もんはんナイツ!!   作:クロス電源

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光と唄

ピッ…ピッ…

 

白い部屋に等間隔で鳴り響く電子音、空いた窓から吹き来む冷たい風に少女の意識は徐々に覚醒し始める。

 

「ぅうん…ここは…?」

 

少女はむくりと体を上げると、肩から生えている翼を広げて勢い良く羽ばたかせた。その瞬間、辺りからガタガタと物が揺れる音、割れ物が音を立てて割れる音、そして老若男女の悲鳴が立て続けに響き、そして最後にぴしゃりとカーテンを勢い良く開ける音が個室の中を占めた。

 

「何が起こったの!?」

 

慌ただしく向かってきたのは、白衣を着たヴァルポの少女、ヴァルポの少女は大きく広げられた漆黒の翼を見て一瞬たじろいだが、急ぎ足で近寄ると優しく声をかけた。

 

「落ち着いて、…おはよう。目が覚めて何よりだよ。」

「おはよう…ここどこ?」

「質問があるなら全部答えるよ。だからその…翼?腕?わからないけど閉じてくれるかな?」

「分かった。もうやることは終わってる。」

 

そう言って少女はゆっくりとその翼を下げると、折り畳んで収納した。ヴァルポの少女はその光景を物珍しそうに見つめていた。

 

「あなたは?ここはどこ?」

「ここはロドス、製薬会社だけど…まあ、病院みたいなものだと思ってくれていいよ。そして、私はススーロ。今日から君を担当する医者だよ。よろしくね。」

「ススーロ…よろしく。わたしは、ゴア。」

「ゴアちゃん、よろしくね。」

 

ススーロはゴアに握手を求めようとゴアの前に手を伸ばした。しかしゴアはそれに応えずに自分の来ている服をつまんでいた。

 

「あっ、ごめんね。馴れ馴れしかったかな。」

「?」

 

ススーロはサッと手を引いたが、ゴアは何も気にしていないようだった。それどころかゴアはススーロの言動に疑問の表情を浮かべていた。

この空気を取り繕うべくススーロは、カルテにゴアについての情報を書き出していく。その最中、ゴアは廊下からパタパタと向かってくる足音を捉えていた。

 

 

「誰か来る…」

「えっ?」

 

ゴアは再び翼を広げようと肩の腕をゆっくり持ち上げた。

 

「待って、それは止めて…!」

 

 

ススーロはゴアの羽ばたきを静止しようとゴアに近寄ってゴアの腕をぎゅっと掴んだ。しかしゴアの腕は止められず、小さなススーロの身体はいとも簡単に持ち上げられてしまう。

 

「ススーロ。なんで止めるの?これは必要なことなの。」

「さっきみたいな風を起こされたらここにいる人に被害がっ!」

 

ススーロの必死の懇願も届かず、ゴアは翼を目一杯広げて、わずかにそれを震わせる。ススーロの目に広がる黒。この後の掃除をどうしようかとススーロが考え始めたその時。

 

「ススーロお姉さん!大丈夫ですか!」

「えっ、リサ!?来ちゃダメ!」

 

ひどく慌てた様子で病室に入ってきたのは、見れば一目でわかる金色に輝く八本のもふもふとした尾のヴァルポ、スズランだった。

スズランは病室で何が起こったかを理解すると、ゴアに注意をしようと試みた。

 

「ススーロお姉さんが困ってます!降ろしてあげてください!」

「ダメっリサ!この子は私が何とかするから…!」

 

スズランはゴアが座っているベッドに駆け寄る。その瞬間、ゴアは今までで一番大きく目を見開いた。

 

「光…?」

「えっ?」

 

ゴアはスズランに顔を向けると、あっという間にその翼を納め、目を見開いてスズランをじっと見つめている。

 

「ごほごほ…ううっ、何をしたの?リサ。」

「わ、私は何も…!」

 

二人は何が起こったのかよくわからない中あたふたしていると、よろよろとゴアが立ち上がり、スズランの方へ歩み寄る。スズランはゴアの得体の知れない姿に一瞬たじろいだ。するとゴアはスズランへ右手を差し出した。スズランは恐る恐るその手を握ると、とっさにゴアの左手が伸びてきて、スズランの頬に当てた。

 

「えっ!?」

「ゴアちゃん!?」

 

スズランはゴアの行動に困惑してその手を離そうと自分の右手をゴアの右手に絡めて、少しずつ引き剝がす。

「待って…!」

「っ…!?」

 

