中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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恋だけが傍に居たい理由にならない

「ねえ、あなた達。何を買いに来たの? リストとかあったら見せてもらえない?」

 

 アイリの口からも、サラ達を助ける為にアキラが無茶をしたのは事実だと告げられた瞬間。

 

 サラが話し始めてからは黙って話を聞くに徹していたエレナが、自分もこの場に居ると言わんばかりに言葉を発した。

 

「えっとですね――」

 

 それで自分達が来た目的を思い出したのか。

 

 カツヤが購入予定の弾丸等を口頭でエレナに伝えていくが――

 

「悪いわね。その弾は私達が買いたいから他当たってくれないかしら?」

「え、でも――」

 

「売り切れるくらい、いっぱい買いたいの。駄目?」

 

 まだどちらも取引を開始してないし、先に来ていたのはエレナ達の方だ。

 

 おまけに少し甘えた感じでお願いされてしまっては、カツヤの返事なんて一つ。

 

「いえ、解かりました。他の店で探してこようと思います」

「それなら急いで行く。結構時間経ってる」

 

 どこかデレっとした様子で頷いたカツヤだったが、少しムッとした表情のアイリは促され。

 

 挨拶もそこそこに店から連れ出された。

 

「あの、エレナ?」

 

 突然の訪問者が、やはり突然居なくなるや否や。

 

 サラが恐る恐ると言った様子でエレナに声を掛ける。

 

(あんな甘えたような声出してまでカツヤを追い出すなんて……)

 

 索敵と交渉を担当しているせいで誤解されやすいが、根っこの部分で好戦的なのはサラではなくエレナの方であり。

 

 女である事を武器にするような行動を嫌っている節がある。

 

(これどっちなの!? 切り出していいの!?)

 

 その信条を曲げるくらいアキラが自分達を助けた事が嬉しかったのか。

 それともエレナの逆鱗に触れたのか。

 

 どちらか判断し切れず、今からでもアキラを助けに行こうと口にするか迷ってしまうサラであったが――

 

 その悩みは完全に杞憂に終わる。

 

「……上等じゃない」

 

 確かにカツヤ達の話はエレナの逆鱗に触れていた。

 

 それこそ交渉役としての冷静な思考なんて吹き飛ばし、完全にブチ切れてしまう程に。

 

(そりゃ出会った時には命を助けてもらったけど、第一印象だけで人を守ってもらうしか脳がない、か弱いお姫様扱いしてんじゃないわよ!)

 

 だが、その結果アキラを見殺しにしようと決めたのではない。

 何が何でも自分の頼れるところを見せ付けてやらないと気が済まなくなっていた。

 

「シズカ! これで買えるだけ、弾を売ってちょうだい!」

「それはいいけど……」

 

 ハンター証をカウンターに叩き付けるような勢いで提示したエレナの目に、急に態度を変えたエレナに戸惑うシズカの姿なんて映る余裕はない。

 

 あるのは自分達に頼ろうともせず、一人で死のうとしているアキラへの怒りすら覚える程の寂しさだけ。

 

(ったく、どいつもこいつも……)

 

 かつて病に侵され死ぬのを待つだけになっていた親友の姿がアキラに重なっていた。

 

 どうして頼ってくれないのか。

 一人で思い悩んで抱え込まずに、相談の一つくらい出来ないのかと泣きたくなる。

 

(いつまで他人行儀な態度取ってんのよ。命助けられて助け返して、それでもまだ足りないとでも言うつもり!?)

 

 ようやく、エレナはアキラに対する自分の気持ちを理解した。

 

 とどのつまり、何も話してくれない事に拗ねていただけ。

 

 困っていたなら言ってほしかったし、好きな人が出来たなら気楽に相談してほしかった。

 

 それでアキラから何も言ってきてないんだから、じゃあ私から手を貸してなんてやらないなんて無意識に張ってた意地は――

 

 自分達の知らないところでアキラが命を張ってくれていたと知らされた瞬間、粉々に吹き飛んでしまった。

 

(もう仲間みたいなものじゃない。どうして余計な気の遣い方するのよ……)

 

 心配してもらえるのは、どこかくすぐったくて悪い気分じゃない。

 

 危険な事に巻き込まないようにしてくれた事だって怒るような事じゃないとは思う。

 

 けど、求めていたのはそんな余所余所しい関係じゃなくて。

 

 アキラとは性別とか関係なく、サラと同じ親友のような関係になりたかったのだ。

 

「サラ、前言撤回よ! あの解からず屋に先輩達の頼れるところを見せ付けてやりましょう!」

 

 もう助けに行く事に何の躊躇いもない。

 

 アキラを見殺しにして後悔と共に生き続けるくらいなら、無駄死にした方が何千倍もマシだと確信出来たから。

 

「ええ、絶対に助けましょう!」

 

 エレナの言葉にサラも迷いなく頷く。

 

 シオリとの関係は確かに気になるが――

 

(だからって放ってなんておけないわ!)

 

 恋とか抜きにアキラが死ぬなんて耐えられない。

 

 その事は助けた後に考えるとして、今は一刻も早くアキラの元へ向かいたかった。

 

「行くなら弾だけじゃなく他の準備もしっかりしてからね」

 

 血気に逸り過ぎて変な失敗をし兼ねない二人に軽く小言を飛ばしつつ。

 

 シズカは妙な違和感を覚えて、心の中だけで思考を働かせる。

 

(まるでエレナ達をアキラの元に送る為だけに現れたみたいな子達だったわね……)

 

 エレナ達がアキラを助けに行かないという流れになった途端、それを邪魔するように現れて、それが覆るとエレナが邪魔したからとはいえ何も買わずに帰っていった。

 

 偶然というには、あまりに出来過ぎな結末に勘繰りを入れたくなるシズカだが、カツヤとアイリどちらの態度にも作為は感じなかったし。

 

 その後ろにドランカムなどの組織も絡んでいないと、自分の勘は告げている。

 

(あの二人の責任にしたいと内心で思っているだけかしら?)

 

 二人が心変わりしてアキラを助けに行く可能性を消したくなくて。

 

 サラ達が喧嘩を始めても商売の邪魔だから外でやってと追い出さなかったし、新規のお客さんになったかもしれない二人をエレナが勝手に追い出した事に気付いていて何も言わなかった。

 

 死地にサラ達を送ったのは自分じゃなくて、あの子達だなんて無意識に言い訳に使おうとしてしまったのかもしれない。

 

(気を付けないといけないわね……)

 

 アキラを助けに行く事を望んで、解っていて黙ってた時点で無関係だなんて言えない。

 

 そういう誤魔化しや正当化に慣れてしまわないよう、シズカは気を引き締める。

 

(……それにしても完全に店主としては失格ね)

 

 アキラは自分の意志で行ったのだから、店主として考えるならもう完全に口も何もかも出し過ぎだ。

 

 けれど、それでもそんな自分が嫌いじゃなくて。

 

(いや、やっぱりあの子達、何か変じゃなかったかしら?)

 

 そんな自分が責任を見知らぬ二人に押し付けようとしたなんて考えると、どうしても違和感が拭いきれなくて。

 

 シズカは一人、もやもやしたものを感じながらエレナ達に渡す商品の準備を急ぐのであった。

この中で十三章に何か言いたい事があれば

  • 解像度が高い
  • 展開が上手い
  • 納得が多かった
  • 面白かった
  • 大人三人組の扱いが上手い
  • サラにもうちょい良い役上げて
  • エレナの掘り下げが上手い
  • シズカの描き方が上手い
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