先週のジャンプを読めなかったことに。コンビニも書店も売り切れたことに。
付録付きなんかにするから……
構えて対峙する七輝と月詠。戦いの場は野次馬達の歓声とブーイングに包まれる。
「行くぞ!」
最初に動いたのは月詠だった。具足にバチッと紫色の雷が迸った瞬間、七輝の目の前まで迫っていた。
「!!」
目を見開く七輝に上段から振り下ろさる刀の刃が迫る。だが七輝が驚愕したのは一瞬で、直ぐ様拳を交差させ刀の鍔を受け止めて刃の直撃を免れた。
「っ!」
七輝の咄嗟の反応による防御に月詠は目を丸くして驚くも束の間、防いだ七輝は交差した手を押し上げ月詠の手首を掴むと背負投げの形で月詠を投げた。
空に投げ出された月詠は体を翻し受け身を取って着地。屈んだ状態から顔上げた刹那、七輝の飛び膝蹴りが顔面に迫ってきていた。
(っ!速い―――!)
七輝の速さに驚く月詠だったがすれすれのところ体を傾けて躱す。刀に令力を注ぎ込み刀身に紫色の雷を纏わせ力強く薙いだ。
「っ!黒蹄っ!」
雷撃の刃が迫ることに気付いた七輝は飛び膝蹴りを止め、令力を込めて黒雲と黒雷を足に纏わせ、強引に体を回転させて廻し蹴りを放つ。
紫電の刃と黒雷の蹴りがぶつかり合い、バチバチと電気が激しく弾ける。力と力の押し合いによる攻防の中、七輝が眉間にしわを寄せる。その瞬間の緩みを逃さなかった月詠が更に力を込めて押し上げた。
「はあああっ!!」
力強く薙ぎ払い、薙ぎ払われた七輝は宙を飛ぶ。力に押し負けふっ飛ばされたと結城や観衆は見ていたが七輝は宙返りをしてすたりと着地した。ダメージを受けていないのかけろっとしているが不満そうに月詠を見ていた。
「あー……いってぇー……足が斬られるかと思った」
「普通は斬られるものなんだがな……」
まさかの反応に月詠は苦笑いをして返す。
「刀とか矢とか耐えられるように鍛えてたんすけど……月詠先輩、めっちゃ強いすね。油断できないわこれ」
「褒めても何も出ないぞ?だが油断できないのはこちらも同じだな……」
月詠はフッと微笑んで刀を鞘に収めて居合の構えで身構えた。
「『真田』と聞いてもしやと思っていたが……やはり『真田流躰術』は習得しているようだな」
月詠の言葉を聞いた七輝は好戦的な笑みを浮かべてニッと笑う。
「やっぱ知った?」
「知ってるも何も、怪異観測捜査本部の人間なら誰だって知っている。元本部長の真田正雄様も含め真田家から伝わる武術なのだからな」
真田家、千年前から存在していた陰陽師に属す一族ではあったが他の陰陽師の一族と比べ令力は弱く、武力さえも劣っていた。このままでは他の一族に吸収され潰えると考えた真田家は陰陽師から独立し、僅かな令力でも戦える術を追求して得た武術こと『真田流躰術』を作り上げたという。
「『拳・蹴・投・突』を極め、状況や戦闘に応じ、僅かな令力で敵を打ち倒すことを目的とした武術……それが真田流躰術だ]
「へー……じいちゃんからはステゴロ拳法だとしか聞いてなかったけど、やっぱじいちゃん達はすげーんだな」
なるほどと感心する七輝に月詠は苦笑いするが気を緩めることはしなかった。ふざけているように見えるが相手は真田に育てられた人間、油断しているとこちらがやられてしまう。
「もう小手先の技でお前を試そうとはしない。ここからは徹底的に叩き切る…!」
月詠は呆れた笑みから一変、真剣な眼差しで七輝を睨み凄まじい殺気を放つ。一方の七輝は殺気に怖気づくどころか待ってましたと笑って拳を構えた。
「よっしゃ!そうこなくっちゃな!」
