中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
女三人寄っても
「やだっ! この動画に映ってるの、アキラよ!」
「嘘! どうしてミズハが詐欺紛いの事してまでアキラを助けようとしてるのよ!?」
サラとエレナの二人が、アキラの事を知ったのはカートリッジフリークスで買い物をしていた時だった。
二人にもミズハから依頼の誘いが来ていたのだが――
先行した子どもの援護という内容を見た瞬間、二人は援護対象はカツヤだろうと疑う事もせず、子守りは懲り懲りだと断っていたのである。
「いくら何でも無茶だわ! 都市が防衛部隊を派遣するかどうか考えているような群れに一人で挑むなんて自殺しに行くようなものじゃないの……」
「なんだってアキラは、そんな馬鹿な真似を……」
もし窮地に陥っていたのがカツヤだったら、それは先走った本人の自己責任であり、見殺しにしたからって自分達が気に病む必要はないなんて言い聞かせ――
少々寝覚めは悪くなりそうだが、二人は見捨てる選択を取る事が出来ただろう。
何せ今回は事態が事態だ。
助けに行くとなれば命懸けどころか無駄死にする可能性の方が高いくらいだし、カツヤの為にそこまでする義理はない。
「エレナ、急いで消耗品の補給を済ませるわよ。急げば合流出来るかもしれないわ」
だが、アキラは違う。
命の恩人というだけでなく、その後も未発見の遺跡に自分達を誘ってくれたり何かに気に掛けてくれて。
自分達と連絡が着かないとなれば、自腹で人を雇ってまで急いで駆け付けてくれた相手だ。
サラは迷いなく、アキラを助けに行こうとするが――
「……私は反対ね。いくら何でも入れ込み過ぎよ」
その勢いを挫くように。
エレナの固い声が、やけに冷たく響く。
「入れ込み過ぎって……。そっちこそ何言ってるのよ。アキラが居なかったら、私達はあの時に終わってたのよ? その恩を返そうとする事の何がおかしいのよ」
「でも私達だってカツラギの依頼のついでとはいえ、アキラの命を救ってるわ。恩返しっていうならそれで十分でしょう?」
怒りすら滲ませ言葉をぶつけてくるサラに怯む事無く、エレナは事務的に感じる程に冷徹な言葉を返すが――
(今回ばかりは恨まれても行かせる訳には、いかないわ……)
本音を言えばエレナだって、こんな事は言いたくない。
急げばアキラを助けられる可能性が高いというなら、それこそ無駄口なんて叩いている暇も惜しんで助けに行くだろう。
(アキラを助けるどころじゃない。こんなの行ったところで全員死ぬだけ……)
だが、冷静に現在の状況から推測すれば結果は見えているようなもの。
自分達が行ったところで、精々アキラが生き残る時間が一時間増えるかどうか。
その果てに待っているのは全員の死。
それだけは、どうしてもエレナには許容出来ない。
(……こんな事なら、最後まで気付きたくなんてなかったわ)
そして、そんな状況になって初めて気付いた事がある。
(私もサラの事言えないくらい、アキラの事大事に思ってたのね……)
助けに行ったところで全員死んで終わり。
だから助けに行くなんて認められないと思う反面――
もし自分一人が犠牲になれば、アキラもサラも無事に生き残れる可能性があるなら。
それならよかったのに、と思ってしまっている自分が居る事に。
(研究所に売り飛ばそうか悩んでた癖に。本当、何で今になって気付いちゃうかなあ……)
アキラが旧領域接続者と感付き始めて暫くした頃。
アキラを研究所に売り飛ばせばサラの治療費を賄えるんじゃないかと、魔が差したように考えてしまった事がエレナにはある。
命の恩人に対して何を考えていたんだとエレナ自身思うが、それだけエレナに取ってサラが大事な存在という事であり――
逆に言えば。
命懸けで助け出し、苦楽を共にしてきた親友の治療と天秤に掛けた時に、迷って決められないくらいにはアキラの事を大事に思っていたのだ。
「確かにアキラは命の恩人だし、色々良くもしてくれたわよ。正直言えば、ついでで命を助けたくらいでお相子だなんて私も思ってないわ」
だからこそ。
どちらも失うなんてエレナには耐えられない。
「けど、だからって私達が命を捨ててでも助けに行くってのは、やり過ぎよ。アキラがそこまでしてくれた?」
ここは心を凍り付かせて、とにかく恨まれてでもサラは止める。
それがエレナの選んだ道。
