中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
予想通りにして想定外の再会
スラムが落ち着きを取り戻し始め。
シェリルファミリーとカツヤ部隊の連合したシオリ救出部隊が出発し始めた頃――
(お嬢様を助ける為に学んだ知識が自分を守る事になるとは、人生解からないものですね……)
アルファの想像通り、シオリは安全地帯に隠れ潜んでいた。
これは決して偶然という訳でなく。
もし想定外の事態に遭遇し、自分の力が及ばなかった時にレイナだけでも生き延びさせようと、シオリが数多くの遺跡の情報を調べ安全地帯がある場所の傾向を掴んでいた事が大きい。
――遺跡の安全地帯まで記した地図情報は基本的に高額であり、普通はそんな情報を集める金があるなら装備に予算を費やすし。
そもそも安全地帯に逃げ込まなければならない状況に陥った時点で、半ば詰んでいるような状態でしかなく、安全地帯の事を考えなけえればならない遺跡には最初から行かないというのが真面なハンターの鉄則だ。
そんな中で安全地帯の情報を掻き集めている人間なんて、研究者か地図屋くらいのものであり、過保護なまでのレイナへの想いがなければシオリは死んでいただろう。
(お嬢様は無茶をしていないでしょうか……)
そんなシオリが真っ先に考えるのは、当然のようにレイナの事。
従者なんて使い捨ての便利な道具くらいに思って見捨ててくれた方がシオリとしては好ましくあるのだが、そういう考え方が出来ない優し過ぎる人間だとも理解している。
自分の死体を見るまでは助けようとどこまでも足掻くだろうし、それはきっとカナエが何を言っても止められないだろう。
(失敗、しましたね……)
レイナと分断された時、囮にならずにモンスターに殺されておくべきだったとシオリは思う。
囮が居なくてもカナエならレイナを逃がし切れただろうし。
それなら自分を助けに来てしまうと思い悩む事もなかったのに、と己の選択に後悔を覚えずには居られない。
何故なら――
(……これでは私の死体を探す事さえ命懸けになるでしょう)
数え切れない程のモンスターに襲われ続け、弾薬を粗方撃ち尽くしてしまっただけでなく、酷使し過ぎた強化服もエネルギー切れに近い。
刀を主力武器にしているシオリとしては弾薬を打ち尽くしてしまった事は大した被害とは言えないが、強化服のエネルギー問題に関しては完全に死活問題。
死ぬ前に安全地帯に逃げ込めたから何とか助かっただけであり――
ここまで自分が追い詰められる場所に、レイナが来る可能性を残すべきではなかったとシオリは後悔で顔を曇らせた。
(未練でしょうか……)
どうしてすぐに気付いて自決出来なかったのかと考えて。
やはり生き残り、レイナの傍に居続けたいと願ってしまっていたのかと愚かさに自嘲する。
あるいは――
『……オリ』
その時、情報端末から声が響いてきた。
緊急用の回線はモンスターに気取られない為、特殊な周波数を用いる。
代わりに極端に通信距離は短い上に感度も悪く、不明瞭なその音を耳鳴りか何かと勘違いしても不思議ではなかったが――
(ああ、やはり来てしまいましたか……)
シオリは一瞬聞こえた僅かな響きだけで声の主を特定し。
妙な納得感と共に、来てほしくはなかったと沈痛な想いに目を閉じる。
『アキラだ。この辺に居るなら応答してくれ、シオリ』
『……アキラ様、こちらです。座標をお送りします』
より鮮明に聞こえ始めた声に申し訳なさを感じながら、それでも応えなければ当てもなく自分を探し続けてしまう事が容易に想像出来てしまい、すぐに自分の居場所を伝える。
(どうしてでしょうね? もし助けが来るなら、アナタだろうと思っていました……)
やはりアキラを好きになった気持ちに間違いはなかったと想いを強めつつ、こんな場所まで来てくれただけで感無量というもの。
(私なんかの為にアキラ様を巻き添えにする訳にはいきません……)
さすがにアキラと言えど、強化服も動かなくなった自分を連れて脱出するなんて無理だろうし、自分の事は忘れて帰ってほしいと申し出ようとしたシオリであったが――
アキラの姿を見て言葉を失うしかなかった。
「よかった、無事みたいだな」
負傷どころか汚れの一つも見当たらず、どう見ても命からがら自分の所に辿り着いたようには見えない。
これなら義体男を追ってた時の方がまだ危機感があっただろう。
「回復薬は足りてるか? 足りてないならナノマシンの競合とかの問題がないなら俺のを渡すけど……」
「いえ、その、回復薬は足りてます」
窮地でも何でもないと言わんばかりの様子で話し掛けて来るアキラの姿に戸惑いを隠せず。
(こんなに余裕そうなら助けを求めても別に問題ないのでは? いえ、それより先に来て下さった事で御礼の言葉を申し上げ……。そもそも、いくらアキラ様が強いと言ってもこんな簡単に来れる訳がありませんし、幻覚か何かの可能性を――)
受け答え以外に何を言えばいいか解からなくなり、暫しシオリはアキラの顔を無言で見詰める事になったのだった。