鵺の陰陽師も終盤(?)に差し掛かっているようなので便乗。
やっぱりハーレムだった(血涙
もういっそのこと一夫多妻婚しちまえよ(ヤケクソ
結城は焦っていた。ルームメイトが入学初日から全学年に喧嘩を売り、その次の日には上級生に喧嘩を売って大暴れをし、更には生徒会長がこの騒ぎに乱入してきた。新しい学生生活が始まったばかりだというのに立て続けにトラブルに巻き込まれるとは思いもしなかった。
「……全生徒に喧嘩を売る度胸があるように腕にも自信があるようだな」
月詠は横目で返り討ちにされてのびている推薦組の生徒を見て、七輝へと視線を移す。
「鍛えてるんでね。てゆーか、こいつらが実力不足なだけだし?もしかして推薦組ってこんなもん?」
どうして更に喧嘩を売ろうとするのか、周りが殺気立ち始めたことに結城は冷や汗を流す。一方の月詠はなるほどと頷いた。
「実戦も積んでいるのだが……自分達より強い相手に出くわした時の立ち回りもできるよう鍛え直さなくてはな。ひとつ課題ができた」
納得したように頷いていたその直後、月詠の視線は鋭くなり刀の刃を七輝に向けた。
「―――だが、全生徒に喧嘩を売り、学業を怠り、そしてこの騒動。お前の傲慢かて傍若無人の振る舞いはこれ以上放置するわけにはいかない。少し灸をすえなくてはな」
「おっ、今度は生徒会長直々に指導してくれるってか?ほんと、ここの訓練は充実してんなぁ」
鋭い眼差しで刀を構える月詠に対して七輝は不敵に笑い拳を構える。生徒会長の参戦により野次馬の生徒達が更に騒ぎ立て周りは混沌としていた。
一触触発の中でただ一人、結城は今の状況は最悪であると理解していた。ここで七輝を止めなければ、この学校は崩壊する。
「ま、ままま、まっ、待ってください!」
結城は慌てて七輝と月詠の間に割り込んだ。気づいた月詠は刀を下ろす。
「君は……?」
「い、一年の、結城護です!か、か、彼とはルームメイトです!」
「ふむ……それで結城君。止めようとした理由を聞こうか」
此方に向ける鋭い眼差しに結城は息を詰まらせそうになるが意を決して口を開く。
「い、いきなり生徒会長との試合はこ、こう実力差とかありますから早すぎると思いますし……じゅ、準備とかして、せ、正式に試合をした方が、えっ、えっと、丸く収まるような気がすると思います……」
何とかしてこの騒動を止めようと結城は思考をフル回転させて最悪のケースを避けよと必死に述べた。
「おいゆっきー、実力差はねぇだろ。こちとら余裕のよっちゃんだぞコラ!」
七輝が文句を言いながら結城を小突く。一方の月詠は腕を組んで深く考えると納得したように頷いた。
「……確かに、準備が必要だったな」
月詠は刀を鞘に戻し、霊衣を解いて学生服の姿に戻った。
「真田七輝。1週間後、正式に試合を申し込む。そこで負けたら全生徒に謝り、今後怠ることのないように勉学に励んでもらうぞ」
「優しい条件だなぁ。じゃあ俺が勝ったら―――」
七輝はニヤリと悪そうに笑う。これはまずいのでは、と結城はふと嫌な予感が過る。月詠の勝利の要求が軽すぎる。これで七輝が自分が勝ったら生徒会長を譲れとか極悪な要求をしてくるに違いない。
「―――これから毎週駄菓子屋のお菓子を100円分奢ってもらおうか!」
「ショボすぎるっっ!?」
ショボすぎる要求に結城はずっこけるそうになった。どこか遠足にでも行くつもりか。
「いいだろう。校長には話をつけて試合の場を設けさせておく。だがそれまでの間、生徒に喧嘩を売るようなことはするなよ?」
「っしゃあ、1週間後が楽しみだ」
「それでは1週間後……さて、休憩時間はとうに過ぎているのだが?」
月詠がジロリと周りを見回すと七輝達の喧嘩を見ていた野次馬の生徒達は蜘蛛の子を散らすように急足でその場を離れていく。生徒達が走り去っていくのを見届けた後に月詠は苦笑いをしその場を去っていった。
静寂に包まれた中、結城は漸く緊張した空気から解放されヘナヘナと座り込んだ。
「こ、怖かったぁ……」
「ったくよぉ、連戦する余裕はあるってのに。しかし正式な試合にもってこさせるたぁ……ゆっきー、お前天才か?」
