辻田ちゃん、それはフラグや。あかん方のフラグや。
「七輝くん…どうしてあんな事を言ったのですか…?」
入学式が終了して早々と体育館を後にする七輝に死にかけの魚のような目で見ながら伏見は尋ねる。そんな伏見の苦労を気にもしないで七輝は悪戯気味に笑う。
「言っただろ、強くなるために色々学ぶって。挑発すりゃ俺を分からせようと挑戦する奴等が出てくる。そうすれば俺は戦いながら学べるし強くなれる」
バトル漫画の読みすぎでは、と伏見はツッコミを入れたかったがあの冷え切った空気と七輝の挑戦に乗ってしまった生徒達の眼差しを目の当たりしてしまったが故にすぐにでも勃発しそうでハラハラしていた。
「……兎に角、教室に入ったらさっきのは冗談と言って謝ってくださいよ?七輝くんが入るクラスは――」
「じゃ、あとは任せたっ」
えっ、と意表を突かれる前に七輝はひとっ飛びで閉められた校門の上に立つ。
「な、七輝くん!?今から教室で入学後のお話があるのですけど!?」
「フシミンが聞くなら俺が行く必要ねぇだろ。通学途中にゲーセンと駄菓子屋みっけたし、とりま町の中ブラブラしてくからよろしくな!」
七輝はニッと笑うと学校の外へと降り立ち、ルンルン気分で走り去っていった。まさか入学初日ですっぽ抜かすとは、伏見は一瞬呆然とするがため息をこぼして苦笑いをする。
「……まあ抜け出そうとしてないからヨシとしますか」
「全然ヨシじゃないんですけどぉ?」
伏見はビクリと驚き振り返る。背後には苦虫を噛み潰したような顔をした武藤二郎校長の姿が。
「いや、ちょ、何ていうか。伏見くんどゆことあれ?」
校長は苦虫を噛み潰したよう顔でずいずいと伏見に迫る。
「元本部長の正雄さんのお子さんだし?陰陽寮から特別に許可されたと聞いたし?ちょーデキる生徒と思ったんだけどさぁー……え、何?全生徒に雑魚発言?」
「え…えーと……それにつきましては、彼なりの挨拶というか……」
「友達百人できるどころか生徒百人と喧嘩したいのかな?校長的にはマジでビックリなんだけど?てかしかも入学初日にサボり?校長情報過多で整理つかないんですけど?」
「あ、アハハ……」
どう説明したらいいか、説明しても長く話さなければならないのでもう愛想笑いで誤魔化すことしかできなかった。
______
「ここが今日から新生活する場所か……」
時は夕方。入学式を終え、新しいクラスで新しいクラスメイト達と出会い、担任の教師から入学後スケジュールを聞き、生徒達と自己紹介を交わし、授業が終わって新しく住む学生寮へと辿り着いた生徒の一人である
「初日から大変だったけど、やっと休める……」
結城は今日一日起きたことを振り返った。学校に入るや否や沢山の生徒達から部活の勧誘という荒波に巻き込まれ、下校中にも部活の勧誘に捕まり揉みくちゃにされた。
そして何よりも入学式で紹介された転校生による爆弾発言。休憩時間も下校時間も新入生や先輩の生徒達が血眼でその転校生を探していた。あの荒々しさから血眼で探す生徒達や例の転校生とも関わりたくないなと思った。
「とりあえず、ルームメイトと自己紹介してから休もう……」
ここの学生寮は生徒同士の親睦を深めるため二人部屋のシェアハウス制である。結城本人としてはひとり暮らしがしたかったがその学生寮は満室で埋まってしまっていたため仕方なく此方を選んだ。
(僕の新生活がスタートするんだ。頑張るしかない)
結城も一陰陽師、一捜査官を目指している。明日から始まる学生生活と修行に励もうと決心をした。
「えーと、確か僕の部屋は……あの奥か」
3階の奥、他の部屋と比べて少し高そうなドアが拵えている部屋へと向かい渡された鍵でドアを開けた。
(玄関もあって広い……)
廊下には2つの部屋とリビングらしき場所が見えた。学生寮にしては少し高級ではないかと結城は不審に感じた。
(靴が2人分……1つは生徒のと、もう1つは大人……?)
