艦これ 黄色の撃墜王    作:蒼海 輪斗

1 / 5
〜着任編〜

1945年8月1日、鹿児島県屋久島近海。この地で第三四三海軍航空隊、剣部隊隊長”菅野直”が行方不明になり、後に戦死認定を受けた。しかし102機撃墜の”イエローファイター”と言われた彼の最期をみたものは誰もいない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「!?」

 

 彼が目覚めたときは、愛機の紫電改に搭乗したまま海上上空を飛行していた。機銃一丁使用不能と機体が軽く被弾していること以外、自身には傷ひとつついていない。先程戦闘中に頭に一発もらった気がしたのだが…。

 

 とにかく何が起きたのか全く検討がつかなかった。米軍機が接近し、すれ違いざまに機銃を発射したのを最後に記憶が途切れている。

 

 「ここは、一体…!?生きていたのか!?じゃあ敵機はどこにいった!?」

 

 ようやく言葉が出た。慌てて燃料の残量と機銃弾の残弾を確認する。

 

 鹿児島県の屋久島近海なのは間違いないが、米軍機はおろか味方機の姿も全く見えない。しばらく菅野は屋久島近海を飛行していた。先程まで激しい空中戦が行われていたとは思えない静けさだ。

 

 「撤退したのか…?いや、他のやつが撃墜した可能性もある…。」

 

 菅野は色々考えたが、燃料に余裕がなくなってきたのでとりあえず基地に戻ることにした。松山基地まで戻れば自身に何があったのか仲間から聞くことができる。

 一応、敵機がいないことを確認するために大振りに旋回をして周囲を確認する。案の定、鳥すらも見えない。

 

 「松山まで距離はあるが、着くまでは十分持つはずだ。いざとなったら呉にも不時着できる…。」

 

 色々考えながら菅野は紫電改を飛行させる。その時、はるか遠方に複数の米粒のような点が見えた。

 

 「まさか…!」

 

 菅野は紫電改のスロットルレバーを最大限に上げた。紫電改がエンジン音を轟かせながら高速で複数の点に向かう。菅野は米軍の爆撃機だと予想した。ならば爆撃前に撃墜しなければならない。

 

 「アメ公め…!俺の意識が飛んでる間にあんなところまで…。ぜってぇに逃さねぇからなぁ!!」

 

 

 紫電改は雲を切り裂き速度を上げる。燃料が急激に減少していくが菅野は気にしない。目の前のことが最優先だ。

 

 「急がねぇと爆撃が始まっちまう!」

 

 ようやく雲を抜けた先には、驚くべき光景が広がっていた。

 

 

 空を飛んでいたのは米軍の爆撃機でもなく戦闘機でもなく、異形な例えようのない物体だった。白い球体状であり、口と目と思わしきものがついている。飛行に必要なプロペラなどは確認できない。さらに赤いオーラをまとっており、まさに怪物のようだった。それにかなりの数が飛行している。

 

 「なんだあれ…。」

 

 それによく見ると、一機の零戦がその異様な球体と空戦をしているではないか。しかし、その零戦も球体もかなり小さかった。とても人間が乗れるほどの大きさではない。

 

 小さな零戦は単機ではあるが、果敢におぞましい球体に攻撃を行っている。まるで菅野が先程までしていた戦闘のように…。

 

 菅野は異形の姿に少し恐怖を感じた。しかし、次の瞬間にその異形の球体が爆弾と思わしきものを投下した。投下されたものは地上で激しく炎をあげる。

 

 爆弾だ。

 

 その光景を目にした瞬間、菅野の恐怖は跡形もなく吹っ飛んだ。

 

 「まるで白いたこ焼きだなぁ!!!!」

 

 菅野は叫び、操縦桿を強く引く。顔に血管が浮き出し、血走った目を見開き、怒りをあらわにした菅野が異形の球体に向けて突撃する。そしてそのまま機銃の射程に入り次第20mm機銃を射撃した。

 

 正確に放たれた銃弾は異形の球体に命中し、瞬く間に三体が粉々に砕け散った。

 