「馬鹿なのか君は!?今ここで生徒会長と喧嘩したら学校が崩壊するよ!?」
誰のせいでメンタルが擦り減っているのか、文句を言いたいがその気力すら無かった。
「崩壊すりゃあ俺は入学予定だった学校に戻れるかもしれねぇな……やっぱお前天才だな!」
「もうやだこの人!!」
恐ろしいほどのポジティブさに結城は胃が痛くなってきた。
__________
「七輝くん、色々やらかしてくれましたね君は」
夕飯早々に伏見が死んだ魚のような目で七輝を見つめながら怨み節をこぼす。
「九条さんおかげで事が荒くなる前に収まりましたが、武藤校長にこっ酷く注意されました。もう少し自重してください」
「いいじゃねぇか、生徒会長直々に鍛えてくれんだぞ?そうすりゃ俺もあっという間に陰陽師になれるし北高に戻れるし、ふしみんもあのガキンチョ隊長に褒めらるし、ウィンウィンじゃねぇか」
七輝は今日の夕飯の鰆の照り焼きを食べながら伏見の怨み節を撥ね返す。伏見は大きくため息をこぼして頭を抱えた。
「それ、得してるのは七輝くんだけです。あと鶤狩隊長の前で絶対にそれを言わないように。私の首が撥ねられます」
ガハハと笑いながら食べる七輝、死んだ魚のような目で明日を憂るように食べる伏見。そんな2人のやり取りを見ながら結城はオドオドしながら夕飯を食べていた。
「だ、だけど七輝くん……生徒会長の九条先輩はとても強い人だよ?」
「ほー?学校最強ってくらいか?」
「それもあるけど……怪異観測捜査本部の配属は決まっているし、新しい部隊長に就任する予定らしいんだ」
「部隊長?陰陽師のガキンチョ隊長と似たような部隊か?」
「だから鶤狩隊長です……怪異観測捜査本部にも部隊長がありますが、それに値する実力のある人達は陰陽寮の討伐隊へと配属される割合が多いため我々の部隊長は少なく、存在をあまり知られていません。そのためよく人材不足と言われています……」
九条月詠は漸く手に入れた貴重な人材。そう言われるほどの実力があると伏見は話す。
「結城君が仰ったように、実力の差はかなりあると思います。しかし、七輝くんの言うようにいい体験にもなる……どう言えばいいのか。お願いですから無理のないようにしてください」
「心配すんなって。勝つさ」
1週間とい短い猶予だというのに自信満々に笑う。どこからそんな自信があるのか。まさか1週間の間に血を滲ませるほどの修行でもするのか、結城は余裕綽々の七輝が気になった。
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翌日、七輝は学校に来なかった。やはりと結城は確信する。七輝は1週間後の試合に向けて鍛錬に集中しているのだと。
なにせ相手は学校最強の生徒会長だ、実力の差を少しでも縮めようと七輝は頑張っているのだろう。
(七輝君、どんな特訓をしているのかな……)
授業を全て終えて下校の最中、結城は気になりながら帰路につく。
(そういえば伏見さんも見かけてないな……)
今日一日、伏見にも出会っていなかった。もしかしたら七輝の特訓の相手でもしているのだろうと考えた。きっと2人の帰りは遅くなるはず。それならば夕飯の支度は自分がしようと決めた。
(料理はあまり得意じゃないけど、ルームメイトとして僕も何かしないと)
彼のことはあまり知らないけれど同じクラスメイトであり共に過ごすルームメイトだから何か手伝えることがあるはず。結城は寮に戻る前にスーパーで買い物しようと足を進めた。
「おっ?ゆっきーじゃん!どこ行くんだ?」
その時、此方を呼び止める七輝の声が聞こえた。結城は振り返り七輝の姿を見るとビシリと体が硬直した。
そこには身体に傷一つついておらずボロボロにすらなっておらず、大量のぬいぐるみと菓子を詰め込んだ袋を持った七輝とでかいクマのぬいぐるみを抱きかかえ、死んだ魚のような目をしている伏見の姿が。
「え、えっと……な、七輝君?その大量のぬいぐるみと菓子は……?」
「おう、クレーンゲームの戦利品だ」
ニッコリと勝ち誇るように笑う七輝に対して結城は嫌な予感が過る。