既に入った生徒のものであろう靴と何故かある黒の革靴に結城は首を傾げる。どういうことなのだろうか、不思議に思いながらも靴を脱いでリビングへと進んだ。
きっとそこにルームメイトがいるはず。とりあえず自己紹介はしなくては結城は緊張しながら歩みを進める。
「は、はじめまして!今日から一緒に住むことになった結城護で……す…?」
「だからさ、明日はちゃんと学校行くからよ。そうネチネチ言うなって」
「いや間違いなく遅刻する気満々でしたよね?お昼過ぎてから学校行く気でしたよね?」
「今週の予定表見たぞ。最初はオリエンテーションばっかだし俺行く必要ないよなぁ?つまんねーし、ゲーセンの格ゲーで十割コンボ研究した方が楽しいんだが?」
「ですから、クラスメイトとの交流を深めるのは大事ですのでオリエンテーションを受けてくださいよ」
「はあー?そんなもんより七咲先輩とラインでおしゃべりする方が百万倍大事だろ!」
「………え、何これ?」
結城は今目の前に起きている状況が理解できなかった。リビングに入ったら例の転校生がいて、例の転校生は海外ドラマを見ながら死にかけの魚のような目でハンバーグを焼いてる大人の人と口論をしている。
「クラスメイトと七咲先輩、天秤にかけたら圧倒的に………あ?誰だぁテメェ?」
結城の存在に気づいた例の転校生はギロリと睨んだ。その鋭い眼差しに結城はビクリと体を震わす。
「七輝くん、さっき話しましたよね?この学生寮はルームメイトと2人で暮らすと。君はクラスメイトと親睦を深めるために過ごしてもらいます」
「ほーん……」
七輝はズカズカと結城に歩み寄りまじまじと見つめる。まさかルームメイトが例の転校生だとは、虎に睨まれた鹿のようにびくびくしながら結城はゆっくりと口を開く。
「るっ、ルームメイトと、な、な、なりましたっ!ゆ、結城護で、です……」
「………」
「え、えっと……ぼ、僕はつ、強くないから……け、喧嘩するつ、つ、つもりは、ない、よ……?」
無言で見つめる七輝に結城はびくびくしながら反応を伺う。すると七輝は残念そうな顔をして大きなため息をついた。
「なんだよ、野郎かよ……」
「ルームメイトに悪態をつかないでください。あ、どうもはじめまして。怪異観測捜査本部の捜査官の伏見司です。今は七輝くんの監視員も務めています」
「ふつうはさぁ、ルームメイトといったら美少女だろ?ここで『ドキッ!あー!あんたは入学式で出会った奴ぅ!』的な?」
「七輝くん、漫画の読みすぎです」
「まあしゃあないか。とりあえずよろしくなヒョロ太郎!」
「結城護君です。変なアダ名をつけないであげてください」
「ヒョロヒョロすぎんだよ。肉食え肉!」
「え、う、うん……」
どうしてこうなった。結城はこれからの新生活が波乱になることに呆然とするしかできなかった。
______
「ほ、本当にサボったんだ……」
結城はどう反応すればいいか困惑していた。午前の授業を終えて昼食を取ろうと食堂へと向かっていたところ、ルンルン気分でやってきた七輝を見つけた。
「まあオリエンテーションなら必要ねぇしな」
この学校では普通の学校でならう教科と陰陽師としての技術を学ぶ授業がある。今日習った授業の殆どが今後の方針とその規範であり基礎中の基礎を教える内容であった。
「で、でも基礎は大事だと思うけど…?」
「基礎は既に教えてもらった。もうちょっとマシになるまではいいかなー……」
