中立から内側へ 健全版 作:シオリスキー
たとえボロボロで今にも倒れそうであっても。
それでもモンスターの群れを一瞬で蹴散らしてしまったアキラを止めようなんて度胸のある者は、徒党の子ども達の中にも、ハンターの中にさえ居なかった。
仮に今止める事が出来たとしても回復した後で、あの時はよくも邪魔したなと恨みを買うかもしれないからだ。
――それがアキラの命を守る為の善意であったとしても、そう思わずには居られない悲壮と決意がアキラから滲んでいた。
(こんなボロボロで腕なんて両方なくて……)
そんな中、迷う事なくアキラの元に駆け寄り抱き留めたのはシェリルであった。
最後のアキラの攻撃を成功させるには決してモンスターに邪魔される訳にはいかず、大した戦力ではないシェリルの護衛や補給部隊ですら少しでも戦力の足しにしようと駆り出されており――
護衛もなしに荒野のど真ん中に放置されるよりは、護衛達と共に戦場に上がってきた方がマシだろうとシェリルも近くに居たのである。
(私が知らないだけで、多分いつもこんな感じだったのよね……)
シベア達と襲った時も、自分がハンター達に攫われ助けてくれた時も。
二大徒党の戦いで人型兵器と戦って帰ってきた時でさえ、アキラが目立った怪我をしているところをシェリルは見た事がなかった。
おまけにアキラが無頓着に支援してくれるものだから、何度も死に掛けているなんて話で聞いていても、死ねば二度と会えなくなるとまでは解っても。
どれだけ身を削って稼いだお金を渡してきてくれたのか、今になって初めて実感して。
(本当、笑わせる。何が対等よ……)
ユミナの言うとおり、こんなの夢中になって当然だ。
これだけの事を何でもないような顔をして続けてくれて、恩の一つも着せようとしてこない人に狂わない方がどうかしてる。
(今度は私がアキラを助ける番……)
アキラの力に守られ、アキラの下で動くんじゃない。
アキラに頼られ、何かを任される存在になる。
これはその第一歩だとシェリルは決意を固めた。
「聞いてましたね、カツラギさん。私の名前を使って頂いて構いません。すぐに薬の手配を。事情を話して、人型兵器を街まで飛ばして下さい」
アキラかシェリル。
そのどちらかか、あるいは両方と今後の話し合いの機会でも設けられたらとでも思っていたのだろう。
すぐ傍に居たカツラギに、責任は全部私が取るからやれと声を掛け。
「ええ。解かりました。早急に手配させて頂きます」
カツラギも一瞬で意図を察し、シェリルが責任を取れるかは置いといて。
後でアキラにカツラギは協力しなかったなんて報告された方が遥かにヤバイと一瞬で判断し、余所向けの行儀の良い顔を見せて躊躇いなく動き始める。
「アナタ達は遺跡に潜って回復薬を探してきなさい。余計な遺物を持ち帰ろうとした者は処分対象よ」
「ま、待ってくれ。俺達だけで遺跡なんか無茶だ……」
そのまま返す刀で部下である子ども達に指示を飛ばすが、解かりましたと即座に動いてくれる訳もない。
当たり前だ。
子ども達だって体力的にも精神的にも限界であったし。
「それにボスだってその女が居ない方が都合が――」
アキラがシオリに強い想いを抱いているのは、先程のやり取りだけでも伝わった。
自分達のボスであるシェリルの恋敵を命懸けで助ける意味が解らない。
それは単に遺跡に行きたくないという為の言い訳からくるものであったが、間違いなくその子どもの本心からの言葉でもあって――
「それなら仕方ないわね」
シェリルは気に留めた様子も見せず。
まるで挨拶でもするような自然な動きで懐から護身用の小型銃を抜いたかと思うと、そのまま無造作に引き金を引く。
銃声が響いた。
「警告は一度よ。アキラの為に働くか、その装備はあげるから今すぐ私の敵になるか選びなさい」
銃弾が胸に着弾するが、ドランカムから貸し出されていた装備を付けていた子どもには掠り傷どころか痛みさえない。
けれど表情一つ変えずに部下を撃ったシェリルの姿には、言いしれない恐怖を呼び起こすものがあって。
「アキラさんとボスを敵に回す覚悟がある奴だけ好きにしろ! そうじゃない奴は今すぐ付いてこい!」
