中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「加速剤も使わずにそのような事が?」
侵入に最適な時と救出に最適な時は違うらしい。
アルファ曰く救出における最大の好機は、外部からモンスターの群れを討伐する為に別の部隊が来た瞬間だとアキラは聞かされている。
それならばその時が来るまで心を落ち着け体力を温存しようと、シオリとアキラは世間話をする事にしたのだ。
「ああ。こう、アレだ。死ぬって感じると世界がゆっくりに見えるって言うだろ? あれを自分の意識で自由に引き出せるようにするんだ。そうしたら加速剤を使わなくても同じような事が出来るようになるんだ」
今はこうしてハンター稼業に関わる話をしているが、話の内容は多岐に渡る。
レイナがアキラを好きになるんじゃないかと不安に思っていた事。
シェリルに告白されて逃げ出してしまった事。
誰にも話せないとはいえ、アルファの事を黙っていた事の後ろめたさ。
意外な程に女性との交友が多いアキラに、シオリが咎めるような目を向ける事もあった。
そして――
「死ぬかもしれないのです。最後に、私を抱いておかなくて本当によかったのですか?」
刻限が迫る中、シオリは最後の確認とばかりにアキラに尋ねる。
まだ時間に余裕があると聞かされた時、シオリが最初に告げた願い。
残りの時間を使って、最後に愛し合いたいという言葉を断った事に後悔はないのか、と。
はたして――
「さっきも言ったけど、そういうのって結構体力使うんだろ? その体力があったら助けられたなんて事になったら後悔するどころじゃないからな」
アキラの返答は変わらない。
アルファの計算を覆す奇跡が何度も起きて、ようやく二人とも助かる可能性があるという話だ。
それなら少しでも万全の状態で挑みたかったから。
「抱きたくなる程の魅力がない、という返答でなくて少し安心しました」
揶揄うように告げるシオリだが、本心は違う。
そこは誘っているなんて言葉では甘いくらい迫っているんだから、我慢出来なくなる程の魅力がない時点で女としては負けだろうと思っている。
「……ごめん、実はよく解らないんだ」
それでもアキラの口から、そんな事はないと聞けるだけでよかったのに。
魅力はあるけど今はそういう状況じゃないから、と言ってもらえると思ったシオリの期待は叶わなかった。
「温泉でキスされた時はさ。そういう意味でシオリが欲しくて堪らなかった気がするし、今だって恩や貸し借りじゃないのなら、してもいいんじゃないかって思ってるような気はする」
アルファなんて関係なく、自分の事を好きだと言ってくれた。
その言葉は本当に嬉しかったし。
恩や貸し借りでもなければ――
シオリはアルファが居ない事を解って自分を求めてくれている。
それなら肉体関係を結ぶ事に何の不都合もない筈だと、頭では思っていた。
「けど、何かそういう気分にならないんだ。本当にあの時は気持ち良かったと思うし、それよりもっと気持ち良くなれるなら続きをしたいって思うのが普通だと思うんだけど――」
それなのに温泉の時は我慢する事さえ辛かったのが嘘のように。
そういう気持ちが湧いてこない。
むしろ熱に侵されていたあの時とは逆に、心も身体も静かで。
シオリみたいな美人に誘われていて、気持ち的にも問題ない筈なのに何でこんな事になってるんだと、アキラ自身、不思議でしょうがないのだ。
「それよりもっとシオリと話してたくて。何かさっきシオリに抱き締めてもらった時から、シオリの声を聞いてる方が嬉しいというか――」
本当はさっきと同じように抱き締められて、すぐ傍でシオリの声を聞いていたいくらいで。
それに比べれば温泉での口付けも、それ以上に気持ち良くなる事も全部些細な事のように感じてしまって。
「ごめん、変だよな。キスとか身体を捧げてくれるって方がずっと特別な事だって解ってるんだけど、アルファの力なんて関係なく俺の事が好きだって言ってくれた事の方が、俺には大事だったみたいなんだ」
それが抱きたい程の魅力なんてないと言っているみたいで申し訳ないと思っているのに。
どうしてもアキラは自分の今の感情を誤魔化して。
シオリは美人で魅力があるなんて、その場凌ぎな言葉を言いたくなかった。
「……本当に、アナタはズルい方ですね」
こんなの、好きだとか愛してるなんて言われるより何百倍も恥ずかしい。
しかも本人は自分が何を言ってるのかすら、全く解ってないのだから質が悪いにも程がある。
(ここまで純粋とは思いませんでした……)
まさか告白の言葉だけで満足してしまって、それ以上は考えられないなんて。
防壁の内側で育った箱入り令嬢でさえ、そこまで無垢な人間なんて居やしないだろう。
(何だか本当に温泉の時は私が無理やり襲っただけのような気さえしてきました……)
むしろ自分の方が欲望塗れで申し訳なくて。
けど、それ以上に嬉しくて顔が火照っていくのを感じ。
良い年した女がこんな子どものママゴトに近い恋愛に何を浮かれているのか、と自嘲したくなる。
「ごめん。悪いのは解ってる」
シオリの態度の意味に気付かず。
身体を捧げてくれると言っているのに断っておいて。
それでも嫌われたくないとばかりに、言い訳のように言葉を並べている自分は確かに卑怯だとアキラは思うが――
「何も解ってません。だからアナタはズルいのです」
あまりに見当外れで。
かといって、アキラが卑怯なくらい可愛過ぎるなんて言える筈もない。
それよりも――
(こんなのを見せられては、覚悟が鈍るではないですか……)
レイナの無事を知り、自分が死ぬと聞かされた今。
残りの命は、全てアキラの為に使い切ろうと決めていたのに。
その決心が揺らいでいく。
レイナの護衛をしていた時には、なかった感覚だ。
(私もまだまだ未熟ですね)
大事な相手の為なら自分の命を賭けるくらいの覚悟なんて、すぐに出来ていた筈なのに。
アキラの為に死ぬ事よりも。
生き残りたいと強く願っている自分を、シオリが恥じた瞬間――
「時間みたいだ」
アキラの情報収集機器に反応があった。
モンスターとは違う大量の人間が遺跡の近くに大勢集まっている。
(この反応は間違いないな)
普通ならモンスターとの交戦を避ける為、情報収集機器でも簡単に見付からない程度に隠密行動するものだが――
遺跡の中に居るアキラですら容易に探知出来るという事は、すなわちモンスターの群れと徹底抗戦しようという事だろう。
おそらく、これこそがアルファが言っていた脱出の好機。
「悪いけど、謝罪は生き残ってからする。準備はいいか?」
結局、自分の何がズルいのかアキラには解らなかったが、そんな平和な話に思考を割いていられるのは、ここまで。
「ええ。いつでも」
生涯最後になるかもしれない安息が終わり。
文字通り、命を賭けた戦いが始まろうとしていた。
この中で十五章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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展開が上手い
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納得が多かった
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面白かった
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アキラの掘り下げが良い
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シオリの掘り下げが良い
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アキ×シオも有りな気がしてきた