中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
都市にモンスターの群れが来るかもしれない。
しかも、可能性は高く既に都市の上層部とドランカムが動いている。
その情報は瞬く間に広がり、街からは既に逃げ出す者が多く出ていた。
その原因の多くは最近モンスターの襲撃を受け危険を未だに忘れてないのもさる事ながら、都市の対応にあった。
今回の事態に防衛に携わる者達は、どのような対応しているかという質問に対して、都市から示されている唯一の返答が――
ウダジマ自ら別の都市へ緊急要請に向かった、というものである。
「これ、単に自分だけ安全な場所に逃げたって話よね」
幹部自ら援軍を呼びに行ったと言えば聞こえはいいが、要はそういう事だ。
ヴィオラは馬鹿にするように笑いつつ、すこぶる上機嫌であった。
何せただ街を眺めるだけで、気配に聡くない人間でも解る程に死を予感した者達の落ち着かない空気が満ちているのだ。
ヴィオラに取っては、至福の一時と言っていい。
「そんな機嫌良くしてていいの? 都市そのものに喧嘩を売ったのよ?」
ヴィオラの態度に苦言を呈するのはキャロルだ。
悪趣味なのは今に始まった事ではないから今更何も思うところなんてないが、それでも今回の件は、やり過ぎにしか思えない。
さすがに今度ばかりは口先だけで誤魔化して生き残れるかと言えば、難しいだろうとキャロルは思う。
「自分で頼んでおいて言う? 私はアナタからの依頼を完璧にこなしただけじゃない」
だが、その苦言を呈したキャロルこそが今回の仕掛け人であった。
ミズハはヴィオラの悪趣味に巻き込まれたと思っていたようだが、事実は違う。
「有象無象のハンター掻き集めているミズハの動きを、今すぐ止められるかって私に聞いたのはアナタじゃない。お望み通り止めてあげたのに何が不満なのよ?」
実はシェリルの部屋には盗聴器が仕掛けてあり、全ての話を聞いていたキャロルがミズハの妨害を願ったのだ。
「その事自体には不満はないわ。報酬だって破格過ぎて怖いくらいだし」
都市を敵に回す事になるし、その事でキャロルを巻き込む気はないけど、それで依頼するのかと事前に聞かれたからキャロルは依頼した。
しかも、対価に求められたのは暫くの間のアキラ陣営からの護衛。
都市からの刺客が来たら逃げていいし、アキラ本人の相手もしなくていいけど、この件でアキラの知り合いから恨まれたら守ってくれという。
破格どころではない内容だった。
「前にシェリルの徒党に義体の工作員が入り込んだ件、あれが理由?」
そこでキャロルの頭に浮かんだのは、ある事件。
実はあの事件の後、ヴィオラはアキラに訊ねられたのだ。
――ヴィオラってああいう工作員とか見付けるの得意なんだろ? 徒党に侵入される前に気付かなかったのか。
勿論ヴィオラは気付いていたし、その上で放置していた。
何故なら――
ヴィオラがアキラと約束したのは、遺物販売店を繁盛させるというもの。
徒党の警備を任された覚えはないし、シェリルのお守りを頼まれた覚えもない。
さすがに契約外の事で批難される筋合いはないでしょうとヴィオラは答え、アキラもその通りだと納得していたのだが――
「ヴィオラには悪いけど、さすがにアレは笑わずには居られなかったわ」
丁度、その話をした時にキャロルも傍に居て。
アキラはそれで許せるの、なんて不思議に思い尋ねたのだ。
――ああ。キャロルも聞いてたから覚えてると思うけど、ヴィオラには生かしておいてよかったって思うくらい頑張ってくれって言ってあるからな。それでも手が回らないくらい、遺物販売店の宣伝とかに忙しいんなら仕方ないだろ。
(多分、アキラ自分で何言ったか全然解ってないわよね……)
そのくらいの努力で生かしてもらえると思うくらい、安い命なんだな。
ヴィオラがそれでいいんなら、俺はそれでいいよ。
意味的には大体これと同じくらいの言葉だ。
「言われてるわよ、なんてアナタ大笑いしてたものね」
ヴィオラもその時の事を思い出して、僅かに苦笑を浮かべた。
アキラはキャロルがどうして笑い出したのか解からず不思議そうにしていた事が、更にヴィオラの記憶を鮮やかに彩り、忘れられないものとして刻み込む結果になっている。
(ああいうのを天敵って言うのかしらね?)
あのくらいなら自分が手を出さなくてもシェリルだけで対処出来るだろうと踏んでいたし、一応何かあればヴィオラ自身も動く準備はしていた。
その上で批難されれば数億オーラム程度の遺物を渡して、これを用意するのに忙しかったなんて言えば済む程度にしか考えていなかった。
そうして何も言えなくなったアキラを見て笑う予定だったのが、これからは期待に応えられるよう一層頑張らせてもらうわ、なんて笑えなくなったのは自分自身の方だった。
――アキラに撃たれたのはヴィオラ的には軽い失敗に入る出来事だったが、この件は完全な敗北と言っていい事件であり、自尊心を大きく傷付けられたのは間違いない。
「その件が理由だって思うなら好きに考えて頂戴」
実際、あの件がなければ都市に喧嘩を売るなんて事は、さすがの自分でもしなかっただろうとヴィオラも思うが――
上手くキャロルを誤魔化す言葉もなく、かといって嘘なんて言いたくもない。
自分の言葉を相手が勝手に解釈するのは自由だが、嘘だけは吐かないとヴィオラは決めているからだ。
「キャロルの方こそ何の得もないじゃない? そんなにあの子達の話に思うところでもあったの?」
誤魔化して話を逸らしたい訳でなく、純粋に疑問であった。
都市からの刺客が来れば逃げていいとは言ってるが、逃げるどころか気付かずに殺される可能性だって低くないし、仲間と思われキャロル自身が標的になる可能性だって十分ある。
ヴィオラには混乱を眺めたいという常人には理解出来ない利点があるが、キャロルにはそれだけの危険を冒す理由はない筈だ。
「んー、内緒」
最初はキャロルも介入する気はなかったが――
シェリルとユミナの会話を盗み聞いて、邪魔せずには居られなくなったのだ。
(そういう契約だから見殺しにしようとしたヴィオラに怒りもせず、約束したってだけで守り続けた上に遺産も全て差し出す、ね……)
シェリル達の事などキャロルの頭にはない。
考えるのは二人を通して、より深く知れた筈のアキラの事だけ。
(挙句、そこまでした相手を置いて別の女の為に命を捨てに行くのよね……)
それなら女好きなのかと言えば自分がいくら誘っても少しも靡かないという、知れば知る程、解からなくなる相手。
アキラの事をもっと知りたいと思う反面――
全て知ってしまった結果、やっぱり違ったかと傷付きたくないから、これ以上は知りたくないと思う自分が居る。
(そんな悩みもこれでお仕舞いかしら……)
その複雑な感情の果てが、今回のキャロルの行動だ。
これで死ぬなら、それまで。
きっと自分とアキラは縁がなかったのだ、と見切りを付ける為の介入。
(さて、どうなるかしらね?)
それでも、もしこの事態をアキラが乗り越え生きて再び会えたなら。
その時は――
この中で十二章に何か言いたい事があれば
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ミズハの扱いが解釈一致
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キャロル出て来ないと思ってたぞ!
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もうちょいキャロル絡ませてほしかった