 しかし菅野の怒りは収まらず、次の球体へとまた射撃を行う。菅野が機銃を射撃するたびに球体は次々と砕け散り、火を吹いて墜ちていく。球体たちはようやく菅野の存在に気がつき、猫のような突起がついている球体たちが口内から機銃を出現させる。

 

 

 そして猫耳球体たちは紫電改に向けて射撃を開始した。かなりの数が射撃している。だが、菅野には全ての射線が見えている。猫耳球体が放った機銃弾を菅野が操る紫電改がひらりひらりとかわす。そして逆に球体の後方につき、20mm機銃で反撃する。球体たちはついに菅野を撃墜することはおろか、命中弾すら与えられずに猫耳球体と全ての球体が撃墜された。

 

 しかし、紫電改も限界を迎えた。燃料が底をついたのだ。プロペラの回転がだんだんと弱まっていく。まだ少しの間ならなんとか飛べるだろうが、このままでは墜落も時間の問題だ。

 

 「しまった!たこ焼きを落とすのに夢中で燃料のことを忘れちまった!まずいな…。ここ周辺に飛行場はないはずだ。平らな場所もねぇから不時着もできねぇ…」

 

 菅野が頭を抱えた。すると先程の小さな零戦が紫電改の隣に近づいてきた。菅野が零戦の風防を覗き込むと、とても小さな生き物がしきりに手信号を送っている。

 

 『我ニ続ケ。』との意味だ。菅野は従おうか迷ったが、燃料に余裕がない今は補給が最優先だと考えたつき、零戦についていくことにした。

 

 「頼んだぞ紫電改。燃料が尽きる前に…。」

 

 菅野は飛行場に着くまでエンジンが持つことを祈りながら零戦について飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 

屋久島鎮守府

 

 「少し遅いですね。大丈夫でしょうか…。」

 

 「あ、あの…、なにかあったのでしょうか…?」

 

 屋久島に新設された鎮守府、”屋久島鎮守府”の正門に二人の少女が立っている。一人は黒髪で眼鏡をかけた少女であり、もう一人は茶色の髪をアップヘアーにして束ねている幼い少女である。二人ともセーラー服を着用している。

 

 「新しい鎮守府なので迷っているのでしょうか…。海軍省の方ももう少ししっかり説明してくれればよかったのですけど…」

 

 「少し不安になってきたのです…」

 

 するとその時、轟音を轟かせながら上空を紫電改が通り過ぎた。

 

 「はわわ!びっくりしたのです!」

 

 「紫電改!?もしかして…!」

 

 何かを感じた黒髪の少女は、もう一人も少女を連れて近くにある飛行場へと向かった。

 

 

 

 

                     

 

 

 

 

 

 

 

 「よかった!なんとか飛行場についた!これで燃料と弾薬が補給できるぞ!」

 

 なんとか飛行場にたどり着いた菅野は、操縦席で歓喜の声をあげていた。紫電改が停止し菅野は操縦席から降りる。飛行場は人気がなかったものの、いくつかの燃料タンクや弾薬庫が設置されていた。

 

 「誰もいねぇみたいだが、状況が状況だし文句いうやつはいないだろう。」

 

 そこへ先程の零戦に搭乗していた小さな小人が菅野に近づく。

 

 「おっ、ここまで誘導してくれてありがとな。おかげで助かったぜ。お前が何者だが分からねぇけど敵ではないだろうし感謝する。」

 

 菅野は自分のことを救ってくれた小人に敬礼をし、感謝の意を示す。対する小人のほうも敬礼を返した。

 

 そこへ、「あの、すみません。」と後ろから声をかけられた。どきりとして菅野は後ろを振り向く。

 

 そこには長い黒髪で眼鏡をかけた少女と、茶髪の髪を後ろでまとめている幼い少女が立っていいた。

 

 「ん?なんだ。俺に用か?」

 