どこまでその余裕が持つか、その自信を圧し折ろうと月詠がタンッと地面を蹴った勢いで七輝に一気に迫り、刀を素早く薙ぐ。
「っ!赤陽っ!」
一瞬で間合いを取られた七輝は令力を両腕に集中させ赤熱化させ横薙ぎしてきた刃を右腕で防いだ。ガキンッと火花を散らして刃を受け止めるが衝撃と痛みは抑えることができず眉間にしわを寄せる。
「ちっ…!」
力を込めて腕で払って弾かせる。一度は防げたが月詠の猛攻は止まらない。
後方へ軽く跳んで着地した月詠は刀身に雷を纏わせ再び振るい続け、七輝に雷刃の連撃が降りかかる。七輝は赤陽で赤熱化した腕で何度も刃を防ぎ火花を散らせ続けた。
「あだだだだだっ!あいたっ!」
腕を鉄パイプで叩かれたような痛みにこらえながら攻撃を弾き返す。両腕で弾き返したその時、月詠が足払いをして七輝をこけさた。バランスを崩し仰向けで倒れた七輝に向けて力強く上段から振り下ろす。
「っ!?まじかっ!?」
ギョッした七輝は後転して跳ね起きて攻撃を躱す。だが月詠はこの瞬間を狙っていた。令力を込めた刀身が雷を纏わいバチバチと激しく電気を迸らせ、月詠は構えた。
「
幾段に激しくはじける雷に宙にいる七輝は目を丸くする。あれはまともに受けたくない。七輝は咄嗟に腕を交差させて防御した。
「―――
刀を振ったと同時に紫色の雷による斬撃が放たれた。バチバチと激しく迸らせながら七輝へと迫り、防御態勢を取っていた七輝へと直撃する。
紫電の斬撃が七輝に喰らいつくと、雷撃が包み込み激しい雷鳴が轟かせ紫色の閃光がグラウンドに放たれた。
試合を見ていた野次馬達は雷の眩しさに目を瞑る。やがて雷の轟きが止み、閃光が弱まり消えていき目を開けて試合の様子を伺う。凛と佇む月詠と彼女が見つめる先には黒煙が上がっていた。
「七輝くん……っ!?」
試合を見守っていた結城は絶句する。生徒会長の実力は伊達じゃない、あの強烈な一撃を受けたら一溜まりもないはず。
見ていた野次馬達もどよめきと七輝に対するざまぁないと言わんばかりの嘲笑が木霊する。
「………」
月詠は観衆の声を気にすることなく黒煙の先をじっと見つめて構えていた。
彼女は感じていた。放った渾身の一撃、確かに直撃させた。だが勝った気がしない。寧ろ、黒煙から強い令力と闘志が湧き出ているのがピリピリと感じる。
黒煙が消え、七輝の姿がはっきりと見えた。霊衣や腕に焦げ跡がついていたりボロボロになっていたが、月詠に対して好戦的な笑みを浮かべていた。
「っ!?」
七輝の赤い瞳と笑みに月詠は威圧されかけた。闘志を圧し折るどころかますます闘志が漲っており、彼は戦いを楽しんでいた。
「すんげぇ一撃……やっぱ生徒会長は強えーな!てゆうか飛ぶ斬撃とか俺もやってみてぇなぁー」
(まさか戦いの中で成長するタイプか……!)
そうだとしたら厄介な相手だなと月詠は苦笑いを浮かべる。
「そう簡単に懲らしめることはできない、か……厄介だな」
「俺も斬撃を習得したいなぁー……よし、どんどん撃ち込んできな!」
七輝はニッと笑って構えた。その時、七輝がふとチャイムが鳴った校舎の方へと視線を移した。
「………会長、今何時だっけ?」
不意打ちのつもりかと身構えたが七輝は構えを解いて拳を下ろしていた。どういうつもりかと思いながらも校舎の方へ視線を向ける。
「……13時半だが?」
七輝は「あっ、やべっ」と声をこぼした。月詠が何かと思い眉をひそめる。
すると、七輝は深呼吸をするやいなや力強く足を踏み込むと一気に令力を放った。凄まじい令力に月詠は直ぐ様身構えた。
(なんだ…!?まだこれほどの令力があったのか…!?)
