中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
「こっちだ、デカブツ!」
カツヤは部隊を指揮し、増援でやってきた巨大モンスター達の中でも一番大きいモンスターに攻撃を仕掛けていた。
複数に分けた部隊で前後左右から銃撃を浴びせ続けていくものの、あまりに相手が巨大過ぎる上に、反撃を警戒し遠い間合いから撃ち込んでいるのもあって大した損害は与えられていない。
こんな消極的な戦い方ではモンスターを倒すどころか、真面な損傷を与える前にカツヤ達の弾薬が尽きてしまうだけだろう。
(新しく来た奴等は毒を持ってるからなるべく近付かないようにしつつ引き付けろとか、アイツも無茶言ってくれるぜ……)
だが、そもそもカツヤの目的はモンスターを倒す事ではない。
アキラが何とかするまで、この戦線を崩壊させない事こそがカツヤの役目であり――
その役割自体は、完璧に果たしていると言えるだろう。
(だが、確かにコイツが司令塔でコイツさえ倒せれば何とかなるってのは間違いないみたいだな)
正面の部隊にモンスターの注意が向き始めるや否や、即座に下がらせながら側面や背後から攻撃を仕掛け、的を絞らせない。
言葉にすれば簡単に聞こえるが、実際にそれを正確に行うのは不可能に近い。
だが、まるで部隊全員が視界を共有し、一つの意志で動いているとしか思えない程の完璧な連携を見せ、モンスターを翻弄し続けており。
さすがにそこまで執拗に纏わり付かれては、司令塔であるモンスターも周囲の仲間達に指示を飛ばしている余裕もないのだろう。
目に見えて周囲のモンスターの動きは悪くなり始め、その隙を突いて白兎や黒狼が態勢を立て直す事で戦況は再び膠着状態にまで回復しつつある。
(……これが総合支援システムの力ってヤツなのかしら?)
何かあればカツヤの補助をしようと傍に控えていたエレナは、あまりのカツヤの部隊の統率力に驚きを隠せなかった。
というのも、巨大モンスター相手に攻撃自体は真面に通じていない。
あくまで連携で気を逸らしたり、あるいは逆に注意を引くだけで、人型兵器すら抑え込んでいた相手を手玉に取っているのである。
(凄い、というよりも――)
やはり異様であった。
優れた運用を見せる部隊をよく一つの生き物のように動いているなんて表現するが、それでもカツヤの部隊の連携は行き過ぎている。
本当に部隊全員がカツヤの意志で動いているとしか思えない程に。
いくら高価な支援システムを使っているからといって、ここまで部隊の意志を統一出来るものだろうかと、そちらに思考を持っていかれそうになるが――
(余計な事考えている場合じゃないわね)
さすがに、いくらカツヤの部隊が神懸かった連携でモンスターを釘付けにしても、結局は小蠅が飛び回っているようなもの。
痛手の一つも与えてない部隊の相手を、いつまでも続けてくれる訳がない。
鬱陶しく纏わり付いてくるだけで大した脅威でもない、とばかりにカツヤ達を無視するような動きを見せ人型兵器へと向かおうとする。
『サラ、今よ!』
そうして警戒が薄れてくれる瞬間を、待っていた。
大きな人型兵器達と違い、小さな人間では自分に痛手を負わせる事は出来ないと判断して隙を見せる好機を。
『了解! 準備は出来てるわ!』
そこにカツヤ達とは別行動で動いていたサラの狙撃が入る。
完全に不意を突いた一撃。
それもカツラギの所で補充したばかりの一番高い弾薬を用いた攻撃に、さすがの巨大モンスターも無傷では居られないが――
それでも僅かに、よろめいて一瞬動きを止めた程度。
痛手というには程遠い。
「皆、合図よ!」
「意気込むのはいいっすが、あんまりお嬢は前に出過ぎちゃ駄目っすよ」
そこに、サラとは別の方向から奇襲が仕掛けられる。
不意討ちを受け、注意の逸らされた巨大モンスターに防ぐ事など出来る訳もなく、半ば無防備に攻撃が着弾していく。
(こういうのはエレナの役目だと思うんだけどね……)
サラがカツヤ達と別行動で動いていたのは、不意討ちを仕掛ける為だけではない。
司令塔さえ倒し切る事が出来れば終わりというならば――
この戦場に居る残存戦力全てを集めてでも倒し切ろうと、話を聞いて協力してくれそうなレイナ達の元へと向かっていたのだ。
交渉だけならエレナの方が適任だったのかもしれないが、一斉攻撃の合図となる強力な一撃を撃てるのは火力担当であるサラしか居ない。
そして――
「喰らえ、デカブツ!」
レイナ達の奇襲を受け僅かによろめいた隙を突いて、今まで大人しく囮に徹していたカツヤの部隊が、これまでのストレスを全てぶつけるように攻勢に出た。
さしもの巨大モンスターも、この波状攻撃には素知らぬ顔で耐える事も出来ず、轟音を立てて倒れ込む。
(さあ、俺達はちゃんと役目は果たしたぞ。見せてくれよ、アキラ。お前の力ってヤツを!)