 菅野はそう答えつつ、二人の少女の姿をよく観察する。黒髪の眼鏡をかけた少女はセーラー服をきっちりと着こなしており、真面目な雰囲気が漂っていた。

 一方もう一人も少女のほうは、同じくセーラー服を着用しており先程からなんだかおどおどとしている。黒髪の少女の方より柔らかい雰囲気が漂っており、だいぶ幼く見える。

 

 「提督、ですよね?」

 

 「は?」

 

 黒髪の少女の突然の問いかけに菅野は呆気にとられた。この少女はなにを言ってるのか菅野には理解ができなかった。

 

 「悪いが何を言ってるのか分からねぇ。俺は見ての通り飛行兵だ。確かに海軍所属だが提督ではない。」

 

 「ええ…。でもこちらの書類にはそう書かれているのですが…。」

 

 そう言いながら少女は菅野に書類を手渡す。菅野は書類を受け取り目を通す。そこには確かに自分の写真が載っており、年齢も階級もその通りに記述されている。名前が書かれていない以外は全て菅野に該当した。

 

 「本当だ…。急に転属か。海軍のおえらいさんは何を考えてるんだよ。そうだ。今日は何日だ?」

 

 菅野はとっさに日にちを聞く。長期間の戦闘により時間感覚がズレているのでなんとなく聞いたのだ。

 

 しかし、その答えに菅野は顔を真っ青に変えることになる。

 

 「ええと、確か今日は2023年の8月1日ですね。」

 

 黒髪の少女がそう答えた。その時、菅野の脳には今までの不可思議な現象、白いたこ焼き、零戦に乗る小人、2023年、2023年と様々な情報が流れ込んでいく。

 

 そしてとうとう膨大な情報処理に脳が耐えきれずに意識が途絶、そのまま菅野はぶっ倒れた。

 

 「て、提督!?だっ、大丈夫ですか!!?」

 

 「はにぁ〜!!大変なのです!!」

 

 二人の少女は大慌てで菅野を担架で鎮守府へ担ぎ込み、医務室のベットへと運び込んだ。もちろん紫電改のことはすっかりと忘れられていた…。

 

紫電改 「解せね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして菅野は目を覚ました。目を開けると先程の黒髪の少女が心配そうにこちらを覗いていた。

 

 「ここは…」

 

 「目が覚めましたか…。ここは鎮守府の医務室です。提督が突然倒れたので驚きましたよ。お疲れだったのですね。」

 

 どうやら菅野は情報の処理に脳が耐えきれなかったと察知した。なのでもう一度菅野は少女へと質問する。

 

 「悪い。同じことを何度も聞くようだけどな、今日は何日何年だ?」

 

 「本当にお疲れみたいですね。今日は2023年の8月1日です。」

 

 やっぱり聞き間違えではないようだ。間違いなくここは2023年の日本だ。菅野がみたことないようなものが溢れ出ているし、医務室にかかっているカレンダーも2023年を示している。

 

 信じがたいが、今自分は未来へと来てしまったようだ。どう考えてもその考えが妥当するし、一番信ぴょう性が高い。

 そして菅野は少女に向かって声をかける。

 

 「助けてくれて感謝する。そう言えば名前を聞いてなかったな。」

 

 「そう言えばそうでしたね。私は軽巡洋艦大淀です。先程の娘は駆逐艦電といいます。」

 

 菅野は思わずベットから転げ落ちそうになる。…今この少女は軽巡と言った?いや、それよりも今は…

 

 「とっ、とりあえず水と資料室はあるか?」

 

 菅野はずっと喉が渇いていて死にそうだし、自分が未来に来たその間に何が起きたのか知りたかったからだ。

 

 「あぁ、はい…。こっちです。」

 

 大淀、と言う少女は苦笑を浮かべながら菅野を案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 菅野は水をがぶ飲みした後、資料室にて本を読んだ。あの後自分は戦死認定にされており二階級特進が言い渡され最終階級は中佐となっていた。

 

 その後に二発の原子爆弾が投下され、日本は太平洋戦争に敗北。数十年にも及ぶ占領政策を経て独立。高度経済成長を迎え経済は発展。その後冷戦に突入、後にベルリンの壁が崩壊しソ連が崩壊。

 

