中立から内側へ 健全版   作:シオリスキー

95 / 138
十八章 決戦
集結


『アルファ!?』

 

 突然の声にアキラが声を上げる事もなく応対出来たのは、日頃の慣れの賜物だろう。

 

 それでも完全に驚きを隠せた訳でなく、僅かな雰囲気の違いを感じてシオリが眉を顰めるが、敵に大幅な増援が現れたのだ。

 

 雰囲気が変わってもおかしくないし、何かあればアキラの方から言ってくるだろうと判断すると、無言で車の運転に集中する。

 

『サラ達がアキラ達の分の補給物資を持ってるわ。まずは二人と合流しなさい』

 

「シオリ! サラ達との合流を最優先に動いてくれ!」

 

「解かりました」

 

 アキラの戸惑いなど気にした様子も見せず。

 

 当たり前のように指示を飛ばすアルファの声に即座に従って、シオリに指示を飛ばす。

 

 こういう時は疑問を挟む時間も惜しい程の緊急の状況である事がほとんどだ。

 

 立ち止まっている暇なんてない。

 

『アルファ、どうしてここに?』

 

 それでも何も訊かずに戦い続ける事は出来ず。

 

 残り少ない弾丸でモンスターに銃撃を浴びせながら、アルファに問い掛ける。

 

『あら、私は遺跡から生きて戻って来たら依頼を再開するなんて言われなかったわよ?』

 

『え、だって――』

 

『奇跡が立て続けに起きて生き残れたら私の依頼を再開するって約束だったでしょ? これだけの戦力が頼んでもないのに救援にやってきてくれた。そのお陰で私の高度な演算予測すら覆してアキラもシオリもまだ生きている。これを奇跡のお陰で生き残ったって言わずに何と言うの?』

 

 それとも自分ならこれくらいの助けは来て当たり前とでも言いたいのかしら、なんて揶揄い混じりに告げるアルファの声無き声にアキラも笑って返す。

 

『ああ、そうだな。確かに奇跡としか言い様がない』

 

 それ以外の言葉で表現しようとする事自体が無粋だと思う程に。

 

『という訳で約束通り、厳しくいくわよ』

 

『約束? 厳しく?』

 

『忘れたの? 寄り道する分、今まで以上に厳しくさせてもらうって話だったでしょう?』

 

『あー……』

 

 言われてみて、そういえばアルファと別れる直前にそんな話をしたような気がすると考えたのも束の間――

 

『それじゃあサラ達に何も言わず無茶したのに助けに来てくれた事に御礼を伝えて、今からでも協力してもらえるように改めて願い出なさい』

 

「え!?」

 

 あまりに予想外の言葉が飛び出して、アキラは素の声を上げてしまう。

 

『その後はカツヤにも協力を求めて。そっちとも、もうすぐ合流出来るわ』

 

 先程、シオリが咄嗟に通信を切ってしまったからだろう。

 

 通信をしている余裕もない程の状況だと誤解したカツヤが、自分の部隊を置き去りにする程の勢いでこちらまで向かってきている。

 

『えーと……』

 

 別にアルファは何が何でもアキラ一人で戦わせるという訳ではない。

 

 カツラギと出会った時だってアキラ一人では手に余るモンスターの群れだったからこそ、カツラギと合流し戦うように指示していた。

 

『まさかこの状況で、今までと同じ程度の無茶させるだけで済むとでも思ってたのかしら? はっきり言って今のアキラの腕と装備でここから帰還するのは難しいわ。交渉が苦手だとか気に食わない相手が居るだとか、そういう文句は受け付けないわよ』

 

『いや、けど……』

 

 それでも今回はカツラギの時とは訳が違う。

 

 あの時は元々カツラギが連れてきたモンスターだった上に、お互いが生き残る為に協力し合わなければならなかっただけ。

 

 自分を助けてもらう為に巻き込んだ訳ではない。

 

『別に無理なら無理で構わないわよ。戦いの前に忠告したから解ってると思うけど、アキラ一人だけ助かりたいっていうならシオリを置いて撤退すればいいだけだもの』

 

 だが、そこを変えられないというのなら今度こそシオリは見捨てろとアルファは告げる。

 

 周りに助けを求める事は出来ない。

 

 それでもシオリは助けたい。

 

 そんな好き勝手な我儘を通す力は、まだお前にはないのだと。

 

『それとも折角奇跡的にここまで生き残れたのに、シオリと仲良く死んで私への依頼料を踏み倒したいのかしら?』

 

『いいや、それはごめんだ』

 

 ただでさえ今回の件ではアルファを裏切るような事をしてしまったのに、助けに来てくれたのだ。

 

 この上で更に踏み躙るような真似なんてアキラには出来ない。

 

『それなら覚悟を決めなさい。意志と覚悟はアナタの担当なんでしょう?』

 

『ああ、解ったよ!』

 

 それなら取れる道なんて一つ。

 

 自分を助けに来てくれた人達をこれ以上危険に晒したくないなんて考えは捨て、自分の意志でサラ達を死地へと誘い――

 

 もし何かあれば、それは全て自分の責任だと背負う覚悟を持つしかないのだ。

 

「アキラ!」

 

 覚悟を決めた途端、まるで見計らっていたかのようなタイミングでサラ達と合流してしまう。

 

「その――」

 

「話は後! 大体の事情は知ってるわ!」

 

 アキラが何かを言うよりも早くサラは弾丸や回復薬といった補給物資をアキラに押し付けるようにして渡しながら、車に乗り込み。

 

「どこかからの依頼でモンスターの群れ倒しに来てるんじゃなくてシオリさんを助けるだけが目的なんでしょ? だったらモンスターの群れは他の奴等に任せて逃げるわよ!」

 

