中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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十二章 娼女は恋に臆病で
虚構だらけの迷推理


「お任せ下さい! 必ずや期待に応えてみせます!」

 

 ユミナを通してシェリルから依頼の打診を受けたミズハは、喜びを隠し切れないとばかりの様子で頷いていた。

 

(来たわ来たわ! 予想通り!)

 

 依頼内容は、ある遺跡の調査並びにモンスターの群れが発生しているなら速やかに討伐。

 

 そして先行で調査させているハンター、アキラの援護というもの。

 

 この突発的とも言える依頼に対して――

 

 ミズハは兼ねてから用意していた外部のハンターへの招集依頼を僅かに修正しつつ即座に発し、既に多くのハンターから詳細の問い合わせを受けていた。

 

(シェリルさんも人が悪いわね。一番に私に連絡してくれたらよかったのに……)

 

 事前に準備をしていた理由は、少し前から変な噂がハンター達の間で流れていたからだ。

 

 その噂というのが――

 

 見るからに金持ちの少女が、大して難易度も高くない筈の遺跡の調査をさせる為に大金をばら撒いているという、真面な頭をしていたら夢を見るのも大概にしろとか、詐欺を疑った方がいい内容の話である。

 

 だが、ミズハにはその遺跡にも少女にも心当たりがあった。

 

(やはりシェリルさんは防壁の向こう側の住人。それも裏に居るのは都市防衛に深く関わる人間のようね)

 

 今回の遺跡に起きている事態は既に都市防衛に関わる次元にまで危険視されている事は、ドランカムの幹部ならば周知の事実であり――

 

 その解決の為にシェリルが動いていると考えれば、そういう帰結になるのも当然の流れだろう。

 

(あのアキラってハンターも都市のエージェントにスカウトされていたのね。思えばあのハンターが絡むと都市の重役が出張ってくる事ばかりだったわ……)

 

 そして、その流れから考えるとアキラをエージェントと考えるのも自然な流れだ。

 

 おそらく最初に遺物強奪犯を撃退した時に、スカウトされていたのだろうとミズハは読む。

 

 賞金首の時や旧世界製の服を着た女が暴れた時に、都市の人間が口を出してきた時点で予測しておくべきだったと、ミズハは自分の推察が甘かった事を悔いるが――

 

 勿論、これらの推測は全て的外れである。

 

 ユミナから事情を聴いて即座にミズハへ連絡したシェリルが噂になんてなる訳もなく、噂の原因はカナエを連れてシオリを助ける為に駆けずり回っているレイナの事だし。

 

 アキラは別に都市のエージェントでも何でもない。

 

 だが、それでミズハを責めるのは酷というものだろう。

 

(前払いで三十億オーラム。これは予想よりも少ないけれど、それだけ裏で動いているという事でしょうね)

 

 三十億オーラムの大金を前払いで渡す、ただ強いハンターを後ろ盾にしているだけのスラムの少女。

 

 都市が何度も関わらなければならない程の功績を残し続ける、少し前までは何者でもなかったスラムの少年。

 

 ミズハの予想に比べれば――

 

 それこそ真実の方が、よっぽど夢物語の妄想のようなものなのだから。

 

(それにしても。ただのお嬢様じゃないとは思ってたけど、まさか防衛の関係者から直接指示を受ける立場だったとはね……)

 

 ミズハは今回の件は、都市防衛を担う者達の権力闘争が大きく関わっていると予測している。

 

 そして、おそらくシェリルの裏に居る者の狙いは、誰よりも早く事態を解決し、手柄を独り占めにする事だろうと推測していたが――

 

(確かに本当にモンスターの群れが発生していて、それを事前に察知し都市を守り抜いたとなれば、この間モンスターの群れに晒されたばかりだし評価はうなぎ上りでしょうけど――)

 

 この想像通りなら、本当はシェリルからの依頼は立場的に請けていいものではなかった。

 

 というのも、ミズハも都市の幹部の一人、ウダジマと繋がりがあり。

 そのウダジマも都市の防衛に大きく関わる者だ。

 

 だが、ウダジマから連絡が何も来ていないという事は、シェリルは敵対派閥の誰かの命で動いているという事になる。

 

(おそらくイナベ辺りでしょうね……)

 

 そして、今そこまでの手柄を欲しがり、仮に失敗しても痛手を負わないように裏で動かなければいけない立場の人間と言えば限られる。

 

 ウダジマ派閥の対抗派閥でありながら、最近は押され気味で勢力が衰えつつあるイナベ派閥。

 

 その長であるイナベが妥当なところだろう。

 

(バレたら鞍替えしようとしたで済む話じゃないわね)

 

 裏切りと言っても過言ではなく、バレればミズハは関係を切られるどころではない。

 

 間違いなく物理的に消されるだろう。

 

 だが――

 

(協力して頂ければ上の者へ、その献身を私の口から直接お伝えします、ね……)

 

 今回の結果次第では、パワーバランスが一気に引っ繰り返る。

 

 押され気味だったイナベは息を吹き返すどころか、その立場を確かなものにし。

 逆にウダジマは虫の息になるだろう。

 

 そして、その逆転劇の立役者に最も近い位置に居るのは自分なのだという自覚があるからこそ、裏切りになると重々理解していながら。

 

 ミズハはシェリルの依頼を受けたのだ。

 

(投資した甲斐があったわね。やはりあの子は金の卵だったわ)

 

 これが成功すれば、ミズハは大きな貸しをイナベに作る事が出来る。

 

 それは繋がりこそあるものの、顔色を窺い、ご機嫌取りに甘んじているだけのウダジマとの繋がりを維持する事よりも遥かに魅力的であった。

 

 ――実際は完全な空手形であり、成功しようがシェリルに渡せる報酬の目途なんてない。

 

 バレた時点で殺される覚悟。

 

 成功したら成功したで、全ての責任をミズハに押し付け、その対応に追われている隙に逃げる気しかないという完全な詐欺であり。

 

 まさか自分がカモられる側だなんて想像すらせず、ミズハは思考を続けていく。

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