 同時多発テロや湾岸戦争、アフガニスタン戦争などが起こっていた。

 

 「本当にアメ公は戦争が好きだなぁ〜。」

 

 そして2013年頃から各国の海軍から謎の艦隊の報告が多発する。年度の後半には人類に対して通商破壊戦を展開、海上輸送路シーレーンが遮断され各国は物資不足に陥る。

 国際連合の会議により、この艦隊を”深海棲艦”と呼称され各国は戦争、紛争を一時休戦し連合艦隊を編成。制海権の奪還を試みたが、圧倒的戦闘力を前に艦隊は壊滅。その間200万人以上の人命が失われた。

 

 しかし、日本国防軍が設立された2014年後半から、在りし日の軍艦の魂を持つ娘”艦娘”が開発され実戦に投入、大戦果をあげた。艦娘たちの活躍により海上補給路の確保に成功し、制海権の一部確保に成功。2023年現在まで攻防が続いている。

 

 菅野は本を閉じた。まさかそんなことが起きていたなんて想像もしなかった。ならさっき戦ったたこ焼き(後にあれは深海棲艦の艦載機だと大淀から教えてもらった)も深海棲艦なのかもしれない。

 

 そしてここの鎮守府と呼ばれる場所は、艦娘たちを指揮するための基地であり、”提督”と呼ばれる人物が着任しなければならない場所のようだ。

 

 「じゃあさっきの大淀って娘はあの連合艦隊最後の旗艦の軽巡大淀の魂を持ってるってことか…」

 

 不可思議なことが多いが、この世界の平和が得体のしれないたこや…、深海棲艦に脅かされているのも事実…。

 

 「まさか俺はそのためにここに来たのか?」

 

 運命のいたずらで菅野はここに来たのか?事実、一度は平和になった世の中が深海棲艦によって壊されている…。

 

 「俺は許せねぇ。アメ公以上に許せねぇぞ!!!!」

 

 菅野は決めた。ここに提督として着任することを。世界の、日本の平和を取り戻すことを。

 

 「覚悟しろよたこ焼き共ぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 菅野の怒鳴り声に近い決意の声は、屋久島鎮守府のみならず、島中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた翌朝。

 

 「あっ、おはようございます提督。」

 

 「おはようございます、なのです。」

 

 食堂に来ると、大淀と確か電、と言われた少女が挨拶をした。

 

 「おお、朝は早いな。それで提督ってのは何をすればいいんだ?」

 

 菅野は本でサクッと鎮守府や艦娘については調べたものの、まだ提督が主に何をするのかは全く分かっていない。

 

 「あ、そうですね。それでは説明します。まず…」

 

 大淀は一つ一つ菅野に提督について説明する。菅野はメモ帳にメモをとりながら説明を聞き逃さずに聞いていた。

 

 

 

 

 「以上ですね。」

 

 「ああ、大体わかった。ありがとな。」

 

 菅野は飛行服のポケットにメモ帳をしまう。その時、大淀が言いづらそうに口を開いた。

 

 「あの…、提督…。言いづらいんですけど…。その服は…」

 

 「え?」

 

 菅野は自分の服装を見る。飛行兵である菅野が着ている服は当然旧海軍の飛行服だ。頭には飛行帽にゴーグル。首元にはマフラー、手には革手袋だ。全くもって提督っぽさは微塵もなかった。

 しかし、大淀が気にしていたのはそれではなかった。

 

 「なにか変か?」

 

 「変とかそういうのじゃなくて…。匂いが…。着替えはそれしかないんですか?」

 

 「ない。」

 

 そう。さっきから菅野の飛行服からはとんでもない臭気が立ち込めていたのだ。密室のコクピットはとんでもなく蒸し暑い。それに紫電改で一度空戦をしていたため、大量の汗をかいていた。しかもそのままベットに入ったので当然洗濯などしていない。菅野は気づいていないが、二人の鼻は悲鳴を上げていた。

 それに突然転生したため、当然着替えなど持ってるはずがない。

 

 「それは困りましたね…。じゃあこちらの第二種軍装に着替えて…」

 