彼女はスズランが離れようとするのを感じ取ったのか、彼女の翼を広げ、スズランをまるで抱きしめるかのように覆った。ゴアは空いた両手でスズランの身体にまんべんなく触れた。スズランはその突然の行動に驚きと恐怖が入交っており、ゴアの手を拒む事をしなかった。そうしてゴアの手がスズランの尻尾に辿り着いたその時、ゴアの手が止まった。

 

「ふわふわ…暖かい…、これが…ひかり…?」

「そっ、それは私のしっぽですぅっ!」

「しっぽ…これが。」

 

されるがままのスズランは、目を渦巻き状にしながらもあることに気が付いた。

 

「ゴア…さん?なんで泣いているんですか…?」

 

ゴアの紫色の瞳からは、筋を引いて涙が流れ、顎を伝ってぽたぽたと落ちていった。表情は動かない、ただスズランを見つめて涙を流し続けていた。

 

「このしっぽ…見たい。見たいよ…。」

「見えて…ないんですか?」

 

この話をすぐ隣で壁に持たれて聞いていたススーロは、ハッとしてカルテに新しく書き込んだ。一方、ゴアの声は悔しさからか震えている。これを聞いてスズランは少し考えた後、ゴアにこう伝えた。

 

「見えていないんでしたら、満足するまで私を触ってください…!」

 

ゴアはこれを聞くと、表情がパァと明るくなった。その顔からは嬉しさが隠せていないことがわかる。

 

「いいの…!?」

「はい…わたしは逃げません。どうぞ!」

 

スズランがそう言い切る前に、ゴアは翼を畳んでその両手でスズランを抱きしめた。ススーロはこの光景を見て、思わず笑みがこぼれた。そうしてスズランに話しかけた。

 

「リサ、私はこの子…、ゴアちゃんの検査のための準備をしてくるね。」

「はい!ゴアちゃんの相手は任せてください!」

 

そう告げて、ススーロは部屋を出ていった。

その間にもゴアは涙を流しながらスズランに身体を預けている。

 

「…何か、なつかしい。」

「懐かしい…ですか。ゴアちゃんは、どこから来たんですか?」

 

こんな質問をゴアに投げかけると、ゴアは少し悲しそうな顔をして、ぼそぼそと話始めた。

「わかんない…。でも、何か…、何処か高い所。」

「高い所?」

「そう。…そうだ、リサちゃん。」

「どうしたんですか?」

 

ゴアはおもむろにスズランから離れて、ベッドに座って隣をポンと叩いた。スズランはそれに従ってぽすんと隣に座った。

「唄を教えてあげる。私がいつの間にか知っていた唄。」

「唄?聞いてみたいです!」

「うん、わかった。」

 

ゴアは目を閉じて、大きく息を吸った。その瞬間、スズランは周りの空気がとっさに厳かな物に変わった事に気が付いた。

「…っ?ゴアちゃん、何を…。」

 

ゴアはスズランの言葉を聞くまでも無く、その歌を紡ぎ始める。

 

「闇がその目を覚ますなら 彼方に光が生まれ来て

 大地に若芽が伸びるなら 彼方に影が生まれ来る」

 

ゴアの唄は小さい声であったが、スズランの耳によく響き、頭の中で反響させている。

 

「すべてを照らすは光りなれ あまたの影は地に還り

 いずこに光が帰る時 新たな影が生まれけん

 やがては影が地に還り 新たな命の息吹待つ」

 

スズランは驚きとともに、その唄に引き込まれるような感覚を覚えながら、ゴアの唄に耳を傾けた。

 

 

「共に回れや 光と影よ 常世に廻れや 光と影よ

 そしてひとつの唄となれ」

 

「ひかり…。」

 

「天を廻りて戻り来よ 時を廻りて戻り来よ」

 

スズランの意識は徐々に朦朧として来ていた。唄だけがスズランの頭を埋め尽くしていた。その瞬間。

 

「ゴアちゃん!検査があるから来てくれない?」

ススーロの元気のいい声が病室内に響いた。その大きな声に一瞬驚いたゴアだったが、あちらの方が重要だと理解すると、ウトウトしているスズランを揺らし、反応が戻ったことを確認してからベットから立ち上がった。

 

「じゃあ、私行ってくるね。またね、リサちゃん。」

「こほ…またね、ゴアちゃん!」

 

ゴアはススーロが持ってきた車椅子に乗って病室から去って行った。

部屋に一人残されたスズランは、あることを思っていた。

 

「私…何を聞いていたんだっけ…。」

 

 

 

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