中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

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積み重ねた意地の軌跡

「どうなって――」

 

 あまりの状況の変化に、アキラは戸惑いを隠せない。

 

 ほんの一瞬前までは間違いなく追い詰められていたのだ。

 

 しつこいまでのモンスターの攻撃に乗ってる車は装甲も所々剥がれて動いているのが不思議な状態だし、取り囲まれて逃げ道だってなくなっていた。

 

 もはや死ぬ以外の道なんて残されていなかっただろう。

 

 しかし、突如現れた黒狼の部隊がモンスター達を爆撃し吹き飛ばしてくれたお陰で、九死に一生を得た。

 

 それだけなら都市の防衛隊がモンスター討伐に動き始めたのだろうと、そこまで驚かずに済んだかもしれない。

 

 だが、黒狼から自分達もアキラ救援部隊の一つであり、ヴィオラからの要請を経てアキラの救出に来たという話を聞かされたのだ。

 

(俺の救援部隊?)

 

 周囲のモンスターを黒狼達が相手している事で僅かに余裕が生まれたアキラは、戦場全体の様子を確認していく。

 

 自分達以外にもモンスターと戦っている者達が居る事自体には気付いていた。

 

 けれど、それは遠くで自分達以外にもモンスターと戦っている奴等が居る程度の認識であって内訳を把握していた訳ではなく。

 

 初めて、その概要を確認するに至ったアキラは戸惑いを更に深めていく。

 

(カツラギのトレーラー……)

 

 見覚えのあるトレーラーに、それを守るように戦うメイド達。

 

 二大徒党の抗争で戦った人型兵器。

 

 遠目で見ただけでも解かる程に目立つ姿をしている勢力なんてそれくらいだが、そのどちらも少なくとも知っている相手であり――

 

「さすがアキラ様ですね。これだけの方が助けに来て下さるだなんて……」

 

「いや、あれは――」

 

 自分を助けに来たなんて信じられないと混乱しながらも、それでもモンスターの撃退を続けるアキラの隣で、感心したようなシオリの声が響いて思わず否定の言葉を返そうとする。

 

「私を助けに来た者はそれほど多くはないと思いますよ。ほとんど私には見覚えがありませんし、同僚はお嬢様の危機だというならともかく、こんな危険な場所まで私を助けには来ないでしょう。この光景はアキラ様のお陰で生み出されたものですよ」

 

 けれどシオリは言外にあのメイド達だってアキラを助けに来た者達だと伝えて、アキラに反論を許さない。

 

(これが、俺のお陰だって?)

 

 人型兵器の参入を機に完全に戦場の様子は様変わりし、圧倒的に人間側が優勢。

 

 もはやモンスター達は狩られる側でしかないと言わんばかりに、一方的に撃破されているような状況だ。

 

「見えますか、アキラ様? こちらに向かっている方の姿が?」

 

 それでも標的であるシオリが居るアキラ達の周りだけは別らしく。

 

 決して逃がしはしないと言わんばかりの勢いでモンスターが次々とやってきては取り囲もうとし、それを防ごうと黒狼達が絶えず爆撃を繰り返してモンスター達を牽制し続けるという戦場随一の激戦区と化しているのだが――

 

 そこを真っ直ぐ突き進み、アキラの元へ向かって来ている者達が居た。

 

「見えたわ、アキラ達よ!」

 

「ボロボロじゃない! まあさっきまでの私達よりは多少マシな感じだけど」

 

 サラとエレナの二人だ。

 

 爆撃の流れ弾が当たるかもしれないし、逆に黒狼達の支援が途切れた瞬間にモンスターに取り囲まれ窮地に陥るかもしれないという危険地帯。

 

 下手すればいつ死んでもおかしくない場所を駆け抜けているにも関わらず、安堵の混じった笑みを浮かべ、迷う事無くアキラの元へと突き進んでくる。

 

「私でもお二人の表情を見るだけで解かります。ただアキラ様を助ける為だけに、あの方達はここまで来て下さったのです」

 

「…………」

 

「お二人のように純粋にアキラ様を心配して来て下さった方が、どれだけ居るのかは私も解りません。助けに来た者達にもそれぞれ色々な事情や思惑があるでしょうし、他の者は全てアキラ様に今死なれてしまっては困るという利己的な理由で助けに来た可能性もあるでしょう」

 

 サラ達の姿を見ても信じられないと戸惑いを強くして口も開けないアキラに、シオリは綺麗事だけでない言葉を告げていく。

 

 こんなにたくさんの人がアキラを助ける為に命を懸けてくれているなんて、そんな綺麗過ぎる言葉ではアキラには受け入れられないだろう事くらい理解しているから。

 

「ですが、ただ力を振り回すだけの人間をこれだけの者が助けに来る筈がありません。そんな身勝手な乱暴者なんて、これを機に居なくなってほしいと願う者ばかりでしょうからね」

 

 力だけで相手を従え地位を築いた者は、生きてほしいと願われるどころか死後さえも雑に扱われる。

 

 シベアやワタバがそうであった。

 

 力が通じている間は逆らえないから好きにさせるか、真面に相手をするのも面倒だからと放っておかれるが、それが崩れた途端に本人の関係者でさえ邪険に扱われ、生きてても迷惑なだけだし死ぬ時くらいは後腐れなく死んでくれと願われる程度でしかなく。

 

 窮地になったからってわざわざ助けになんて来ないだろう。

 

「御自覚下さい。これが貴方が貫き続けてきた意地の結果であり、力とは別の貴方自身の価値なのです」

 

 間違いなく、これだけの戦力が救援に来たのはアキラの日頃の行いの成果。

 

 アルファも関係ない、アキラ自身の魅力だと自信を持ってシオリがアキラに告げた瞬間――

 

 今まで何の反応もなかったシオリの通信機から通知音が聞こえる。

 

 おそらく今まではモンスター達が妨害電波でも出していたのだろうが、各所で救援部隊が暴れモンスター達が倒され始めた事で妨害の影響が薄れたのだろう。

 

(カナエでしょうか?)