 「いや、絶対に似合わないだろソレ。」

 

 「ですがこれが指定服なので…。」

 

 「まじで着ないきゃだめか…?えぇ…」

 

 何度かの押し問答の末、結局菅野は文句を言いながらだが第二種軍装を着用してくれた。

 

 

 

 

 「それで、とりあえずまず何をすればいいんだ?出撃か?」

 

 執務机についた菅野は大淀へ質問する。

 

 「まあそれもそうですけど。まずは建造と開発ですね。」

 

 「建造ってことは新しい艦を作るってのか?」

 

 「はい。使用する資材によって建造できる艦があります。」

 

 なるほど。菅野は建造の興味を持ち、大淀と電を連れて工廠へと向かった。

 

 「まずは最低値で建造をしましょう。」

 

 「そうだな。物資は大事に使わないとな…。」

 

 菅野はかつて物資不足の中限られた燃料と弾薬で戦闘をしていた。そのため物資の大切さは人一倍分かる。

 

 「建造開始っと。最低値だから駆逐艦しか出ねぇと思うけどな。」

 

 菅野が建造スイッチを押すと、パネルに”20分”と表示された。特型駆逐艦か初春型駆逐艦だ。

 

 「そういえばこの火炎放射器みたいなのなんだ?」

 

 菅野が”高速建造剤”と書かれているものに触れる。

 

 「これは高速建造剤と言うもので高速で建造ができます。」

 

 大淀が説明する。菅野はなぜか高速建造剤を発射する体制をとる。

 

 「つまり20分待たなくてもいいってことか?」

 

 「まぁ、そういうことになりますね…」

 

 言うが早いか菅野は高速建造剤を発射(使用)していた。(物資の大切さはどこへ?)みるみるうちに数字は減少していき、あっとういまに建造が終了した。

 

 「おお。もう建造が終了したぞ。すごいなこれ。」

 

 「そうですけど次回からはよく考えてから使用してくださいね…。」

 

 大淀が苦笑いを浮かべながら答えた。…本当はもう少し長時間建造をする時に使ってもらいたかった。新しい鎮守府であるとは言え、資材も多いわけではないのだ。

 

 「それで、誰ができたんだ?」

 

 菅野は電に問いかける。電は一瞬「はにぁ!?」と声をあげて驚いたが、すぐに確認する。

 

 「と、特型駆逐艦なのです…」

 

 建造された艦娘の姿があらわになる。紺色の長髪に紺色の戦闘形略帽を被っており、電と同じのセーラー服姿。背丈も電と同じくらいだ。

 

 「暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」

 

 駆逐艦暁が建造されたのだ。特型駆逐艦の完成形、III型の一番艦だ。ちなみに電はIII型の四番艦なので暁は電も姉にあたる。

 

 「おお。なんかちいせぇのがきたな。」

 

 「って、子供扱いしないでよ〜!」

 

 菅野の一言に暁は目をバッテン(><)にして手を振り回す。その様子を電と大淀は少々呆れ気味にみていた。

 

 

 

 

 

 「よし。建造も終わったことだし、そろそろ出撃だな。」

 

 菅野はなぜか飛行服(洗濯済み)に着替えながら、艦隊の編成を組んでいる。

 

 「あの…、なぜ飛行服に着替えてるんですか?」

 

 大淀が菅野に質問する。すると菅野は「え?」と言うような顔になり答える。

 

 「何いってんだよ。俺も出撃するんだよ。」

 

 「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」

 

 大淀たちは困惑する。提督と言えば鎮守府で自分たち艦娘の指揮をとるだけで前線には出ない。だがこの提督は自ら前線に出ようとしている。前線に出ようとする勇気はすごいと大淀は尊敬したが、いくらなんでも深海棲艦は人間が敵う相手ではない。艦娘よりはるかに非力な人間が深海棲艦に挑むなんて自殺行為だ。

 

 「て、提督!!考え直してください!!深海棲艦は人間が敵う相手ではないです!危険すぎます!!」

 

 「そうなのです!!電たちでも危険な敵なのです!!」

 

