中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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戦場に相応しい乱入者

「こいつ等、あの時の!?」

 

 後方に現れた存在にカツヤが驚きのあまり声を上げる。

 

 視線の先に居たのは、シェリルの倉庫警備を引き受けた時に襲ってきた人型兵器、白兎を更に重武装にした機体であった。

 

 それがまるで戦争でもおっぱじめるんじゃないかというような大群で、次々と向かってきているのだ。

 

(あの映像でアキラの窮地を知って止めを刺しに来たってのか!?)

 

 二大徒党の残党がアキラに叩きのめされた報復に、この機に止めを刺しに来たと判断したカツヤはどう動くべきか迷う。

 

 自分達がアキラを助けようとしている部隊だというのは明白だし、倉庫警備の時にカツヤ達だって戦っている。

 

 白兎達を繰り出した側から見れば自分達も、アキラと同じく倒すべき相手として認識されていてもおかしくない。

 

(どうする? 今で何とかモンスターの群れと戦力は互角。後ろに回す余裕はないが――)

 

 かといって後方に居るのは総合支援システムの搭載された装備を持っているとはいえ、ほとんど素人同然のシェリルの徒党の戦闘要員ばかり。

 

 人型兵器である白兎の大群なんて相手をするどころか、一体だけでも手に余る。

 

「あ、あんなの俺達に何とか出来る訳ない……」

 

「けど、逃げる場所なんて……」

 

 事実、既に士気は完全に崩壊しつつあり、落ち着かせようとユミナが裏で動いているのだが何の効果も出ておらず――

 

 前はモンスターの群れ、後ろには人型兵器の大群という逃げ場のない状況でなければ、とっくに散り散りになって潰走し始めているだろう。

 

(駄目だ、これじゃあ全く戦力にならない!)

 

 白兎とモンスターに挟撃される形になればユミナを守るどころではない。

 

 自分達の部隊さえ壊滅し兼ねない状況に、素早く戦力を二つに分けようとするカツヤであったが――

 

『全員落ち着いて! 敵じゃないわ、援軍よ!』

 

 ミズハから勘違いを正す声が、機器を使って周囲に拡散される。

 

 確かに普通に考えれば、かつて戦った人型兵器がアキラを助けに来るとは思えないだろう。

 

 だが、それでも放っておいても死ぬだろう場所まで、わざわざ危険を冒して襲いに来るかとなればそれも考え難い。

 

 そして、ミズハには人型兵器が助けに来る理由に心当たりがあり――

 

 それを裏付けるような言葉が人型兵器の方から、もたらされた。

 

『諸事情がありアキラ様の救援に来ました。アキラ様かシェリル様宛てに言伝を預かっていますので、対話が可能であれば繋いで頂けませんか?』

 

 ミズハは先のスラムでの二大徒党の消滅の真相は、都市の重鎮に連なる者であるシェリルを危険に巻き込んだからだと推測している。

 

 だからこそ、戦場では何の役にも立たないシェリルを最前線まで引っ張ってくれば都市側は何かしら理由を付けて助けに来ると予想しており、完全に狙い通りになっているからこそ誰よりも冷静に状況に対応していく。

 

『シェリルです。状況が状況ですので手短にお願い出来ますか?』

 

 ミズハから通信機を渡されたシェリルは内心の疑問を完全に押し殺し、悠然とした態度でそれだけを告げる。

 

 こんな大量の人型兵器を動かしてまでアキラを助けてくれる人間に心当たりなんてある筈もなく、余計な事を言われてボロを出せば全て終わると瞬時に判断しての事だ。

 

『それでは言伝だけ。生かしておいてよかったでしょう、です。確かにお伝えしました』

 

『確認しました。アキラには私の方からヴィオラの言伝があったと連絡させて頂きます』

 

 そして僅かな言葉だけで誰からの言伝か推測すると、全ての事情を知っていると見せ掛ける為に、あえてヴィオラという単語を口にする。

 

 もし推測が間違っていれば全てのハッタリが瓦解し、この場で破滅し兼ねないが――

 

『はい。お願いします』

 

 シェリルの予想通り。

 

 アキラとシェリル相手に、生かしておいてよかったなんて伝言を残す可能性がある人間なんて一人だけ。

 

