中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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十七章 積み重ねた意地の軌跡
戦場に相応しくない乱入者


「嘘でしょ!?」

 

 少しでも生き延びる時間を伸ばそうと情報収集機器でモンスターの動きを探っていたエレナは、あまりに予想外の物が近付いてきている事に気付いて思わず声を上げるが――

 

「エレナ、朗報か絶望かどっち!」

 

 サラには悠長に事情を聞いている余裕がない。

 

 何せ回復薬は既に使い切った上に、弾薬も尽きる寸前。

 

 もはや残骸に成り果てた車を盾代わりにして悪あがきをしているだけであり、もう五分だって保たない状況なのだ。

 

「朗報よ! 援軍が来たわ!」

 

 周囲の状況を探る余裕もなく必死で戦い続けるサラの意気を挫けさせぬ為、エレナは全ての疑問を押し潰してそれだけを告げる。

 

 だが、エレナが戸惑うのも無理はない。

 

 大型トレーラーがモンスターの群れを縫い、猛然と自分達の方へ向かって来ているのだが――

 

  一応は荒野仕様ではあるが、荷物の運搬を前提に作られているトレーラーだ。

 

 機銃を設置出来て装甲も多少は厚いものの、それでも市街地だけで運用される前提のものよりはマシな程度の戦闘能力しかなく、戦場のど真ん中で戦う為に作られた機種ではない筈だし。

 

 何よりそんな商業用の大型トレーラーなんてエレナには心当たりが一つしかない。

 

「カツラギ!?」

 

 サラもトレーラーを目視した事でエレナが戸惑っていた理由に気付く。

 

 モンスターの群れに囲まれ視界が悪かろうと、余程の間抜けでもなければ見逃さないその巨大なトレーラーは知っていた物であったし、運転しているのもカツラギ本人だ。

 

 だが、商品の仕入れならともかくカツラギ本人がわざわざ最前線までアキラや自分達を助けに来る事が、そもそも信じられない。

 

 が、驚きはそれだけで止まらなかった。

 

「グレネード持ちはケチらず撃て! あれもアキラの救援者、お仲間だ!」

 

 トレーラーの上にはハンターが所狭しと陣取っており、ここで撃ち尽くしても構わないとばかりの勢いでモンスターの群れへ銃撃の雨を降らせたのだ。

 

 とはいえ、サラ達でも苦戦を強いられる程のモンスターなのである。

 

 さすがに蹴散らすまでには至らず、多少の被害を与えただけ。

 

 それでも先なんて考えてないとばかりの銃撃の雨嵐は、さすがに鬱陶しかったのだろう。

 

 サラ達を取り囲んでいたモンスターの半数が向きを変え、カツラギのトレーラーへと標的を移す。

 

 このままではサラ達より先にカツラギ達がモンスター達に摺り潰されてしまう。

 

「ええ!?」

 

 逃げなさいと思わず叫びそうになったサラの前で事態は更に急変していく。

 

 トレーラーの中から武装した大量のメイドが飛び出し、モンスター達を迎撃し始めたのだ。

 

 戦場には似合わないふざけた恰好ながら中々練度は高いようで、トレーラーの上に居るハンター達と連携して、モンスターの群れを押し留めトレーラーを守護する。

 

「何が起こって――」

 

「サラ、まだ助かってない!」

 

 目まぐるしく変わる状況にサラが戸惑いで動きを鈍らせてしまった隙を突くように、モンスターが攻撃を掻い潜り飛び出してきたのだ。

 

(弾切れ!?)

 

 それでも素早く反応し迎撃しようとしたサラであったが、残り少なくなっていた弾薬を少しでも有効活用しようと、ギリギリまで再装填しなかったのが仇になった。

 

 仕留めきれなかったモンスターの凶刃がサラの喉元まで迫り――

 

「カナエ、二人をお願い!」

 

 命が刈り取られる直前で、メイド達と共にトレーラーから飛び出していたレイナの放った銃弾がモンスターを仰け反らせる。

 

「了解っす」

 

 倒すまでには至らず僅かに動きを止めただけであったが、その数秒があればカナエには十分だった。

 

 トレーラーに標的を移し手薄になったモンスターの群れの合間を駆け抜け、一息でモンスターの前に躍り出たかと思うと――

 

「あれ、前に遺跡で戦った時より弱いっすね?」

 

 勢いのままに拳を叩き付け、サラを襲おうとしていたモンスターを粉砕する。

 

「一体何がどうなって――」

 

 次々に起こる予想外の状況に礼を言う事も忘れて事態の説明を求めようとするサラであったが――

 

「話はトレーラーの中に戻ってからっす。補給の傍らに説明させてもらうっすよ」

 

 あくまで一時的に死を回避しただけ。

 

 未だ危機的な状況である事には変わらず、悠長に説明している暇はないと素早く撤退を促す。

 

「と、そうさせてもらうわ」

 

 荒野で誰かに会うと碌な目に遭わないせいか、無意識に警戒し説明を求めようとしていたサラであったが、冷静に考えれば自分達に害を為す気ならば、そもそもこんな場所にまで助けに来ないだろうし。

 

 何より、ここで誘いを断れば回復薬も尽き、弾薬も残り少ない自分達に待っているのは死だけだ。

 

「有難いけど支払いは生きて帰れてからでいい? 今お金ないのよね……」

 

 エレナも異存はないらしく、目下に迫っていた死からは逃れられた安堵から冗談交じりのそんな言葉を口にする。

 

「その辺は奢りなんで大丈夫っす。他のメイドが居るとはいえ、あまりお嬢の傍を離れる訳にはいかないっすから、細かい話は全部中でさせてもらうっすよ」

 

 笑ってカナエは答えると先陣を切って進み始める。

 

 サラとエレナの二人だけでも何とか持ちこたえていたのだ。

 

 そこに体力万全のカナエも加わればトレーラーに戻るくらいなら容易く、三人は難なくレイナと合流する。

 

(助かったわね……)

 

 もしトレーラーが来るのが後少しでも遅ければ、サラ達は死んでいただろう。

 

 辛くも二人が命を拾う中――

 

 別の場所では更に大きな戦況の変化が発生していた。

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