「い、一応聞くけどさ……今日一日どこ行ってたの?」
「どこってお前、ゲーセンに決まってんだろ」
結城は盛大にずっこけた。七輝は学校をサボって一日ゲーセンで遊んでいた、あり得ない行動に結城は愕然とする。
「なんで!?1週間後に試合があるのになんでゲーセンに行ってるの!?」
「そりゃお前、1週間猶予くれたってことは……1週間は遊びたい放題ってことだよな?」
「違うよ!?ふつうは生徒会長と相手するんだから特訓するでしょ!?」
「バカだなー、俺は強いから特訓する必要ねぇよ。ほらかの前田某も言ってたろ、『虎は元々強いから云々』とかなんとか」
「どうしよう、生徒会長を応援したくなってきた!!それよりも伏見さんがいるんだから特訓できるでしょ!?」
「私は七輝くんに37462回も負けてますから特訓の相手にもなりませんよ」
伏見は死んだ魚のような目で悲しそうに遠くを見つめる。もう諦めの境地に至っている伏見に結城はもう何も言えなかった。
「ま、なるようになるさ。ふしみん、今日の晩飯は?」
「今晩はトンカツにしようかと思います…」
本当に特訓もしないで大丈夫なのだろうか。マイペースすぎで我が道を行く七輝に結城は不安に駆られる。
そしてこの1週間、七輝は学校も行かず特訓もせずゲーセンに入り浸かっていたのであった。
________
「ほ、本当に何もしなかったんだ……」
1週間が過ぎ、生徒会長との試合の当日。これまで特訓しないでいた七輝に結城は唖然とする。
放課後、試合の場となったグラウンドには生徒会長と問題児の転校生の戦いという注目の試合を見ようと沢山の生徒や教師達が集まっている。この人の多さに結城は緊張していたが七輝は緊張すらせず心躍らせていた。
「すげーめちゃくちゃいるな!こりゃ面白くなりそうだ」
特訓もしてないのにどうしてそこまで余裕なのだろうか、結城は心配でたまらない。
「七輝くん、九条さんは既にスタンバイしています……くれぐれも夢中になりすぎて校舎を破壊しないように」
「おう、んじゃま行ってくるわ」
気軽に返事をして向かっていく七輝に結城は我慢の限界に至った。
「七輝くん!!なんでそんなに余裕なんだよ!!特訓もしないで遊び呆けてたくせに、そんなんで生徒会長に勝てると思ってるの!?」
結城の怒声に七輝はピタリと止まり真顔で振り返る。はっとなった結城は焦りだした。
「あ……ご、ごめん……そ、その、言い過ぎだった、よね……?」
「気にすんな。自由になるために、強くなるために死に物狂いでやってきたからな……こんなのとうに慣れっこだ」
七輝はニッと楽しそうに笑った。傲慢さはない、達観したような七輝の笑みに結城は気付いた。
ここまで至るまで彼はどれだけ鍛え続けてきたのか、どれだけの戦いに遭遇したのか。その実力は元からではなく戦い続け勝ち取ったものだと。
彼は今の実力よりも更にもっと強く、もっと高みを目指したいのだ。結城は止めるよりも非難するよりも七輝の背中を押すことにした。
「……七輝くん、気をつけて」
「おうよ、ひと暴れすっぜ」
七輝は背を向けたまま手を振り戦いの舞台へと向かった。七輝の入場により生徒達の歓声とブーイングの声が一斉に上がる。
「すっげー、まるでテーマパークだな!」
「随分と余裕のようだな、真田七輝」
既に令衣を纏っていた月詠は真剣な眼差しで盡器である黒い刀の刃を七輝に向ける。七輝は令衣を纏うと臆することなく不敵な笑みで返す。
「そりゃあもう生徒会長直々に相手してくれんだ。すんげぇ貴重な体験だろ?」
わくわくしている七輝に月詠は呆れることなく表情を崩さず返す。
「なるほど……これなら遠慮なくお前に灸をすえることができる」
一瞬、グラウンドの回りが七輝達を包むように光った。結界が張られたようで戦いのゴングが鳴った。月詠の刀を握る力が強くなると同時に刀身が紫色の雷に包まれバチバチと電気を迸らせる。
「容赦はしない。泣き言を言ってももう遅いぞ…!」
キッと睨み構える月詠に七輝は飄々と目を輝かせ拳を構えた。
「それじゃあ御指導御鞭撻のほどよろしくな!」
更新は超ゆっくりです…ご迷惑をおかけします