 通信相手はシェリルには全ての話が通っていると判断したらしく、安心したように通信を終える。

 

(事情はさっぱり解からないけれど……)

 

 もしシェリルが二大徒党の争いが、八島重鉄と吉岡重工による人型兵器のプレゼンテーションの為に起こされたものだと知っていれば、聡明な彼女なら推測出来たかもしれない。

 

 二つの企業がアキラを助けなければならない理由に。

 

 現在のアキラのハンターランクは子どもにしては高い程度しかなく、今アキラが死んでしまえば事実はどうあれ、人型兵器は低ランクの子どもハンターに蹴散らされる程度の力しかなかったという結果だけが残ってしまう。

 

 そうなれば、兵器としての商品価値は完全に無くなるだろう。

 

(これがヴィオラの本気って事ね)

 

 そこで二つの企業にアキラの救援を持ち掛けたのがヴィオラであった。

 

 確かに今アキラが死んでしまえば、どちらの企業にとっても都合が悪い事にしかならない。

 

 だが逆にこの場からアキラが戦果を上げ生きて戻る事が出来れば、商品価値を保てるどころか、あのアキラを苦戦させた兵器として商品価値が跳ね上がる可能性さえある。

 

 ならばモンスターの群れをアキラと一緒に倒してしまえばいい。

 

 そうすればアキラも助かる上に、都市の防衛隊にこれだけのモンスターの群れ相手に戦えると実際に示す事も出来て一石二鳥。

 

 それどころかプレゼンテーションに巻き込んだ形になってしまったアキラへの詫び代わりに救援に来たとしておけば、一石三鳥にさえなる。

 

 今すぐ話に乗ってくれるなら都市にもアキラ達にも私が交渉してあげるなんて提案する事で、この膨大な戦力を戦場まで引っ張ってきたのがヴィオラであり。

 

 都市に喧嘩を売る形になってでもアキラと黒狼の戦いの動画をばら撒いたのは、この流れを作る為の布石であった。

 

 ――この企てを成功させる為には、都市の警備を担い兵器の売り込みを掛けられていたイナベだけに恩を売れるような状況を作り出す必要があり、その為には都市全体が自由に動ける状態では都合が悪いからだ。

 

(悔しいけど認めざるを得ないわ。確かにこの窮地にこれだけの戦力を用意してこれるなんて、アキラでも生かしておいてよかったなんて言うかもしれないわね……)

 

 そんな細かい事情は一切解からず。

 

 けれど、この援軍の立役者がヴィオラである事だけは理解したシェリルは、自分よりもよっぽどアキラの助けになっているのでは、と嫉妬を覚えずに居られない。

 

(いつの間にヴィオラに警告を……)

 

 その裏でミズハは驚愕で慄いていた。

 

 事情を何も知らないミズハからすれば、有象無象のハンターを集めシェリルの依頼に応えようとしたミズハの妨害をした件でシェリルがヴィオラを殺そうと手を回し、ヴィオラは妨害の埋め合わせにこれだけの戦力を用意してきたようにしか見えず。

 

「よかった。勇気を出してアキラさん助けに来て本当によかった……」

 

 徒党の戦闘員達は安堵と恐怖でへたり込んでいた。

 

 実際に人型兵器の襲撃に遭い、その力を身をもって知っている子ども達からすれば、それが味方だと解ったのは頼もしいが――

 

 同時にこの頼りになり過ぎる援軍は、アキラを助ける為だけにやってきたのだ。

 

 もし自分達が裏切っていれば、この人型兵器とアキラが報復に向かってきたのかもしれないと思えば泣き笑いするしかない。

 

 そして――

 

「さすがアキラだ。これなら何とかなりそうだ」

 

 自分よりアキラが凄いと認めた事で、もうアキラなら何があっても不思議でないと変な信頼感を覚え始めたカツヤは場違いな程に屈託なく。

 

 けれど獰猛に笑う。

 

 今までは耐えるしかない戦力差だったが――

 

 これ程の戦力が味方に付いた今こそ、反撃の番が来たとばかりに。

 

 カツヤ達の部隊が攻勢に移った事を皮切りにしたように。

 

 ある者は逃げ惑い、ある者は耐え忍ぶしかなかった戦況が大きく動き始める。

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