 深海棲艦の脅威をよく知っている大淀と電が必死で止める。(暁は建造されたばかりなので状況が分からない)

 

 しかし菅野は落ち着いて口を開いた。

 

 「お前らでも危険ならなおさら俺は行くぜ。それに、お前たちが艦の魂を宿してようが少女であることに変わりはない。大人の俺が何もできないのは自分で自分が許せなくなる。それに一度は平和になった故郷がよく分からねぇ奴らに脅かされているのはどうしても目を離せない。…お願いだ。行かせてくれ。」

 

 そう言って菅野は頭をさげた。

 

 「提督…」

 

 「司令官さん…」

 

 黙々と菅野は頭を下げ続けた。

 

 

 沈黙を先に破ったのは大淀だった。

 

 「…一つだけ約束してください。危ないと思ったらすぐに逃げてください。これだけは絶対です。」

 

 大淀の言葉に菅野は顔を上げた。そして笑顔をつくって言った。

 

 「大淀…、ありがとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

屋久島飛行場

 

 整備兵によって菅野の紫電改は、ピカピカの新品同様になっていた。暴発して使用不能になっていた20mm機銃も、被弾して穴だらけだった機体もすっかり元通りになっている。

 

 「これはすごいな…。これが未来の技術か…」

 

 「提督殿、ご武運を。」

 

 整備兵たちは菅野に敬礼する。菅野も敬礼を返すと、紫電改に乗り込み屋久島飛行場を飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、電と暁は敵艦隊の潜伏海域に接近していた。先程深海棲艦の”駆逐イ級”と交戦したものの、ほとんど無傷で撃沈していた。

 

 「ちょっと危なかったのです…。」

 

 「あんなの全然敵じゃないわよ〜!」

 

 暁は強がっている。しかし実際は駆逐イ級の砲撃を至近弾で受け、ダメージは無いものの動けなくなり、電がイ級にとどめを刺していたのだ。

 立ち直ってからまだ数分なのにこれである。

 

 「暁ちゃん…、次は気をつけてほしいのです…。」

 

 「と、当然よ!!次は暁が倒すんだから!!」

 

 そう言いながら暁は腕をブンブン振り回す。その様子を遠方から伺っていたものがいた。

 

 

 砲塔が大量についた盾のようなものを両手に掲げており、黒い服をまとっている。全身には黒い雰囲気をまとっている。

 

 

 深海棲艦の”戦艦ル級”だ。一隻だけのようで、どうやら艦隊からはぐれたようだ。しかし電たちは発見されていることに気がついていない。ル級が砲塔を構え、照準を合わせる。

 

 『ココデ沈ミナサイ…。』

 

 邪悪な笑みを浮かべたル級は、砲塔の引き金に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時

 

 

 

 

 「何やってんだテメェ!!!!」

 

 上空から数多の20mm機銃弾がル級に降り注いできた。ル級の体に次々と機銃弾がめり込んでいく。

 

 『グッ…!ナ、ナンダ…!?』

 

 ル級が空を見上げると、高速で一機の戦闘機が飛行していた。紫電改だ。ル級は驚愕する。艦娘の艤装以外の兵器では深海棲艦には傷ひとつつけられない。なのに機銃弾を受けた体からは血が滴っている。訳も分からず混乱していると、再び紫電改は接近する。

 

 「電たちには傷ひとつつけさせねぇぞ!!」

 

 菅野は叫ぶと、海面ギリギリまで降下する。その紫電改の腹には250kg爆弾が取り付けられていた。

 

 『ナッ、何ヲスルツモリダ!!?』

 

 ただならぬ狂気を感じたル級は砲塔を構え直し、一斉に紫電改に向けて砲撃を開始する。紫電改の周りで砲弾が炸裂し、水柱が上がる。しかし菅野は横滑りを駆使しながら砲弾を軽々と回避する。

 

 「そんな砲撃当たらねぇよ!!食らいやがれ!!!!」

 

 菅野は爆弾投下レバーを引いた。250kg爆弾が切り離される。しかしル級とはだいぶ離れた所で投下している。

 

