中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「アレ動画でアキラが戦ってたヤツじゃない!? あんなのもアキラを助けに来たの!?」
カツラギのトレーラーで補給を終え再び戦場に舞い戻ったサラは、飛び込んできた光景に自分の目を疑うしかない。
空を駆り戦場に現れた人型兵器、黒狼の部隊がモンスターの群れを爆撃していたからだ。
――黒狼も白兎と同じく、アキラが戦った時の物より兵装が増えている。
これはカツヤ達の元に現れた八島重鉄とは別の、吉岡重工の部隊であった。
本来なら吉岡重工も味方である事を示す為にシェリルに接触しておきたかったのだが、既にそちらには八島重鉄が向かってしまった。
そうなると競合相手である吉岡重工としては、一足遅れでシェリルに挨拶に向かうよりも実際に戦果を示しつつ、アキラの救出を急いだ方が受けはいいだろうと判断したのである。
あくまで二つの企業の目的は、自社の商品を相手より高く都市に売り込む事。
モンスター退治もアキラの救出も、その手段でしかないのだ。
「ったく。あの子、私達の知らないトコでどんな事やらかしてきたのよ……」
乱暴な言葉とは裏腹にエレナの口元には心底楽しげな笑みが浮かべており、人型兵器の群れがアキラを救出する為にやってきた部隊であると信じ切っている。
人型兵器が部隊を成してやってきたのなら、都市がモンスターの群れを倒す為に派遣したと想像するのが普通だろう。
だが、モンスターの群れが都市に迫る可能性があるのに、ここまで部隊を派遣してくる可能性が薄い事くらいエレナも予想出来るし――
(結構、アキラの事は理解してるつもりだったんだけどなあ)
その上でカツラギのトレーラーで補給した際にカナエから聞かされた話が、人型兵器の部隊もアキラの救出部隊だと印象付けていた。
「いやあ、本当そうっすよね。全部終わったら一度、守秘義務とやらに関わらない範囲で話を聞いてみたいもんっす」
モンスターの迎撃をしながらエレナの言葉に応えつつ、カナエは今までの経緯を思い出す。
どのようにしてカツラギやハンター達が集まったのかの流れを。
切欠はレイナ達の元にも、アキラと黒狼の動画が届いた事であった。
そこでアキラが何らかの事情でシオリの窮地を知り、単身で助けに向かった事に気付いたレイナは、一向に人が集まらないシオリの救援依頼の内容を急遽変更。
装備はこちらで用意する上に報酬も多めに提示した上で――
自分達の命の恩人であるアキラを一緒に助けてほしい、と募集を掛け直したのだ。
(そんな青臭い依頼なんて誰も請けないと思ったんっすがね……)
情に訴えて何とかなる程、世界は甘くない。
むしろそこまでして助けたいのなら、と足元を見られるだけだとカナエは思いレイナに忠告もしたのだが――
レイナは今までのやり方じゃ無理だったんだし、初対面であんな無礼働いた自分でも助けてくれたアキラなら他にも色んなハンターを助けている筈だと強行。
真面なハンターならまず請けないだろうアキラの救出依頼を発注したのだ。
まずこの依頼にカツラギが素早く反応した。
これは義理や人情の問題ではなく、単にカツラギ的に都合が良かったからだ。
カツラギとしては元々、二大徒党の争いを経た結果、荒事の備えの為にシェリルの徒党が装備を必要とすると予測し、遺物販売店に協力する傍らで装備を掻き集めていた。
ところがアキラの窮地を知り、装備を売り込むどころか徒党の存在自体が怪しくなってきてしまった。
このままでは不良在庫を抱えてしまうだけでは済まないと頭を抱えた矢先、レイナの依頼を発見。
カツラギとしてはアキラが助かり徒党がこれからも物資を購入してくれるなら万々歳だし、売れる当てもない装備も捌ける機会を見逃す手はない。
自分はアキラと共に死線を潜り抜けた事もあり、贔屓にしてもらっている商人だから、アキラを助ける為なら助力を惜しまないと自らレイナに売り込んだのである。
(メイドなんて連れてて金持ってそうって理由だったとは思うっすけどね)
カナエはカツラギの熱心な売り込み自体は一切信用しなかったものの、とりあえず自分の利益の為にアキラを助けたいという事までは態度から推測出来たので、一先ずはカツラギの申し出を受けるべきだとレイナに提案。
一先ずとしたのは、そもそもハンターが集まらず、結局カツラギから装備を買う事はないだろうと思っていたからだ。
(まさかあんなに集まってくるとは思わなかったっす……)
ところがカナエの予想に反して、次々にハンターが集まってきたのである。
自分達もアキラに命を助けられた事がある。
ヤラタサソリやキャノンインセクトの群れから助け出してもらった上に、回復薬まで無料で譲ってくれた。
その借りを返せるなら返したい、と。
(お嬢も少しは成長してきたと思ったんすけどねえ……)
そこで全く疑わず喜んで全員を受け入れようとしたレイナに、カナエはさすがに忠告せずには居られなかった。
仮に助けられたのが事実だったとして、それでも折角拾った命をわざわざ捨てに行くような酔狂な人間が、こんなにも居る訳ない、と。
それを裏付けるように集まったハンターの多くはカナエに指摘された瞬間、何か後ろめたそうな空気を醸し出しており、到底信用出来るものではなかった。
(何というかアキラ少年、運が良いのか悪いのか解からないっすねえ……)
事実、ハンター達には負い目があった。