 同時に乗り込んだエレナは即座に情報収集機器を駆使して、最も安全な逃走経路を探し始めていく。

 

 シオリこそがモンスターの標的と知らない以上、二人の判断は至極現実的なもの。

 

「それじゃあ無理なんです。アイツ等の目的はシオリで、シオリを殺すまではどこまでだって追ってきます」

 

 けれど、それは出来ない事をアキラは知っているが、二人にアルファの事を説明する訳にもいかなくて。

 

 ――アルファからはシオリには話してもいいと言われたが、それ以外の人間に対しては何も言われていなかった。

 

「それで、その、あの一番大きい奴が司令塔で、アイツさえ倒せればモンスター達も撤退する筈で……」

 

 どうしてそんな事を知っているのかと聞かれるだろう。

 

 信じてもらえたとして、それじゃあシオリを見捨てて逃げるべきだと諭されるかもしれない。

 

 それでも上手く誤魔化して二人に戦ってもらうなんて器用な交渉術なんてアキラにある訳もなければ、そもそもそんな不義理な事なんて出来る筈もなく。

 

「えーと、ここに来る準備とかでお金とかも全部使い切っちゃってて報酬とかも大分後払いになりそうなんですけど、一緒にアイツを倒すの手伝ってもらえませんか?」

 

 口にしている自分でも酷過ぎると思いながら、そんな提案を口にするしかなかった。

 

「……」

 

 サラもエレナも驚いたとばかりに目を瞬かせただけで何も言えず。

 

 シオリはおかしそうに、僅かに口元を歪める。

 

「あのねえ、アキラ」

 

「それ断るくらいなら最初から、こんな所まで来る訳ないでしょうが」

 

 僅かに間を開けて二人の口から呆れたように飛び出したのは、当たり前のようにアキラに協力するという意志を示す言葉。

 

 むしろ心外だと言わんばかりの態度だ。

 

「それで手伝えって言う以上は倒す算段あるのよね?」

 

「ないって言うなら、アレ倒すよりはボロボロなアキラを二人で殴り倒して連れ帰る方が生きて戻れる確率高そうかしら?」

 

 それでもアキラが頼ってくれたのが嬉しいのだろう。

 

 これから生きるか死ぬかの戦いを始めようというのに二人の顔には心底、嬉しそうな笑みが浮かんでいるし――

 

「その時は私もお手伝い致します」

 

 シオリだってどこか普段よりも柔らかな雰囲気で、本気なのか冗談なのか解らない言葉を口にする。

 

「……」

 

 あまりに戦場に似合わない穏やか過ぎる雰囲気。

 

 その上、アルファの事を知らない筈のサラ達二人が自分の言葉を全く疑わず信じてくれる事への戸惑いで、一瞬、自分がモンスター達に囲まれている事さえアキラが忘れそうになる。

 

「シオリさん! 無事か!?」

 

 その瞬間、カツヤがやってきた。

 

 今の窮地に相応しい切羽詰まった声に、アキラは緩みそうになった気を引き締める。

 

「はい、無事です。心配をお掛けして申し訳ありません」

 

 アキラの気配が僅かに固くなったのをシオリは感じ取ると、それがアキラとカツヤが揉める前兆なのではないかと思い、素早く自身の無事を伝えて二人に会話をさせないと試みようとするが――

 

 それは無駄に終わる。

 

「無事ならよかった。それでアキラ、アイツ等を蹴散らすには、どうすればいい? お前の事だから何か手があるんだろ?」

 

 何故なら、シオリが知っていた頃から二人の関係は大きく変わっている。

 

 何もなければ無駄に揉めたくないから避けておこうとは思うが――

 

 同時に。

 

 何かあれば協力するのも仕方ない、と考えられる程度には力を認める事だって出来る程に。

 

「ああ、手自体はあるがサラさん達に協力してもらってもキツくてな。だから手伝ってくれ」

 

 サラ達には協力してほしいと頼むのは申し訳なく感じたのに。

 

 すんなりと助力を頼む言葉が出てきた事にアキラ自身驚きながら「まあコイツならどうなってもいいしな」なんて自己完結する事で戸惑いを無視し。

 

「解った。それで今までの非礼はチャラって事にしてくれ」

 

 カツヤも命懸けの戦いに巻き込もうとしているには、あまりに軽い言葉に怒りの一つも湧いてこなかった自分の気持ちを隠して。

 

 努めて冷静にそれだけ返す。

 

「それで私達は何をすればいいのかしら?」

 

 そこで話に割り込むような形でエレナが口を挟んだ。

 

 これは自分達が無視をされていると思って自己主張したた訳ではなく――

 

 これ以上アキラとカツヤの二人だけで話をさせると揉め始める可能性がありそうだし。

 

(揉めなかったら揉めなかったで、いつの間にそんなに二人とも仲良くなったのなんてサラが言い出して喧嘩とかになるかもしれないしね)

 

 二人が仲良く話している姿を相棒が無邪気に喜んで、台無しにしてしまう可能性を考慮しての事だ。

 

 アキラを助けようと決める切欠になったカツヤとの会話で、今のカツヤはそれ程アキラに敵意を抱いていない事こそ知っていたが、それでも前までの態度を考えれば予想外であり。

 

 エレナとしても二人に何があったのかは気になるところではあるのだが、それを確かめるのは今ではない。

 

 索敵担当であり交渉担当でもあるエレナは、さり気なく。

 

 それでも極めて巧妙に、起こり得たかもしれないトラブルの種を事前に摘み取った。

 

「えっとですね――」

 

 エレナに促されるままアキラの口から作戦が語られ、誰一人として異議を唱えなかった瞬間。

 

 それぞれが最善に向け動き出す。

 

 全員で生きて帰る為に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。