「それは……」
エレナの言葉にサラは声を詰まらせる事しか出来なかった。
最初に命を助けられた時は、アキラは余裕で敵を蹴散らしていたように見えたし。
自分達と連絡が取れなくなった時も、自腹で案内役を雇ってくれたとはいえ、自分が死ぬ覚悟までして来てくれたのかと言えば違うとしか思えない。
「……私達が助ける余裕がある範囲で助けるなら、私だって文句ないわ。ううん、それなら私だって迷わず助けに行くわよ」
サラの戸惑いを広げるようにエレナが言葉を重ねていく。
冷静に判断しろ。
助けに行きたいのはお前だけじゃないけど現実を見ろ、と。
「……シズカも、アキラを見捨てるべきだって思う?」
サラも冷静な部分ではエレナの言葉が正しいと認めている。
それでも、どうしても助けに行きたくて。
別の意見が欲しくて、今まで黙って話を聞いていたシズカへ言葉を求めた。
――おそらくシズカなら行けとも行くなとも言わないと、どこかで予想していたのかもしれない。
「……私も行くべきでは、ないと思うわ」
だから返ってきた言葉が予想外過ぎて、言葉もなくシズカの顔をサラは見てしまう。
「珍しいわね。こういう時にシズカがどっちかに肩入れするような事言うなんて……」
エレナとしても意外だった。
もし自分達が単に無茶をしようとしているだけなら、友人としても店主としてもお勧め出来ないなんて止めるだろうとは思う。
けれど、誰かを助けに行く為に無茶しようとしているなら。
自分の命の使い方を人任せにするのは感心しないなんて言って、自分達で決めさせようとする気がするのだ。
「……アキラが二人に来てほしいと望んでないからよ」
エレナの予想は正しい。
何も知らなければシズカは消極的に止めつつも。
それでも最後は自分達の命なんだから、責任を他人に押し付ける言葉だけ求めないでと、決断だけは自分達でさせたろう。
「シズカ、アナタ知ってたわね!」
アキラの事を口に出されて、初めてサラは気付いた。
いくらアキラでも死地に向かおうというのに補給も無しに行く訳がないし、命を預ける装備を整えるなら絶対シズカの元に来るだろうという事に。
「内容は知らなかったわ。けど無茶するのは解ったから止めたのよ。それでも行くのなら、せめてエレナ達に頼れないかとも訊いたわ」
責めるようなサラの言葉に、どこか早口にシズカは言葉を返していく。
いつもなら感情なんて押し殺して、店主として友人としての言葉を言える筈なのに。
今回ばかりはシズカも気持ちを押し込め続ける事が出来ない。
「自分を好きだって言ってくれた人が遺跡に取り残されてるから放っておけない。そんな事に二人は巻き込めないってアキラ言ってたわよ」
どこか当て付けるような言葉になってしまった事に自己嫌悪しつつ。
それでもアキラ本人の願いは、二人に生きていてほしい事だと聞かされたから――
アキラの友人であり、二人の友人でもある自分には二人を止める以外の選択を取れないのだとシズカは告げた。
「…………」
アキラの事を好きだという女が居たという言葉に、サラは命が掛かっている事態だという事も忘れ呆然とする。
アキラとは年齢も少し離れてるし、アキラを好きになる人間なんて他には居ないだろうなんて誤魔化して。
意識されている今の状態が心地いいから、それ以上踏み込もうとなんてしてなかっただけで、本当は告白してきてくれないかなと思うくらいには、異性として意識していたのだ。
――むしろ普段自分にからかわれてドギマギしているアキラが、だって歳だって離れてるしなんて渋る自分に、それでも好きなんですなんて強引に迫ってくる姿を想像して、ないななんて自嘲した事すらある。
「…………」
そして、エレナの方はというと。
当初の狙い通りアキラを助けに行く雰囲気でなくなったというのに、まるで苦虫でも噛み潰したような顔をしていた。
(そりゃあ、そんな事に私達を巻き込めないってのも解るけど……)
それでも相談すら出来ない程に親しくないなんて言われたみたいで。
頼りないと思われていたように感じて、どうにも面白くない。
かといって、じゃあアキラを助けに行こうとなるかと言えばそんな事もなく。
結局、このままの雰囲気でアキラを見捨てる流れになろうとした矢先――
「あれ、エレナさん?」
「サラさんも居る」
その流れに待ったを掛けるように。
カツヤとアイリがカートリッジフリークスに訪れたのだった。