中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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見えない者達に誘われて

「どうしてここに? 装備ならドランカムで用意してもらえるでしょ?」

 

 突然のカツヤ達の登場にエレナは驚きを隠せなかった。

 

 というのも、カツヤ達はドランカムの所属であり装備や消耗品が欲しいならドランカムを通して業者から買った方が安く済む。

 

 この店にわざわざ足を運ぶ理由が見当たらない。

 

「あー。そのですね。知っているか解らないですけど、ミズハさんが盛大にやらかしてしまったみたいで――」

 

「カツヤ。不祥事の話だし言葉を選ぶ」

 

 当たり前のように内部情報を漏らそうとするカツヤをアイリは短い言葉で注意しつつ、それでも本気で隠す程の事でもないと思っているのだろう。

 

 一言注意した後は特に気にした様子も見せず、横目に店内の品揃えを確認していた。

 

「と、悪いわね。気を遣わせたわね」

(そういえばカツヤ達の直接の上司ってミズハなのよね……)

 

 滅多に現場に出て来ないものだから意識していなかったが、確かそんな状態だったとエレナは思い至り――

 

 それならミズハの下に居るカツヤ達にも、色々な影響が出ているのだろうと何となく察した。

 

「まあ、その、色々ありまして。急いで各自で装備の調達をしないといけなくなったんですよ」

 

「え? カツヤ、まさか行く気なの?」

 

 そして、急いでという言葉で目的を理解しつつも。

 

 カツヤがアキラを助けに行くというのがあまりに意外過ぎて、思わず声が出てしまう。

 

「はい。元々俺がどうしても行くって無理言ってたせいで、ミズハさんもあんな事しちゃったと思うんで」

 

「ミズハがそんな理由で動く訳ない」

 

「あれでも結構頼み聞いてくれたり良いトコあるんだぞ?」

「……あれは自分が得する時しか動かない人」

 

 それなりに信頼しているカツヤと違い、アイリは全くミズハの事を信じていないらしい。

 

 今回も詐欺同然の依頼を出している訳だし、身内だからって信じる要素なんてないだろうとエレナも思う。

 

「まあ、アレです。部外者のアキラが一人でも助けに行ってるのに、同じドランカムに所属している俺が待つだけってのも癪なんで」

 

「同じドランカム?」

 

 そこで初めてエレナは己の勘違いに気付く。

 

 カツヤの助けたい相手はアキラではなく、アキラが助けに行った相手の方なのだと。

 

「シオリさんが遺跡に取り残されてるんですよ。遺跡の異常事態もそれで発覚したような感じです」

 

「……なるほど、シオリさんだったのね」

 

 カツヤの口から告げられた名前に全てが腑に落ちたような感覚をエレナは覚える。

 

 少し前に自分達がシオリに襲われた時にアキラが肩入れしたのはシオリの方だったし、シオリの方も謝罪に来た時の態度からアキラに何か思うところがあるのは明確で。

 

 見ず知らずの誰かを助けに行ったとか言われるよりは、よっぽど納得出来る。

 

(……別にアキラが私達の知らないところで誰とどう付き合うのも自由だけど)

 

 それでも面白くない。

 

 エレナは異性としてアキラを意識しているつもりはないが、どうにも苛立ちを覚えずに居られない自分の心を感じて。

 

 この気持ちは何なのかと考えるよりも前に――

 

「カツヤは驚いてないのね。アキラがシオリさんを助けに行った事……」

 

 自分は驚いたと言わんばかりの言葉で問い掛けるサラの声が耳に届いて、エレナの思考は中断される。

 

「どうして? 何か知ってるの?」

 

 おそらく色んな感情を必死で押し殺しているのだろう。

 

 抑揚を抑えた低い声で無表情で問い詰める姿は機械染みていて、長年の付き合いのエレナですら、その姿からは何を考えているか解からない。

 

(なんか怖いわよ!?)

 

 はっきり言って不気味であった。

 

「知ってるというか、まあアイツなら行ってもおかしくないなって思うだけですね」

 

 だが、親しいエレナだからこそ未知の姿に恐ろしさを覚えたものの、カツヤの目には普通に質問してきたようにしか見えなかったのだろう。

 

 特にカツヤは気にした様子も見せず、自然な口調で返答する。

 

「それはどうして?」

「前にも似たような事があって、一人で助けに行ったのを見てるんで」

 

「……そう」

 

 カツヤがアキラにあまり良い感情を持っていない事をサラは知っている。

 

 そんなカツヤでも助けに行くのが当たり前だと思うくらい、普段からシオリの事を気に掛けていたのかと表にこそ出さないが大きな衝撃を受けたサラだったが――

 

「ほら、随分前にヤラタサソリがたくさん出た事あったじゃないですか。サラさん達と一緒に依頼請ける事になってたけど、何か別口で依頼が来たから中止になった頃の話なんですけど」

 

 サラが落ち着く暇もなく。

 カツヤはアキラが助けに行くと思った理由を説明し始める。

 

「そこで都市から救援の要請があったんですけどね。あいつ、一度は要請を無視した癖に俺がサラさん達が窮地に陥ってるかもって言ったら、急に態度変えて一人で救援に行ったんですよ」

 

 まるでアキラの様子を詳細に観察していたように語るカツヤだが、アキラが車から降りた後に気付いたカツヤがその時の様子を見ていた訳もなく。

 

 ましてや自分の独り言染みた呟きをアキラが聞いていたかなんて知る訳もない筈だが、その事に違和感を覚える事もなく話を続けた。

 

「それ本当!? 間違いない!?」

 

 その頃のアキラの装備をサラは覚えている。

 

 強化服を手に入れたばかりで、銃だって大した物は持ってなかった。

 

 都市からの救援要請を請けるなんて自殺行為にしか思えないし、実際カツヤの話が本当ならアキラも最初は請ける気なんて一切なかった筈。

 

(だってアキラは、何よりも自分の命を大事にしてたわ……)

 

 第一、自分達とシカラべと共に多くのヤラタサソリを討伐し、十分な働きをしていたにも関わらず、きつい依頼を頼まれたら困るから自分は役に立たなかったと報告してくれと喜んで頼んできた。

 

 自分が活躍していたと報告した方が危険こそ増すものの、稼げる量は格段に増えるにも関わらずだ。

 

(それでも私達を助ける為だけに無茶をしてくれるなんて――)

 

 そんな事はあり得ない。

 

 アキラが危険を冒してまで助けに行くのなんて、好きだと言ったシオリだけの筈だとサラは淡い期待を押し殺そうとするが――

 

「本当。救援要請を請けたい人間は手を上げろって言われた時は手を上げず車に残ってたのに、カツヤがサラさん達の話をしたら、すぐに車から飛び降りてた」

 

 突然、サラに異様な剣幕で詰め寄られて答えられなかったカツヤの代わりに、アイリが事実だと更に告げる。

 

 ――こちらもアキラの様子なんて全く見てなかった筈だが、何かに教えられたように完璧にアキラの様子を知っていた。

 

 

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