中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「エレナ! 状況はどう!」
榴弾の雨をモンスターの群れに浴びせつつ、切羽詰まった声がサラの口から飛び出す。
シオリですら大した活躍も出来ていない状況で、かつてシオリ一人に押されていた二人が活躍出来るのかと思われそうだが――
あくまであれは対人戦。
おまけにお互い殺さないような戦いをするとなれば、銃よりも加減が容易な刀を使っていたシオリに分があっただけの事。
今回は対モンスター戦であり、サラは火力担当としてその力を遺憾なく発揮し、エレナも索敵能力を存分に生かしサポートする事で、たった二人だけとは思えない活躍でモンスターの群れを相手取っていたのだが――
「相当マズいわ! なんか急にモンスターの動きが変わったせいで退路が全部塞がれてる!」
そもそもカツヤ達が部隊を率いて戦っても、膠着状態に持ち込むのが限界な規模のモンスターの群れなのだ。
むしろ今まで逃げ回る事もせず、二人だけで相手を続けられていた事の方が脅威的と言える戦果だろう。
「ったく、何でこうも急に動きを変えたのよ……」
ぼやくサラだが、原因はカツヤ達である。
少し前までは無理してでもアキラを助けようと好戦的にモンスターを相手にしていたが、今は引き気味に陣形を立て直し、持久戦の構えに入った。
当然、カツヤ達が引き受けていたモンスターの群れが他の相手へと移ってしまう訳で。
その影響を最も受けてしまったのがサラ達であり、しかもギリギリまでアキラを助けようという意識で戦っていた為、離脱する機会を逃してしまったのだ。
「……生きている内にエレナに謝っておきたい事があるの」
おそらく自分達の命は残り僅か。
一時間もしない内にモンスターの群れに擦り潰されると判断したサラが、どこか固い声で語り掛ける。
「止めてよ、縁起でもない事言うの。生き残ってさえいれば、アキラに助けられた時みたいな奇跡が起きる可能性だってあるでしょ」
必死で索敵を続け、どこか脱出経路がないかと探しつつ叫ぶエレナだが、言っているエレナ自身、気休めなのは解っていた。
奇跡に頼らなければどうしようもない程、もはや絶望的な状況なのだから。
「私ね、アキラが私達二人をハンターとしてだけじゃなく、女としても意識してくれてるって気付いてた。だからもしそのまま恋人を選ぶならエレナじゃなくて私を選んでほしいって思って、抜け駆けみたいな気持ちで誘惑してた部分があったわ」
死を受け入れた訳ではない。
それでも死ぬ前に悔いを残したくないとばかりに告げられたサラの言葉に、エレナは驚きを隠せなかった。
「バレてないと思ってたの!?」
というのも火力担当だし露出もあまり気にしないところがあるから誤解されやすいが、自分を助け名も告げずに去っていき姿を見せなかった相手に恋心染みたものを抱き、惚気そのものと言える話をシズカに聞かせ続ける程にサラは乙女趣味だ。
いくらアキラと年齢が少し離れているとはいえ、それでも意識してない男を揶揄い混じりとはいえ誘惑なんてするタイプじゃないのは、長年の付き合いであるエレナはよく知っている。
だから、結構本気なのだろうとは普通に気付いていた。
「その程度で後ろめたいとか乙女思考も大概にしてよね。私なんてもっとアキラの事で言えない事あるってのに……」
むしろ内心では微笑ましく思っていたし、変に揶揄った振りして誤魔化さず本気で押せば案外上手くいくんじゃないかと、もどかしく感じた事さえある。
(これが死に掛けの時じゃないと話せない隠し事だなんて、何ともまあ可愛らしい話じゃないの……)
これでは魔が差しただけとはいえ、アキラを研究所に売り飛ばしてその金をサラの治療費に当てようなんて考えてしまった自分なんて極悪人でも足りないし、一生アキラに顔向け出来ないくらいだろう。
「もっと言えない事!? エレナ、一体何したのよ!?」
サラはあれでも結構攻めてアプローチしていたつもりだ。
それ以上となれば押し倒して無理やり唇を奪ったとか、裸で迫ったとか過激な想像をするサラであったが――
「生き残れたら話してあげる。とりあえずサラ、今の状況で取れる道が二つあるんだけど……」
相棒がどういう想像をしたか大体正確に予想しつつ。
その見当外れの予想を訂正する事もせず、エレナは索敵役として今出来る自分の仕事を最大限にこなしていく。
「万が一にも脱出出来る可能性に賭けて今すぐモンスターの群れを突っ切るか、億が一にも奇跡が起きて状況が急変する可能性を信じて戦い続けるか、どっち?」
とはいえ、もはや現状で出来る事は死に様を示すだけ。
そして――
「その二つなら決まってるわ!」
「ま、そうなるわよね!」
迷う事無く、二人はこの場で戦い続ける事を選び銃を構えた。
どっちにしろ確実に死ぬというのなら――
自分達が少しでも生き残り、モンスターの相手をした分だけアキラの生存率が上がるという事を理解してたからだ。
「ごめん、エレナ。私の我儘に最後まで付き合わせる事になって」
それでもサラの口から謝罪の声が漏れる。
命の恩人であり意中の男でもあるアキラを助けたいという想いに親友を巻き込んでしまったという罪の意識が消せなくて。
「何言ってんのよ。結局最後にアキラを助けに行こうって言い出したのは私だったじゃない。むしろ付き合ってもらったのは私の方だって」
そんな相棒にエレナは心の底から笑って答える事が出来た。
何故なら――
「楽しく生きていくのが私の目的だって知ってるでしょ? アキラ見捨てて寝覚めの悪い人生送ってくよりは、今の方がスッキリ出来るってもんよ」
嫌々付き合った訳でも、仕方なく戦っている訳でもない。
アキラを助ける為に命を懸けたのは、間違いなくエレナ自身の意志だったのだから。
(悪いわね、アキラ……)
それでも唯一心残りがあるとすれば――
(ここで最後まで戦うからさ、トンデモナイ事考えちゃったのはそれで全部チャラって事で許してくれない?)
自分達を命懸けで助けてくれた事すら明かさなかった水臭い仲間に。
自己満足にしかならないと解っていても、面と向かって謝る機会がない事だけが本当に残念で仕方なかった。