七輝は両足に黒雲と黒雷を纏わた。ゴロゴロと激しい雷鳴と雷を轟かせ低くく踏み込む。一気に間合いを詰めて蹴り技を放つ。そう読んだ月詠も令力を刀身に注ぎ込み迎撃態勢に移った。
ダンッと七輝は大地を蹴って激しい雷を轟かせながら月詠に迫った。
(―――来たっ!)
迎え撃った月詠は力強く刀を薙ぎ払わせた。
「雷刃狗――斬!!」
薙ぎ払われた紫電の刃が七輝に迫る。駆ける七輝は上段廻し蹴りを放ち、紫電と黒雷がぶつかり合いバチバチと雷を弾かせる。
力と力がせめぎ合うが月詠は押されているのを感じた。先ほどの蹴り技よりも威力が増していた。
ガキンッと刃と蹴りが弾かれるも七輝は体を回転させて再び廻し蹴りを放つ。一気に迫る蹴りを月詠は力強く刀を振って弾き返し、衝撃で体を回転しながら着地する七輝に隙ができた。
「もらった!!」
隙を逃さない月詠は刀身に雷を纏わせた斬撃を振るう。しかし、七輝はバク転して凶刃を躱した。
「なっ……!?」
月詠は驚愕する。刃は空を切り、七輝は月詠の背後に着地。七輝の両足には未だに黒雲と黒雷が纏っている。
(しまっ……やられる―――!)
反応が遅れた月詠は七輝の蹴り技を受けるしかなかった。
しかし、七輝は月詠に技を放つことはせずただひたすら走っていった。
「………え?」
月詠はキョトンとし、見ていた野次馬達も何事かと目が点になる。結界の端っこへと進んだ七輝は力強く跳び蹴りを放った。
「うおらああああっ!」
結界の壁にぶつけるとビシリとヒビが入り、ガラスが割れたように結界が破られた。七輝が結界を破壊したことに野次馬達は驚愕の声を上げる。だが七輝は気にすることなく走り出した。
「ま、待て!どこに行く気だ!?」
月詠は結界を破壊して走り去ろうとする七輝を呼び止めた。七輝は振り返ると凄まじい剣幕で月詠を睨んだ。
「うるせぇ!13時50分からドラマ『参謀』のSeason2の最終回スペシャルが再放送すんだ!そのドラマの録画予約をすんの忘れたから急いで帰って見るんだよ!」
「は、えっ、は?」
月詠は戸惑いながらもそんなに大事かと尋ねようとしたが七輝の熱弁は止まらない。
「前話で左京さんが連続殺人犯に刺されて救急搬送され、残された兎山達が左京さんの残した手がかりで捜査していくんだ!こんなことして見逃すわけにはいかねぇ!」
「こ、こんなこと……いや、試合はどうする!?」
「そんなことより『参謀』だ!試合の続きはまた今度!じゃあなっ!」
月詠の制止を聞くことなく七輝は突っ走ってグラウンドを後にした。観衆がどよめき、伏見は胃がキリキリと痛みだしたのか腹をおさえ、結城はポカンとあんぐりしていた。
取り残されて呆気に取られていた月詠は走り去った七輝に対して苦笑いを浮かべた。
「はあ、本当に自由すぎる奴だな……」
ため息をついて自身の盡器に視線を向ける。よく見ると刀身に亀裂がはしっていた。
(あのまま続けていれば……やられていたかもしれない……)
自身を凌駕するかもしれない七輝の実力に月詠は感心した。自由すぎるが故に束縛は効かない。
かなりの実力を持つ七輝をそのままほったらかしにするわけにはいかない。
(彼を……七輝をちゃんとした陰陽師にしなければ)
月詠は彼にどうしたらやる気になってくれるか、真剣に考え始めた。
猛暑はつらい……熱中症には気をつけてください。