迫る異妖
──天災。
暴風や雪害、豪雨、洪水のみならず隕石の落下までも含んでいる自然災害の総称。
いずれも民に重大な被害を及ぼすが、その副産物として大量の『源石』を残す。
それは非常に高い発生率を持ち、それで持って規則性が存在しない。その為人々は都市自体を移動させ、天災を回避している。
…と、ここまでこの恐ろしい天災についての話をしてきたが、これらはあくまでも『自然現象』である。
天災自体がこちらの顔色を伺って、今から災害起こしたら面白いだろうな〜…だとか、そんなことは決して起こりはしない。
自然現象であるからこそ、天災トランスポーターや天災学者達の働きによって予想&対処が出来る。そして初めて天災の副産物である源石を活用出来るという事だ。
何度も言うが、これは天災が『自然現象』であると言う常識が存在するから成り立っているのである。
だがしかし、その常識から外れるような事があったとしたら?
もし、天災を引き起こせるほどの力を持った生物が生まれてしまったら?
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「えっと…君、大丈夫?」
「大丈夫な訳ないでしょ!?倒れてるんだから!」
徐々に太陽の光が差し掛かり始めた頃。丁度戻ってきていたフェリーンとループスのロドスの職員2人が、荒野の真ん中でうつ伏せで倒れている少女を偶然見つけ出した。職員2人が声をかけると、少女はピクリと動き、そして今にも消えてしまいそうな声でこう答えた。
「おなか…すいた。」
「分かった、すぐにご飯がいっぱいある所に連れて行ってあげる。ほら、速く車出しなさい!」
「もうやってますよ。さあ、乗って!」
ループスの職員は黒い衣を羽織った少女を丁寧に抱え上げ、急ぎ足でエンジンのかかった車へと歩きだそうとする。その時、ループスの職員は抱え上げている腕の外側にだらんと何かが垂れ下がった事に気が付いた。
「服か髪…かしら、まあいいわ。ほら、あなたもこの子を下ろすのを手伝って?」
「わかりました。…あれは。」
フェリーンの職員は窓からループスの職員の動向を見守っていたが、いつの間にか周辺に数匹のオリジムシが現れ、ループスの職員を取り囲んでいる事に気が付いた。フェリーンの職員はクロスボウを持って車から飛び出すと、オリジムシに照準を合わせて数発の矢を発射した。矢は見事にオリジムシの体表に突き刺さった。しかし、オリジムシは止まらず這い続ける、止まらないオリジムシの勢いに少したじろぎながらも、フェリーンの職員は二発目をオリジムシに撃ち込んだ。そうして、ようやくオリジムシは息絶えた。
「このオリジムシ、なんかしぶとかったですね…、まるで何かに突き動かされている様な…あ…ぁ?」
フェリーンの職員はループスの職員と抱きかかえられている少女の方を向くと、口を開いたまま硬直した、その顔には恐怖が垣間見えている。
「何よ、そんな口パクパクさせて…。」
「うで…!腕が…!」
「腕…?」
あまりの焦り様にループスの職員は恐る恐る、先ほど違和感のあった腕の外側を一瞥した。
「っ!?」
彼と同様に、何かに気が付いたループスの職員は驚いた拍子に少女を抱く手を離してしまった。
「危ないっ!」
フェリーンの職員の驚嘆が辺りに響く。直後に我に返ったループスの職員は、宙に放り出されて倒れそうになった少女を間一髪でキャッチした。少女は一瞬小さなうめき声を上げたが、それきり声を上げなくなった。
「これまずいんじゃないですか!」
「あああ焦っちゃダメよ!すぐに本艦に連絡して…それから、それから…!こんな事言ってないで速く戻りましょう!」
「はい!」
二人の職員と一人の少女を乗せた車は、早朝の荒野を砂埃を上げて進んで行く。車両が走り去った荒野には、オリジムシの死体だけが残った。オリジムシの死体が
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「到着しました、運転中に連絡は済ませてあります!ストレッチャーを準備してくれているはずですが…。」
「ストレッチャー…、あっ、あったわ!受け渡してくる。」
「はい、くれぐれも落とさないように注意してくださいよ!?」
少女の体をしっかりと抱きかかえ、ループスの職員は足早に車から駆け出した。周囲は少女を奇異の目で見つめ、少女は本能的にそれを感じ取ったのか、ループスの職員の腕の中で少し身じろいだ。職員は周囲をキッ、と睨み付けると、ストレッチャーに手を掛けて待っている職員に目配せをして少女を丁寧に台の上へ降ろした。
「この子を…よろしくお願いします。後でお伺いさせて頂きたいので、部屋の番号を。」
「はい、402です。ススーロ先生が担当してくださいます。」
ループスの職員はその番号をメモすると、一度少女の頭を優しく撫で、踵を返した。それと同時にカラカラと音を立ててストレッチャーが動き出した。