 『ハハハッ、所詮人間ダ。我々ニ爆弾ヲ当テレルハズガナイ…。』

 

 ル級が高をくくって笑った。

 

 

 ところが次の瞬間、ル級は信じられないものを見た。

 

 

 なんと爆弾が水切りの石のように、海面を飛び跳ねているのだ。

 

 『ナッ、ナンダト…!!』

 

 反跳爆撃だ。水切りの原理を使用して爆弾を投下し、目標物に命中させる爆撃方法だ。しかし反跳爆撃はかなりの練度を誇る搭乗員ではないと命中させることも難しい。

 

 

 ところがそこは第三○一航空隊の隊長の菅野だ。反跳爆撃を成功させることは造作もないことだった。

 

 飛び跳ねた爆弾は次の瞬間、ル級の懐に飛び込んでいった。飛び込んだ爆弾はル級の懐で信管が作動、爆発を起こした。

 

 『グッ、アアアアアアアアアア!!!!』

 

 ル級の断末魔とともに大爆発が起きた。黒煙が高々と上がる。そして黒煙が晴れた頃には、ル級の姿はなくなっていた。

 

 「っ!?今の爆発音は?」

 

 暁と電が爆発音に気づき、現場へと急行する。しかし現場には何もなく、重油と残骸が溢れていただけだった。

 

 「これはもしかして…」

 

 電がつぶやくと、上空からエンジン音を響かせながら、紫電改が屋久島方面へ向けて飛ぶ去っていた。

 

 「………!!」

 

 二人はそのまま飛び去っていく紫電改をしばらく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

屋久島鎮守府

 

 「司令官さんすごかったのです!!!」

 

 「えっ、そうか?」

 

 「そうよ!!よくル級を撃沈できたわね!!暁たち駆逐艦でもほとんど倒せないのに!!」

 

 「そんなに強いやつだったのか…?」

 

 机で執務をしていた菅野は電と暁に褒めちぎられていた。菅野自身はル級をそんなに対した敵だとは思っていなかったが、話を聞く限り、自分はとんでもないことを成し遂げたことが薄々と分かってきた。

 

 「まぁ、お前たちのことを救おうっていう気持ちが強くてな…。気づいたら撃沈してたんだよ。気にするな。艦娘を救うのも提督の仕事なんだからな。」

 

 菅野はそう言い、暁と電の頭を軽く撫でると、机から立ち上がり、

 

 「さ〜て、晩飯でも食ってくるか〜。」

 

 と執務室から出ていった。残された二人はしばらくポカンとしていたが、ハッと意識を戻した。

 

 「あの司令官、暁たちのことを本当に大切に思ってるみたいね…。」

 

 「電もそう思うのです。」

 

 「…これからも司令官のために頑張りましょう!」

 

 「はいなのです!!」

 

 

 

食堂

 

 「提督、今日はお疲れ様です。」

 

 「ああ、ありがとな。あと大淀、一ついいか?」

 

 食堂で野菜炒めにしゃぶりついている菅野が、大淀に声をかける。

 

 「?はい。どうしました。」

 

 「お前は俺を提督って呼んでるが、どうもしっくりこねぇんだ。今日から”菅野”って呼んでくれないか?」

 

 「えっ、どうしてですか?」

 

 「それが俺の名前だ。そしてそう言われてたからな。」

 

 大淀は少し黙っていたが、まもなく口を開いた。

 

 「分かりました。それでは”菅野さん”と呼ばせていただきます。」

 

 「まぁ、それでいい。それじゃあ改めて、今日からよろしくな大淀。」

 

 菅野が大淀に向けて手を差し出す。それをみて大淀は少し戸惑ったが、しっかりとその手を握った。

 

 「はい、お願いします!」

 

 

 黄色の撃墜王と艦娘たちとの物語は、まだ始まったばかりだ。 

 

 

 

                   〜着任編 完〜




提督として戦いを始めた菅野直。彼の伝説は、まだ始まったばかりだ…。

続編の投稿は月一くらいにします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。