よろめいた所に波状攻撃を掛け、倒れさせる事は出来た。
だが、それは単純に引っ繰り返っただけの話であり致命傷を受けて倒れた訳ではない。
数秒もしない内に立ち上がり、次は警戒されて引っ繰り返す事さえ出来なくなるだろう。
その隙を人型兵器達が見逃す訳もなく、この巨大モンスターを倒せば何よりも商品の宣伝になるとばかりに、司令塔を討ち取ろうと白兎と黒狼が群がるが――
それを防ごうと残ったモンスター達全てが集まったように壁になり、人型兵器達の攻撃を食い止めてしまう。
このままでは千載一遇の好機が無駄になる。
「アキラ様、これでよろしいのですか?」
「ああ。これでいけるらしい。巻き込まれないように結構下がっててくれ」
その最初で最後の好機を掴み取るのが、アキラの仕事だ。
アルファの指示に従いながらシオリと共に改造した、車だった代物を持ち上げる。
その物体を示すなら刀という単語こそ一番相応しい。
見た目こそほとんど車のままではあるものの、車と強化服の予備のエネルギーパック。
そして、シオリの刀を無理やり繋いで作られたその物体の役目は、建物すら軽々と粉々に出来る程の膨大なエネルギーを、全て斬撃エネルギーに変えて数瞬で使い尽くす事。
『外せば全部台無し、チャンスは一度だけよ。覚悟はいい?』
大きな力を出せる代わりに持続時間は極端に短い。
おまけに改造まで施した無茶苦茶な運用。
すぐにでも壊れ使い物にならなくなるだろう。
アルファの言葉通り、機会は一度きり。
『ああ! 意志と覚悟は俺の担当だからな!』
だが、アキラは迷う事無く刀を構えて呼吸を整える。
外せば終わり程度の窮地なんて、いくらでも乗り越えてきた。
今更その程度の重圧なんかに戸惑ったりしない。
それが斬撃だと気付けたのは、アキラとシオリくらいであった。
アキラ達の改造とアルファの操作によって限界を超え引き出された光刃は、強く大きく。
けれど、ほんの一瞬輝いただけ。
見る者の目を眩ませ、センサーさえも狂わせる程の光が駆け抜けて。
再び視界を取り戻した時――
倒れていた司令塔の巨大モンスターも、それを守るように壁になっていたモンスター達も全員姿を消していた。
ただ何か大きな物を引きずったかのような抉れた地面だけを残して。
「はは、何が一番でかいヤツだけ倒せば終わりだよ……」
多くの人間が何が起きたのかも解からず戸惑う中で、カツヤは呆れたように笑う。
この光景の意味を理解して。
「一番でかいヤツどころか、一匹だって残っちゃいないじゃないか……」
司令塔を庇っていたモンスターの群れ諸共、アキラが光刃で全て消し飛ばしてしまったのだ。
しかも、白兎や黒狼といった味方だけは助かる絶妙なタイミングで。
(仲間に回復薬を渡さないとな)
そこでカツヤは全て終わったと緩みそうになる気を引き締め、次の行動に移り始めた。
いくら神懸かった連携をしていたとはいえ、完全に無傷でモンスターを引き付けられていた訳ではない。
負傷者は何人か出ているし、その中に妙な症状を起こしている者達も居る。
アキラから預かった回復薬がなければ、死人が何人も出てしまっていただろう。
(俺なんてとにかくシオリさんを助けに行こうとしか考えてなかったのに、専用の回復薬まで用意してるなんてな。本当、大した奴だよ……)
本人には絶対伝えてなんてやる気はないが。
心の中だけで称賛の言葉をアキラに送り、足早に仲間達の元へと向かうのであった。