中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
(都合のいい事に動いてくれる戦力もあるしね)
都市の上層部が動き始めているという事もあり、事態を重く見たドランカムとしては慎重に動きたいところなのだが――
カツヤだけが、今すぐにでもシオリを助けに行くべきだと主張して譲らないのである。
以前のカツヤなら理想主義の子どもの戯言で済ませる事が出来るのだが――
今やカツヤの部隊はドランカム最大の戦力なのだ。
その部隊長であるカツヤの意志を完全に無視する事も出来ず、上層部は大層頭を悩ませている。
――下手に無視していたら俺一人でも行くと言い出し兼ねない上に、部隊の仲間も付いて行きそうだからだ。
(でも、今回だけは私に取っては好都合)
それなら、そのカツヤの熱意に押されて仕方なくという形にして。
ドランカムを通さず、自分の独断でカツヤ達の部隊を動かしてしまえばいい。
そうすれば、カツヤは更に自分を信用してくれるようになるだろうし。
ドランカムでの立場を失くす覚悟をしてまで協力したのだ。
イナベも自分を無下には扱えなくなる筈だ。
(手柄もドランカム全体じゃなくて、私だけのもの。本当、良いタイミングで話を持ってきてくれたわ……)
失敗すれば自分は何もかも失い破滅する。
だが、ミズハは確実に成功するだろうと踏んでいた。
(シェリルさんも甘いわね。馬鹿正直に報酬を釣り上げて高ランクのハンターだけに募集を掛けてたんじゃ、警戒して誰も請けないに決まってるじゃない)
ミズハを後押ししているのは、自分の策謀が上手く進んでいるという自信だろう。
ミズハは遺跡の調査という理由ではなく、そこそこのハンターランクの子どもが遺跡に一人で向かってしまったから、それを援護してほしいという名目でハンター達へ依頼を設けていた。
これは強い装備を貸し出し、高ランクのハンターにお守りをさせて、何の力もない子どもを分不相応にハンターランクを上げているという悪評がドランカムにある事を承知の上で――
その悪評を逆手に取り、実力を勘違いして先走った面倒臭い子どものお守りをさせる代わりに、報酬はたっぷり払うという風に見えるようにして、外部のハンターへ招集を掛けたのだ。
――ちなみに遺跡の状況に関しては、事態を重く見た都市が緘口令を敷いている為、記載していない。
(そう簡単に大金が手に入る訳ないでしょうに、餌に釣られて馬鹿が来るわ来るわ)
かなり多めの額に設定しているが、あくまで成功報酬だ。
おそらく十分の一も生き残らないとミズハは踏んでいるが、それに見合うだけの報酬は準備してるつもりだし、嘘なんて一つもない。
実際、ハンターランク調整依頼を蹴ったアキラのランクは子どもの割には中々高い程度で留まっているし、別にドランカム所属のハンターとも記載していない。
勝手に勘違いした馬鹿がどうなろうとミズハには知った事ではなく、生き残ればちゃんと報酬は払うんだから、見誤った本人の落ち度だろうとしか思っていなかった。
だが――
「え、何よこれ……」
詳細を求め参加に意欲的だった筈のハンター達から、次々にキャンセルの連絡が届いていた。
それだけならまだしも、今回の件をハンターオフィスに抗議するというメッセージまで何件も届いてる始末。
「何がどうなっ――!」
次々と送られてくるメッセージの中、複数のメッセージに動画が添付されている事に気付いたミズハは、その動画を見て言葉を失った。
(こんな物どこから!)
そこには二大徒党とアキラの戦いの中でも最大の戦い。
アキラと黒狼との死闘が、鮮明に映し出されていたのだ。
(他の情報まで漏れてるっていうの!?)
そして、援護してほしいハンターが、このアキラという事だけでなく。
向かってほしい遺跡に異常事態が発生している事まで、外部に漏れているようだった。
(誰がこんな事を……)
秘密裏に手柄を独占したいイナベ派の人間からすれば、事を公にすれば他の派閥の介入可能性が増えるだけだし。
かといって他の派閥の仕業という事も、有り得ないと言っていい。
現状ではイナベだけが事態の解決に動いている状態であり、じゃあお前等は何やってるんだと批難される理由になっても、何の得にもならないからだ。
むしろ現時点で都市に危機が迫っているなんて明かせば、高い防衛費を払っている連中から状況を確認する声が次々に上がり、身動きが取り難くなるだけ。
だからこそ都市は遺跡に異常事態が起きている事を知りつつ緘口令を敷いている訳で、どの陣営の観点で見ても何の旨みもない。
(けど都市の関係者でもないのに、この動画を手に入れられる人間なんて居る?)
二大徒党の争いの仕掛け人は都市側であり、多くの死者が出ている。
半ば周知の事実とはいえ、それでも直接関わっているなんて解る情報の扱いは相当重く――
アキラと黒狼の戦いを記録していた動画なんて、それこそ自分達が安全な場所で眺めていたという証拠そのもの。
相当な機密情報であり、並の人間では入手すら不可能な筈だ。
それをわざわざ盗み出した挙句に、不特定多数にばら撒くなんて、都市に真っ向から喧嘩を売る行為。
その果てに手に入るものなんて、都市の幹部達の怒りと都市全体の混乱くらいだが――
(そこまでして私の邪魔したい奴なんて――)
その瞬間。
ミズハの頭に1人の女の顔が浮かぶ。
その手の混乱そのものをこよなく愛し。
こんな事を出来るだけの能力を持つ、非常に質の悪い女――
ヴィオラが心底嬉しそうに笑う顔が。
「あんの、クソ女ぁ――――!」
何の意味もないヴィオラの道楽のせいで自分は破滅すると感じた瞬間。
ミズハは怨念の限り、全力で叫び出す自分を止められない。
そして。
まるでその叫びを引き金にするように、都市全体に混乱の渦が広まっていくのであった。