そもそもハンター達はアキラと黒狼の戦いの動画を見るまで、自分達を助けてくれた人間の名前をアキラだとは思っていなかったのである。
名乗られていないのだから仕方ないのだが、話はそこで終わらない。
(まさかカツヤ少年に間違われているとは数奇なものっす)
名前が解らないからこそ、噂を元に自分達を助けてくれた相手の素性を推測するしかない。
そして、運が悪い事にピタリとイメージに該当する人間が居たのだ。
それこそが子どもと言って差し支えない年齢ながら凄腕で、己の命も顧みず進んで救援依頼をこなす珍しいハンターとして噂になっているカツヤであった。
フリーのハンターとドランカム所属のハンターを間違えるかと思うかもしれないが、どこに所属してどこで活躍しているかなんて細かく調べる人間なんて大して居ない。
それっぽいものがあれば、事情とか気にせず決め付けてしまう者が大半だろう。
(まあ、そりゃあ後ろめたくもなるっすか……)
そこで人違いをしているだけなら、負い目は薄かった。
問題は助けられたハンター達は、カツヤだけでなくアキラの噂も耳にしており。
同じく凄腕で子どものハンターではあるものの、気に食わなければすぐにでも銃を向け、人を殺す事に何の躊躇いもないという典型的な身勝手で力を振り回すタイプのハンターだと聞いていた為――
同じ子どものハンターでもえらい違いだ。
アキラとかいう奴も少しはカツヤを見習ってほしい、と何度も陰口を叩いてしまっていたそうだ。
――噂とは発端以上に、そういう何も知らずに適当に口にしてしまう自分達のような者達こそが広め形作っていく事をハンター達は理解していた。
(本当、運が良いのか悪いのかっす……)
もしそんな負い目がなければ、命を助けられた恩があった上で、丁度良く恩を返せそうな依頼があったとしても、きっとハンター達はアキラを助けになんて来なかっただろう。
レイナはハンター達の話を聞いて怒りを覚えていたが、むしろカナエはこれなら青臭い依頼を出した人間から装備を持ち逃げする為にやって来たゴロツキの可能性は低いだろう、と信用を高めていた。
(ま、カツラギって奴は運良くないっすね)
しかし、それではカツラギが戦場にまでやってきた理由に説明が付かない。
ここでハンター達に装備を提供して帰っても問題ないというか、商人でしかないのだから、むしろそれが普通の対応だ。
ところが、ここでスラムの子ども達がアキラの救出の為に荒野に向かったという情報が入ってきてしまう。
子どもですらアキラの窮地に駆け付けようとしているのに、自称死線を共に潜り抜けた事で贔屓にされている武闘派商人が装備を売り付けるだけで帰ってしまえば、今までの言葉に何の説得力もなくなってしまう。
商売をする上で信用は何よりも大事なものだ。
そして、レイナという見るからに金持ちの少女と集まった多くのハンター達との商機を見逃す事なんて生粋の商人であるカツラギに出来る訳もなく。
――アキラのところまでは俺が連れてってやるぜ! 最前線まで仕入れに行って帰って来た事もある腕を見せてやるよ!
本人的にはどうしてこうなったと叫びたい気持ちを必死で押し殺し、豪快に宣言する以外の選択肢なんて取れなかったのだ。
(ま、お陰でこっちも他のメイド達も動かす事が出来たからいいんっすけどね)
旅館を手伝ってくれたメイド達には既に応援の要請自体はしていたものの、それでも全員分の荒野向けの移動手段を用意していては時間が掛かり過ぎると思っていたが――
カツラギのトレーラーならば、ハンターや物資を載せても余裕がある。
レイナ達にハンターにカツラギと完全に異なる勢力の寄せ集めにも関わらず、個人であるサラ達や部隊として動いていたシェリルの徒党とカツヤ達の部隊より少し遅れた程度の早さで戦場に駆け付けられたのは、カツラギのトレーラーに力によるものが大きいだろう。
――ハンターがトレーラーの上に居たのは、積載量の問題でなくモンスターの迎撃の為だ。
(とりあえず最終的に助かれば運が良くて、それ以外は悪いって思っとけばいいっすよね!)
良いも悪いも絡んだ複雑な巡り合わせの果てに、絶対に無理だと思っていたシオリの救出は手を伸ばせば届くところまで来た。
ならば自分に出来る事は運が良かったで終わらせる為に、拳を振るう事こそが最善とばかりにカナエはモンスターを粉砕し続けると――
「ここは私達に任せて二人はアキラ少年のトコに向かうっす!」
人型兵器の参入により戦況は一気に人間側に傾き、モンスターも戦力を回し切れなくなってきているのだろう。
もはや過剰戦力になりつつあるこの場ではなく、アキラの救援へ向かうように二人に告げる。
「解ったわ!」
「それじゃあ遠慮なく!」
サラ達に申し出を断る理由はない。
むしろカナエが言い出さなければ、二人の方から言い出していただろう。
渡りに船とばかりに二つ返事で答えて走り出す。
「おそらく、さっき人型兵器が爆撃していた付近に居る筈っす!」
既に駆け出しているから、わざわざ伝える必要はないかもしれないが。
それでも念の為に情報収集機器の反応から、大まかな位置を伝えるカナエであったが――
(こりゃ助けに来てくれたからって油断してると、盗られるかもっしれないっすよ、姐さん)
振り返る事もせず一目散にアキラの元へ向かった二人の背中に。
まだまだ色んな意味で戦いは終わっていないのだとカナエは楽しそうに口元を歪めつつ、モンスターの撃退に勤しむのであった。