中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「最後に確認させてもらうけど、もし私達がシオリさんの命だけじゃ足りない。命とまでは言わないけどレイナにも責任を取って貰わないと、アキラを許す事は出来ないって言ったらどうする気?」
エレナもサラも、とっくにシオリの事は許していたし信用もしていた。
ただ、殺され掛けたんだし、少しくらいは意地悪でもしとかないとシオリも逆に納得しないだろうと思い、そんな言葉を口にする。
「私が死んだ後の後任は既に手配してあります。私が死んだ後の事は、そちらの方と交渉なさって下されば……」
二人の予想通り、いや、予想以上にシオリの決意は固かった。
ここまで言ってもシオリは抵抗すらしようとしない。
頭を下げていても解る程に声を悲痛で歪めながら、それでも頭を上げる兆しすら見せずに沙汰を待つ。
(本当に口だけじゃないみたいね)
レイナに手を出すなら刺し違えてでも止める。
そんな態度を少しくらいは見せると思ったエレナは、意地悪が過ぎたなと罪悪感で顔を曇らせる。
「話は解ったわ。それじゃあ具体的にこっちの要求を伝えさせてもらうわね」
「はい。そちらの要求は出来得る限りにはなりますが、全て受け入れさせて頂く所存です」
「それじゃあ言うわよ」
そうしてエレナは和解の内容を口にする。
それは戦闘服の整備費用やシオリとの戦いで使用した弾薬代、そしてエレナ達を護衛などで雇っていれば掛かる程度の費用の請求。
簡単に言えば。
本当に最低限度の補填であった。
「それだけ、ですか?」
ここで初めてシオリが下げていた顔を上げ、エレナ達を見る。
顔には強い戸惑いの色が浮かんでいた。
「もう一つあるわ。これが一番重要よ」
勿体付けるようなサラの物言いに、シオリが再び緊張で身体を固くする。
「はい。どのような事でも受け入れる所存です」
やはり先程の内容だけではなかった。
どこか安心したようにシオリは覚悟を決めるが――
次にサラの口から放たれたのは、シオリが完全に想定していない言葉であった。
「『全員無事に済んでよかった。これも全部アキラが頑張ってくれたお陰よ。ありがとう』。そう伝えてもらえるかしら?」
エレナ達は笑顔を浮かべていた。
こんな事くらい自分達で連絡してもよかったのだが。
本当にアキラと自分の仲を取り持とうとしてくれたシオリを疑った代わりに、少しくらいは華を持たせたくなったのだ。
「それだけで……よろしいのですか?」
あの男の狙いがエレナ達だったとはいえ、それでも二人は徹頭徹尾被害者だ。
勝手に巻き込まれて命を狙われた挙句、アキラの事を悪く思わないでほしいなんて加害者から一方的に願いまで告げられたのだ。
激怒するのが普通であり、逆を言えばこの程度で済ませる方が異常であった。
「もしアナタがアキラをダシにすれば丸く収まる、なんて態度を少しでも見せていれば、この程度で済ませる気なんてなかったわ」
それこそ容赦なく全財産を巻き上げ、二度と私達とアキラの前に姿を見せるなとエレナは吐き捨てていただろう。
「けどね。私達だって恥知らずにも恩知らずにもなりたくないの。アキラが丸く収まるよう必死で頑張ってくれたのに、私達が台無しにする訳にはいかないでしょ?」
そうでしょ、とばかりにエレナがサラに顔を向ける。
「そうね。殺され掛けたんだから何も思うなってのは無理。でも、それ以上にアキラに余計な心配掛ける方が何百倍も嫌」
「そういう事。でもこれだけの事があって何も無しってのは、かえって気になるしアキラだって気にするかもしれないでしょう? だから和解の証として最低限の補填だけは頂く。それで終わりにしましょう」
そう言ってエレナ達は笑う。
そこに怒りの色は全く残っていなかった。
「ご配慮、痛み入ります」
安堵と共にシオリの緊張が解けていく。
その姿からは、アキラとエレナ達の仲が悪くならなかった事を心の底から喜んでいる事が見て取れた。
「全く。いつもみたいに私の事はいくら恨んでもいいからレイナ様の事だけは。って言ってきたって別に許してたわよ」
その時は許してほしいなら、アキラに出来るだけ報酬を上げてとエレナは言うつもりだった。
「そうそう。わざわざ心配して貰わなくてもアキラを嫌ったりなんかしないわ」
余計なお世話とばかりにサラは告げるが――
仕方ないわね、と言わんばかりの親しげな笑みが浮かべられていた。
「先走って話をややこしくしてしまって申し訳ありません。ですが――」
「ですが?」
「お二人に嫌われたかもしれないと悩んでおられたアキラ様の姿を思い出すと、何とかしてあげなければという気持ちが抑えられなくて……」
「あー、解るかも。意外とこう、母性をくすぐるっていうか可愛いところあるわよね」
「そうそう。偶にこう、ビックリするくらい無防備で驚くのよね」
そうして三人はアキラの話題で盛り上がり笑い合う。
それはあまりに平和な光景で。
今の三人を見て少し前に殺し合いをした仲だんて想像するのは、おそらくカナエみたいな感性の持ち主くらいだろう。