「じゃあなんで学校に来たの?」
「そりゃお前食堂の飯が美味いって聞いたからさ。こればっかはサボれねぇなー」
七輝は注文した豚の生姜焼き定食に舌鼓を打っていた。なんと自由な人なのだろうか、これがルームメイトだと思うとこの先どうなるかと思いやられるばかりであった。
「結城はラーメンだけか?もっと野菜と肉を食え。身体が鍛えられねぇぞ?」
「いや僕はそこまで強くなれないって……」
七輝は小皿に生姜焼きとサラダをよそって結城にぐいぐいと押しつけた。なんとかして断ろうとする結城だったが、七輝の後ろに4人の男子生徒達が立っているのに気づいた。
「お前が真田七輝って奴だな?」
見た目からして上級生ですこし風貌がおっかなく絡まれたくないような雰囲気を醸し出す男子生徒達に睨まれ、結城はギョッとするが七輝はどうでもいいような視線で返す。
「そうだけど何か用か?」
「君、すごいよねぇ。いきなり俺達を雑魚呼ばわりしてさぁ……自分強いと思ってんの?」
丸刈りの男子生徒がにこやかに七輝に語りかけが目は笑っておらず怒りに満ちた眼差しで見ているのにやは気づいた。
「いい度胸だよなぁ?推薦組の皆も馬鹿にされて頭にきてるんだよねぇ……」
「推薦組……!?」
推薦組と聞いてやはり2、3年生の人だと結城は確信した。しかし七輝はピンと来ないようで不思議そうに首を傾げる。
「なあゆっきー、推薦組って何だ?」
「ゆっきーって……いや、今はそれどころじゃない!推薦組ってのは陰陽師としての技術や戦闘の戦績や成績が秀でた生徒で、怪異観測捜査本部や陰陽寮の討伐隊の隊員のスカウトの声がかかっている人達のことだよ!」
「ほーん……いわゆるエリートってやつか」
理解しているのかどうか分からない返事で結城は焦る。今の状況は推薦組という実力のある人達がキレているということ。そして七輝の反応が鈍いのか一触触発な雰囲気が出ていること。結城だけでなく様子を見ている周りの生徒たちも息を呑んでいた。
「まあ俺達は鬼じゃないし?今から土下座して謝れば見逃してやるよ」
「……………」
推薦組の生徒の一人が土下座を促しているが、七輝はまじまじと4人の生徒達を見つめる。
「おい、話聞いてんのか?」
「………ゆっきー、こいつら推薦組でエリートだって?」
七輝は何故か首を傾げながら結城に尋ねる。さっき説明したのにどうして理解していないのか。これ以上彼らを挑発しないで欲しいと結城は願った。
「だ、だからそうだってば……さ、真田くん、早く謝った方がry」
「なんかすっげー弱そうだな!!」
七輝はゲラゲラと笑いながら推薦組の生徒達を指差す。その瞬間、結城は悟った。戦いの火ぶたが切られたと。
「おいてめゴラァ!!なんつったぁ!!」
「なめやがって!!表出ろやぁ!!」
「ふざけやがって!!てめぇらブッコロしてやらぁ!!」
「土下座じゃ済まさねぇぞ!!」
推薦組の生徒達の怒りが爆発し、今にも七輝に襲いかかろうとしているのに対して七輝はご飯を搔き込むよう食べて生姜焼き定食を平らげると不敵に笑った。
「ゆっきー、ここの学校の先輩達はやさしいなぁ。戦い方をレクチャーしてくれるなんてさ」
明らかに優しいどころではない。誰のせいで大事になっているのか、結城は自由すぎるルームメイトに途方に暮れた。
結城護……痩せ型、少し身長低めの男の子。髪型は転生とかナロー系でありそうな黒髪ヘヤでさわやか顔