中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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隙とも言えない何か

「ちくしょう! まだ何の反応もないのか!?」

 

 アキラ達から離れた地点。

 

 遺跡には近付かせないとばかりに津波のように押し寄せるモンスター達の群れを自分の部隊を率いて撃退しながら、カツヤが焦り混じりの言葉を吐く。

 

(こいつ等、想像以上に手強い。部隊で戦ってこれじゃあ、いくらアキラが強くても……)

 

 倒せない程の強敵こそ居ないものの、楽に勝てるモンスターが一体たりとも居ない。

 

 単独で相手を出来ているのはカツヤとアイリくらいなもので、それ以外は総合支援システム等の補助があり、かつ迎撃出来る布陣を敷いて複数で対応しているから何とか押し返せているようなもの。

 

 これでは遺跡に居るにしても遺跡からは脱出しているにしても、モンスターに囲まれているだろうアキラ達は、一溜まりもないと意気を萎ませるカツヤであったが――

 

(いや、これくらいで死ぬような奴に俺が負けるか!)

 

 自分が初めて勝てなかった同年代の相手がそんな腑抜けだなんて認めない。

 

 きっとアキラは生きて、シオリを守り続けている筈だと無理やり意気を回復させる。

 

 ――敗北を認めアキラを自分より上の存在だと定義した事で、カツヤの中でアキラは大分凄まじい実力者に根拠もなく格上げされていた。

 

『カツヤ! 遺跡の入り口付近でシオリさん達らしき反応があったわ!』

 

 その時、情報端末からユミナの声が響く。

 

 残念ながら直接モンスターの群れと戦うには力不足だと判断されたユミナは、後方でシェリルファミリーの戦闘要員で編成された補給部隊を率いている。

 

 ――その部隊には都市に居る方が却って危険だと判断したミズハと、ミズハに懇願されシェリルも同行していた。

 

『遺跡の入り口付近でモンスターが次々に倒されているの。他のハンターという可能性も否定はしないけど、十中八九間違いない筈よ』

 

 補給部隊は文字通り補給物資を積んだ車を守っているのだが、その車には物資以外に総合支援システム等の援護用の装備も多く搭載されている。

 

 その中にある索敵機器が急速に撃退されていくモンスターの反応を捉えたのだ。

『どんな様子だ! 敵寄せ機の電源は切れそうか!』

 

 そして、補給部隊の車にはモンスターをおびき寄せる事が出来る敵寄せ機も積んであった。

 

 これはレイナ達が持ち帰った情報を元に遺跡のモンスター用に調整されており、その効果は津波のように押し寄せるモンスターを見れば一目瞭然。

 

 そんな調整をしている時間もなければ、今のカツヤ達に協力してくれる技術者がよく居たなと思うかもしれないが、これは単純な話。

 

 そもそも都市と協力体制にあるドランカムとしては、遅かれ早かれモンスターの群れと戦う事は決まっており、いつ要請が来てもいいように準備はしていたのだ。

 

 その戦いの為に用意されていた装備や物資を、カツヤの部隊が全部かっぱらってきただけの話。

 

 調整が済んでいた敵寄せ機もその一つでしかない。

 

『駄目! 脱出しようとしている動きじゃない、何か逃げ回ってるみたいな動き! 切ったら多分保たないわ!』

 

 アキラ達が遺跡から苦も無く脱出出来たのも、カツヤ達がこの敵寄せ機でモンスターを釣り出していたからであり――

 

 今も生き残れている大きな要因の一つは、カツヤの部隊が多くのモンスターを引き受けているからだ。

 

 敵寄せ機の電源を切れば数秒もしない内に、アキラ達は群れに摺り潰されるように殺されるだろう。

 

『解った、状況が変わったらすぐに報告してくれ』

 

 アキラ達が生きていた。

 

 そんな吉報が入ってきたにも関わらず、カツヤの表情には焦りが浮かぶ。

 

(くそう、この向こうに居る筈なのに……)

 

 カツヤは目に見える戦果や功績がなければ、己の価値を感じ取れない部分がある。

 

 大軍勢を自分達で引き付け、犠牲の一人も出さずに部隊を指揮し続けている時点で殊勲ものの大活躍なのだが――

 

 倒しても倒しても減っているように見えない敵、全く動いているように見えない光景。

 

 それが自分は何の役にも立ってないんじゃないかとカツヤに錯覚させていた。

 

(あそこだけ敵の層が僅かに薄い?)

 

 その時、カツヤの目がまるで何かに導かれたように、モンスターの群れの中に隙に近い何かを見出す。

 

 けれど、それは隙と呼ぶにはあまりにも、か細く。

 

 気付いたからといって、どうこう出来るようなものではない。

 

(今ならあそこを突き崩してアキラ達を助けに行けるんじゃないか?)

 

 それなのにカツヤは何かの後押しでも受けているかのように、その隙が今の状況を打開する光明にしか思えなくなっていた。

 

(そうすればアキラに今までの借りだって返せるし、無礼の詫びにだってなるよな)

 

 そうだ、力を示せ。

 

 今までの無礼とやらを詫びるなら今が最大の好機だ。

 

 そんな声無き声に後押しされ。

 

 カツヤは己の思考への疑いを消していく。

 

『アイリ、突撃の準備を。群れを突き崩してアキラを助ける』

 

 あの僅かな隙をこじ開けるには、生半可な戦力では絶対に無理だ。

 

 それなら最大の戦力を犠牲にしてでも、一気にこじ開けるしか方法はない。

 

『解った』

 

 短いアイリの了承の声。

 

 カツヤからは僅かに離れた場所でモンスターの群れを押し留めているアイリの姿が、カツヤに見える訳がないし、思考しながらもモンスターの撃退を続けており、一切の意思疎通を交わしていないにも関わらず。

 

 だが、何故かアイリが突撃の為に装備を切り替えた事をカツヤは知っていた。

 

(よし、準備は整ったな)

 

 後は突撃の言葉をカツヤが口から発するだけで、変わり映えのしない光景は一変するだろう。

 

 まるで壁のようなモンスターの群れは崩れ、一気に戦況は動く筈だ。

 

 それが同時に多くの犠牲の山を築く事にも気付かずに。

 

 そして――

 

 事態を一変させる声が響き渡る。

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