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第63回大会終了後のアンツィオ高校学園艦。
広大で趣の深い大食堂には戦車道のメンバー達が長テーブルを囲んでいる。
隊長の安西チヨミことアンチョビが入室してくると、メンバー達は声を合わせて「ドゥーチェ!」を連呼しながら拳を何度も突き上げた。
アンチョビは顎を引いて目を閉じ、暫しその喝采のシャワーに聞き入った後、右手の鞭を振り上げた。
それを合図に喝采は止み、食堂はまた静けさを取り戻す。
アンチョビは顔を上げて目を開くと、声を張り上げて演説を始めた。
「諸君!今日はお疲れだった!準決勝に進めなかったのは誠に悔しく残念だが、私は諸君の健闘に心より感謝する!グラッツェ!」
そこで一端区切ると、メンバー達が一斉に拍手をする。
アンチョビが話を続けようと息を吸うと、それを見て取って拍手が止んだ。
「戦車道は正に人生だ!戦車は自ら道を切り開く!人生もそうだ!自ら切り開いてこそ、自分の人生を築く事が出来るのだ!」
その言葉にメンバー達は積極的に頷き返す。
アンチョビは続けた。
「人生では色々な経験をする!良い事に悪い事、勝利に敗北、成功に挫折、出会いに別れ・・・負ける事は辛い。そして我々は敗北と言う、人生の負の側面に直面した。だがそれにめげず、前に進んで行かなければならない!」
第2試合での敗退を思い出したのか、何人かの表情が曇った。
大洗女子学園とは良好な関係を築く事が出来たが、アンチョビはアンツィオ高校の隊長だ。
やはり試合に勝ってコマを先に進めたい気持ちは誰よりも強い。
「では尋ねよう。敗北や挫折を乗り越え、その先に進んでいくにはどうすればいいか!」
テーブルの最前列に座っていた副隊長のペパロニが真っ先に答える。
「はいはい!パスタっすかあ!?」
「違う!」
アンチョビがムスッとして答えると、ペパロニの向かい側の椅子に座る同じ副隊長のカルパッチョが首を傾げながら、
「鋼の精神、ですか?」
アンチョビは首を横に振ると、
「情熱だ。たぎるような情熱・・・どのような人生の壁も溶かす、熱い情熱だ!」
メンバー達が感動して声を上げる。
その間にアンチョビはテーブルの脚にもたれかけさせていた長物を手に取った。
右手に掲げられたそれは、木製のバットのように見える。
「戦車道は・・・野球に例えてもいい」
アンチョビは左の掌にバットをポンポンと叩きながらテーブルに沿って歩き始めた。
まずはカルパッチョの後ろを通過する。
「選手は・・・たった1人でマウンドに立つ。選手の心にあるのは・・・自分の成績。華やかで、栄光に包まれた、誇りある成績!」
アンチョビはそこで立ち止まると、くるりと反転してまた歩き出した。
カルパッチョもそうだが、メンバーの何人かはアンチョビの様子が徐々に変わって行く気配を察し、無意識に背筋を伸ばしている。
アンチョビは尚も乾いた靴音を響かせながらゆっくりとテーブルに沿って歩き、
「孤独なマウンドだが、フィールドには・・・一緒に戦う仲間達がいる!」
「お、さすがっす姐さん!」
と、相変わらず気楽な調子でペパロニがアンチョビを持ち上げる。
だがアンチョビはそれに応じず、
「見て、投げて、走る。チームワークがあってこそだ!」
「ドゥーチェ・・・?」
いよいよ異変を確信したカルパッチョが不安そうに話しかけたが、アンチョビはカルパッチョの後ろを通過し、今度はペパロニの側に沿って歩き出す。
「あー、まあ、中にはホームラン王とかはいるがな。でもチームが無ければ・・・分かるなみんな?幾ら個人の力が強くても無意味だ!意味が無いんだ!」
「その通りっすよ姐さん!」
「幾ら強打者でも、たった1人で野球は戦えない!」
アンチョビはまた立ち止まり、踵を返して歩き出した。
何か考えているらしく、気持ちが昂って来て落ち着きを失いかけているようだ。
「そう!チームが勝たなきゃ、全く意味が無い!」
アンチョビはペパロニの真後ろで不意に立ち止まった。
「いや~、名演説っすよどぅーty・・・」
ペパロニが一人拍手しながら振り返った瞬間、アンチョビの振りかぶったバットがペパロニの頭上に振り下ろされた。
「ぐあっ!」
ペパロニの悲鳴と共に赤い液体が周囲に飛び散り、近くのメンバーも巻き添えを浴びた。
カルパッチョも例外ではなく、顔に数滴の赤い液体が降りかかっている。
「ドゥ、ドゥーチェ!?何してるんですか!?」
カルパッチョが思わずテーブルに両手を突いて立ち上がった。
バットの殴打を受けたペパロニは硬直して動かない。
「ペパロニさん!」
「嘘!?」
「ドゥーチェ!?]
悪い予感を覚えたメンバー達が顔面蒼白となってアンチョビを凝視した。
一方、アンチョビはその反応を楽しんでか、一人体を揺らして笑い出している。
「フッフッフッ・・・ハッハッハッハ!」
「あれ、これトマトの味がするっすね・・・?」
顔面血まみれで大ダメージを受けた筈のペパロニが困惑して喋り出したので、カルパッチョはハッとして頬の赤い液体を指で拭って舐めた。
それはトマトソースだった。
「まあこれで赦してやる、ペパロニ!次からあんなヘマするじゃないぞ!」
ペパロニの肩に手を置いて、自らも返りトマトソースを浴びて真っ赤のアンチョビがそう言う。
左手の木製バットはハリボテで殴っても害は無く、中にはトマトソースが詰め込まれていたのである。
しかし表面はリアルに出来ていたので、すぐには分からなかったようである。
サプライズ粛清が終わると、お疲れ会が盛大に祝われた。
完