」
「え、ええ。聞いたけど――」
突然の話に戸惑いを隠せないユミナだが――
話の流れから推測出来ないからといって、ユミナが鈍い訳ではない。
アキラに告白した相手をシェリルだと思い込んでいる上に、殺し合った二人が恋仲とも言えるような関係になっていると推測する方が無茶な話なのだ。
「それがシオリだからだ」
そして短く告げられたアキラの言葉に、ユミナは銃を落としそうになる。
それ程までに予想外の発言過ぎた。
「待って。シェリルさんじゃないの?」
あまりの驚きに意識は戦闘時のものでなく、普段の素に近い状態へと戻っており。
銃口は既にユミナ自身から外れ虚空を向いており、引き金からも指が外れていた。
「シェリルとは仕事上の付き合いみたいなもので、恋人だって事にしてないと徒党の運営に差し支えるらしいから、建前上は恋人って事になってるだけだよ」
よく解らないがユミナの意識が戦闘から通常の状態に戻った事に気付き、アキラも意識を日常の元へと切り替え――
ユミナの質問に気負う事無く自然に答える。
「……アキラ。それ本気で言ってる?」
「本気って……。ああ、そういう事になってるなら、他人に話したらマズイって話なら他の人には黙っててくれると助かる」
アキラとしては特にシェリルと恋人関係を装ってくれと契約している訳ではないので、シェリルが口裏を合わせて欲しそうな時なら合わせるが――
そうでもない時は、わざわざ隠す事でもないとしか思っていない。
(何やってるのよ、シェリルさん……)
そのあまりにズレた返答と態度に、ユミナは理解した。
アキラは女としてシェリルに全く興味がないのだという事。
そして、その理由の大部分はアキラに問題があるのかもしれないが、何割かは確実にシェリル本人にも問題があるという事も。
「……一つだけ教えて」
もうユミナにはアキラを止めようという気は無くなっていた。
もしカツヤが同じように遺跡に取り残されていたなら、自分が死ぬかもしれなくてもユミナだって助けに行くだろう。
そんな自分に、アキラを止める資格なんてないとしか思えなかったから。
「どうして、そこまでしてシオリさんを助けたいの? 告白されたから?」
ただ、どうしても納得出来ない事がある。
何故シェリルでなくシオリなのか。
無意識にアキラ達に自分とカツヤの関係を重ねていたユミナは、シェリルが選ばれなかった理由を訊かずには居られない。
「どうして、か」
言われて初めてアキラは考える。
告白だけならネリアにもされたが、別にネリアが死にそうになっていたからって助けになんていかないだろう。
それじゃあ他の理由はと考えて、ふとユミナに目がいった。
「多分、俺を認めてくれた唯一の普通の人だからかな」
「どういう事? 私だってアキラの事は認めてるし、エレナさん達だってアキラの事は認めてると思うけど……」
「ユミナは優し過ぎるし、エレナさん達は偶然俺が命を助けて恩を感じてくれてるから認めてくれただけだよ」
「優しいって、私は別に……」
「俺は何もなかったら初対面の相手には嫌われるか侮られて、喧嘩になるのが普通なんだ。ユミナは恩も借りも何もなかったのに最初から俺の事を嫌わないでくれただけじゃなく、庇ってもくれたからな。優しいよ」
だからこそ、アキラはユミナに惹かれた。
こんなに優しい人なら自分なんかでも好きになってくれるかもしれない、と縋るように祈っていたのかもしれない。
「いや、普通は何もないのに嫌ったりなんてしないでしょ?」
「そうか? レイナなんて初対面で一人で死ねなんて言ってきたし、シオリなんか出会って少しした後に殺し合う直前までいったぞ」
「…………」
レイナの方は間近で見ていた上に、シオリとの事もユミナは知ってる。
あんなのが最悪な方の出会いでなく、アキラにとっての標準だと聞かされて最早何も言えなくなってしまう。
――正確にはレイナを雇わないと言って殺し合いになりかけた方なので、知っていると思ったのはユミナの勘違いである。
「シオリだけなんだ。そうやって俺の事を他の奴等と同じように嫌ってた筈なのに、好きになってくれた人って」
アキラの中でシオリの認識が変わり始めたのは、二回目にレイナを助けた後の食事会。
あの時にアキラが戸惑った理由は、嫌われていた筈の相手から仲良くしようと言われたのが初めてで、どう反応していいか解らなかっただけ。
そして、義体男の件。
何の証拠もなかったのに自分の言葉を信じ、手を汚してくれた時――
アキラも同じようにシオリを信じたいと、心のどこか本人も気付かない場所で思ったのだ。
「だから止めてくれたユミナには悪いと思うけど、放っておけない」
そうして、アキラはどこか困ったように笑う。
ユミナをないがしろにしたい訳じゃないけど、それでも止まる気はないという気持ちが苦笑になって零れて。
「……私に何か出来る事ってある?」
それでユミナは納得した。
ただの友人でしかない自分が止めていい想いではなく――
だからこそ友人である自分に少しでも手助け出来る事はないかと問う。
――非力で、何も出来ないなんて解っていても。
「ああ、丁度よかった。ユミナにしか頼めない事があるんだ」
けれど、ユミナの予想に反して。
アキラは、ある事をユミナに提案する。
「……どうして私なの?」
提案自体はユミナとしても納得出来る内容だった。
けれど、それなら他にもっと適任は居るんじゃないかと思って訊き返す。
「こういう事頼める信用出来る友人ってなると、俺にはユミナしか居ないんだ。エレナさん達は、こういう事頼むのは気が引けるというか……」
「カツヤは? 私より向いてると思うけど」
「あいつは何か余計な事しそうで信用出来ないし、友達でもなんでもない」
にべもないカツヤへの評価。
だけど、そこに嫌悪もなければユミナ自身納得出来る妥当な内容だった。
「いいわ。引き受けましょう」
それでユミナは頷いた。
この提案を受け入れ、精一杯頑張る事こそ自分がアキラに出来る唯一の恩返しであり――
(ごめん。こんな事でしか力になれなくて)
もう二度と、恩返しの機会は来ないのだと。
アキラの死が近付いている事を、強く実感していたから。
この中で十章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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面白かった
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ユミナの描き方が上手かった
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シズカとの関係の区切りが上手い
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アルファの思考の流れが上手い
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続きが気になる……