 

 ああ見えて護衛の仕事は、きっちり果たす人間だ。

 

 レイナを危険に晒してまで自分を助けに来るなんて馬鹿な真似をする訳がなく、今回メイド達を連れてやってきたのは、レイナの命の恩人であるアキラを助ける為だとシオリは完全に読み切ると――

 

 それならばカナエの口からも、アキラの救出に来たという言葉が聞けるだろうと通信を繋ぐ。

 

『シオリさん、無事か! 助けに来たぞ!』

 

 その途端、カツヤの声が盛大に響き渡ってきて、シオリは思わず通信を切ってしまった。

 

(遺物強奪犯の時といい義体男の時といい、あの方はわざとやってるのですか!)

 

 こんな危険な場所まで助けに来てくれたのだから感謝すべきであるし、失礼な対応をしてしまった自覚はある。

 

 車の運転とモンスターへの警戒に手一杯で、確認もせずカナエ達からの通信と判断した自身の落ち度なのも重々理解しているが――

 

 それでも何度目かになるカツヤの絶妙な間の悪さに頭痛を覚えずには居られず、シオリの表情が苦虫でも咬み潰したように歪む。

 

「はは、シオリも人の事どうこう言えないな」

 

 折角、アキラの自己認識の低さを改善してもらえる機会がと意気消沈しそうになるシオリの予想に反して。

 

 アキラは、おかしそうに笑みを浮かべていた。

 

(そうか。シオリから見た俺はあんな風に見えていたのか……)

 

 自分なんて誰も助けに来る筈ないという風に語っていたシオリの姿に自身を重ねる事で、どれだけ滑稽な事を言ってたのか少しは理解出来たから。

 

「理由は置いといて、これだけの戦力が見殺しにもせず俺達を助けに来たんだ」

 

 無茶をやらかして病院送りになった時のように、後から救出費用等を請求されるのかもしれない。

 

 自分なんかには理解出来ない組織の事情だってあるんだろう。

 

 それでも――

 

 確かに自分を心配して命を懸けてくれる人も居る。

 

「それなら助けに来ただけ無駄だったなんて言われない為にも、絶対に生きて帰らないとな」

 

 きっと世界は自分が思っていたよりは多少優しい。

 

 少なくとも張り続けた意地が、何の意味もなく無駄に終わらない程度には。

 

「はい、そうですね」

 

 アキラの中で何かが変わったのをシオリは感じて。

 

 ただ頷いて微笑む。

 

 本当の意味で自分を信じられるようになった訳ではない事くらい解っている。

 

 それでも最初の一歩を確かに踏み出してくれた事には間違いなく、今はそれだけで構わなかった。

 

「何だ!?」

 

 その時、人型兵器がモンスターを爆撃していた音とは違う種類の轟音が響き渡り、遠くでモンスターの撃退を続けていた白兎が後退していく。

 

 白兎や黒狼は都市の防衛隊に売ろうとしていただけあって、その性能を遺憾なく発揮出来るのは単騎の小さな強敵を相手にした時ではなく、モンスターの群れを相手にした時だ。

 

 事実、単純な戦闘能力だけならアキラを下回る強さでしかないにも関わらず、アキラが追い詰められる程に苦戦していたモンスターの群れ相手には、その殲滅力で大きな戦果を上げていた。

 

「こっちもか!?」

 

 その人型兵器達が押され始めている。 

 

 白兎に続きアキラ達の周囲のモンスターを撃退していた黒狼達にも被害が出始めており、戦況が再びモンスター側に傾き始めていく。

 

「あっちにも戦力が残ってたって事か……」

 

 大型のモンスターが現れ、人型兵器の相手を始めたのだ。

 

 さすがに人型兵器達も簡単に撃破される事はなく奮戦を続けているものの、戦況を左右する重大な戦力を抑え込まれてしまったも同然。

 

 この状況が続けば近い内に人間側は押し負け、撤退を余儀なくされるだろう。

 

 他の人間達は退けば助かるかもしれないが、遺跡側に標的とされているシオリにその道は選べない。

 

 そしてシオリを見捨てられないアキラも、それは同じ。

 

『あの一際大きいのが司令塔よ。あれさえ倒せば、ここのモンスター達も引き下がらざるを得ないわ』

 

 このままでは生き残れない。

 

 何か状況を打開する手段はないかとアキラが考えた瞬間、もう聞き慣れた音のない声が響いてきた。

この中で十七章に何か言いたい事があれば

  • 解像度が高い
  • 展開が上手い
  • 納得が多かった
  • 面白かった
  • サラがちょっと目立ってない
  • エレナの掘り下げが上手かった
  • ここでレイナを持ってくるか
  • まさかカツラギを引っ張って来るとは
  • 人型兵器を引っ張り出してくるの凄い
  • 言われたらアキラって結構人助けしてるな
  • 奇跡じゃくて軌跡なのか
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