徒党の子ども達だけでなく、見ていただけの周囲のハンター達でさえ凍り付いたように動けない中。
誰よりも早く声を上げ、部下達を先導しようと声を上げたのはエリオだ。
その言葉に我に返ったように他の子ども達も慌てて動き始める。
遺跡に潜るか、アキラを敵に回すか。
どちらがマシかなんて考えるまでもなく、シェリルに意見した子どもですら置いて行かないでくれと言わんばかりにエリオへと続く。
「お騒がせして申し訳ありません。他の方々は御自身の依頼を果たして頂ければ大丈夫です」
穏やかに告げられたシェリルの言葉に、逆にハンター達は慌てた様子で周囲への警戒を強くする。
こっちを見ている暇があるなら、お前等はお前等の仕事をしっかりやれ。
そんな言葉の裏が解らない程に鈍いハンターは、ここには居なかったからだ。
(これがユミナの言ってた、アキラの好きな女ね……)
指示を出し終えたシェリルは、初めてシオリの姿を注視する。
メイドだ。
見た目もそうだったし、アキラに託した伝言から推測するに恰好だけのメイドではなく、根から従者気質の女なのだろうと思う。
(言葉足らずな伝え方してんじゃないわよ……)
アキラはシオリの言葉をレイナが何よりも大事だから遺した言葉だと判断したが、実際は全く違う意味である事に、シェリルはその頭脳と乙女心をもって気付いていた。
あの言葉は、自分が死んでレイナの世話が出来なくなる事に謝っていたのではない。
自分の命はレイナの為だけに使わなければならないのに、アキラの為に使ってしまってごめんなさい。
それこそが本当の意味であり。
レイナの従者という立場を忘れてしまう程に、アキラの事を好きになってしまったというアキラに向けた遺言でもあったのだ。
(生きてアキラに説明してもらうわよ。意地でも死なせてなんてやらないわ)
だからこそ、シェリルには何が何でもシオリには生き抜いて、その誤解を解いて貰わねば困るのだ。
このままシオリが死ねば、その言葉は誤解されたままアキラの心に棘となって残り、これからの恋愛観に歪んだ影響を与える。
そうなれば、肝心なところでアキラは自分に心を開いてくれない。
(そんなの誰が認めるもんですか)
アキラには自分を夢中にさせたのと同じように。
自分にも夢中になってもらうと決めている。
その為に必要というなら恋敵だろうが生かすのだ。
そうやって自分の行動の一つ一つに己の利益を探し、正当化していく。
ただ己の無力を感じて絶望しているアキラを放ってなんておけなかったなんて、咄嗟に身体が動いた最初の理由に気付く事も出来ずに。
それが損得勘定の
『……』
シェリルは的確に指示を飛ばした。
通信中の事件だった為に音声だけで事態を大体推測したカツヤが、即座に動ける者達を連れ遺跡に先行していた。
間違いなくシオリを助けようと全力を尽くしただろう。
その成果はあり黒狼が空を駆り驚くほどの速さで回復薬を調達し、徒党の子ども達もカツヤの部隊と協力する事で遺跡から回復薬を見付け持ち帰る事が出来たのだが――
それがシオリに使われる事はなく。
『…………』
その光景をアルファは不満気に顔を歪めて眺めていた。
怒りには届かない、けれど当てが外れたとばかりの態度で佇んでいた。
この中で十八章に何か言いたい事があれば
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解像度が高い
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シオリがどうなったか気になる
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シェリルが活躍してて嬉しい
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作者は鬼か悪魔だと思った
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最後の一瞬まで楽しませてくれるじゃないか