学郎くん、卍解でもする?
この学校では午前の間は数学や国語などといった普段の学生と変わりない授業を受け、午後からは陰陽師としての座学や訓練などが行われる。
1年生では数人で組んだ班による訓練が行われているのだが、その訓練の最中で七輝達は揉めていた。
「だからなんであんたが先に突っ走るのよ!ていうか壁を壊すバカがいるかっての!」
「あ?お前わかってねぇなぁ…救助すんなら早いほうがいいだろ?」
今回の訓練棟で行われる訓練のひとつ、屋内に複数のレベル1の幻妖及びレベル2の幻妖(訓練用に式神を代用)が出現したと過程し、屋内に取り残された人(人形)を救助するというものであった。
いかに早急に救助すべきか索敵やチームの連携が試される訓練だったのだが、七輝達の班の番になるやいなや七輝は入り口から入らず壁を蹴り壊して突入しようとして愛蓮に止められ揉めていたのであった。
「な、七輝くん…僕達はまだ力の弱い小隊なんだから普通は幻妖に見つからないよう行動しなきゃいけんだよ?」
「あんたが壁に穴開けたらそこから幻妖が出るんだけど?」
七輝は蹴り壊した壁をチラッと見ると何か閃いたようで結城達にニッと余裕の笑みを見せた。
「じゃあ俺が足止めすっからその間救助に行きな」
「だからなんであんたが出しゃばるのよ。死にたがりなの?」
「いや、俺めちゃんこ強いし?楽勝だし?」
「はぁ?その余裕ムカつくんだけど。あたしも強いし、あんた足速いんだからあんたが救助いけば?」
「あぁ?俺の方が強いし、幻妖瞬殺するが?」
「じゃああたしがあんたを瞬殺しようか?」
「ちょ、ちょっと2人とも喧嘩はやめ――」
「皆殿ー!救助成功でごさるよーっ!」
七輝と愛蓮ががんを飛ばし合い一触触発の雰囲気に結城があたふたしている間に彩葉が壁を破壊し、人(人形)を担いで飛び出してきた。睨み合っていた2人はいつの間に突入していた彩葉にギョッとした。
「お前いつの間に!?てか早いな!」
「真田殿が近道を作ってくれたおかげでごさるよ。拙者もこっちの方が一番早いと思ったでごさるからね」
彩葉が明るい笑顔で指をさす。彼女が蹴り壊してできた壁穴を覗くと屋内にはあちこち壁穴ができていた。
「彩葉も大概フィジカルバカね……」
「お前も中々やるじゃねぇか。俺の次にすげーかな!」
「えへへへ、拙者達のチームが一番早いのでは?」
「だよな!こいつはトップ間違いなしだぜ!」
ウキウキな七輝と彩葉はチラリと教官の方へと視線を向ける。確かにタイムは他の班と比べてダントツではあった。しかし教官は苦い顔をして首を横に振った。目が点になる七輝と彩葉に対して結城は肩をすくめる。
「そうなるよね普通……」
この日七輝達は罰として後片付けをやらされた。
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七輝達のチームが破茶滅茶するのはその日だけに留まらず、人命救助の訓練では――
「七輝くん!?なんで人形のみぞおちを殴ってから投げ渡すの!?」
「ばっかだなユッキー、お前幻妖はずる賢いんだぞ。人に化けて倒れたふりして助けようと寄ってきた人間に襲い掛かる場合もあんだぜ?」
「まあ確かに人に取り憑いたままの時もあるし……みぞおちよりも延髄斬りした方がよくない?」
「真田殿、鮫島殿、ここは峰打ちにした方がいいと思うでごさるよ」
「人の命を大事にしようよ!?」
人命救助どころかトドメを刺しにしようとしていたり、また別の日ではチーム戦による両陣地に設置された旗をめぐる攻防戦の訓練においては――
「だからあんたが先陣切るなっていってんでしょ!作戦も無しに飛び出さないで」
「あ?俺が突破口になって戦ってる間に旗を取ればいいだろう?」
「は?出しゃばりの目立ちたがり屋でムカつくんだけど。1回頭冷やす?」
「やるか?俺はドチャクソ強いぜ?」
「その減らず口、二度と使えないようにしてやる!」
愛蓮が軍服とメイド服を合わせたような霊衣を纏い、刃先が薙刀のように尖った裁ち鋏の形をした盡器を発現させ七輝に向けて斬りかかりって七輝が迎え撃ち、戦いの場のド真ん中で喧嘩をしだした。
「ちょ、ちょっと二人ともぉ!?それどころじゃないよ!?」
「確かに外野が邪魔だな……それじゃ邪魔者を片付けてから相手してやるってのはどうだ?」
「賛成!あんたを叩きのめすのに回りが邪魔だし!」
馬が合うのか合わないのか、相手を巻き込みながら2人は喧嘩を続ける。
「だ、だから二人ともこれはチームワークが試される――」
「相手方の旗を取ったでごさるー!拙者達の勝利で……って、あれ?」
いつの間にか相手の陣地にある旗を取ってきた彩葉であったが対戦相手を片付けても尚喧嘩する七輝と愛蓮に彩葉はキョトンとする。
「なんかもうめちゃくちゃだよ……」
結城はもう項垂れるしかできなかった。チームができたことで七輝にいい影響になるかと思ったら逆にチームが七輝の影響を受けている様な気がした。
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「おい!お前は真面目にやる気はあるのか!?」
チームを組んで数日後、生徒会室に呼び出された七輝は服部に怒鳴らる。顔を真っ赤にして怒る服部だったが肝心の七輝はなぜ怒られているのか、ハテナと首を傾げていた。
「出席はするようになったが授業中に居眠りするわ菓子を食べわ、訓練ではルール無用に暴れるわ破壊するわで舐めてるのか!!」
怒り続ける服部に対して七輝は反省の色すらも見せず寧ろけろっとした笑顔をみせた。
「んー?基本は厳かにしてないし自分の役目を担ってるますよ?先輩、実戦はそんなに甘くないっすよ?」
「貴様っ…!!」
挑発と見なした服部はギロリと睨んで七輝の胸ぐらをつかみ殴ろうとした。しかし服部の拳を月詠が止めた。
「せ、先輩!?」
「自分の役目、か……自らが先陣をきって味方の突破口になろうとしているということか」
月詠の問いに七輝は考え込んで頭を掻きながら頷く。
「まあそんなところっす…俺、今のところ暴れまわることしか取り柄ないし」
「確かに実戦慣れしている君と比べて実戦経験をしている1年生は少ないな……味方の被害を最小限にしようとする考えはいいことだ。だが、もう少し君の仲間を信頼してもいいと私は思う」
「ツッキー先輩……」
「暴れ馬の君と組むんだ、君について行けるほどの実力がある。仲間に頼ることも大切だぞ?」
優しく微笑む月詠に七輝は更に自信がついたのかフンスと張り切り出す。
「あざっすツッキー先輩!俺だけじゃなくてチームで頂点目指すっす!」
「わかってくれれば何よりなんだが、なるべく訓練棟や備品を破壊しないように―――」
「よっしゃ!そうと決まればユッキー達とゲーセン行ってタコパしてきやす!」
月詠がいい終わる前に七輝は張り切って生徒会室から出ていった。あっという間に出ていった七輝に月詠はやれやれと苦笑いをするが服部は納得いかなかった。
「先輩!あいつを甘やかすべきではないのでは!?あいつまた調子に乗りますよ!」
「服部、彼にとって1年生の訓練は退屈なんだろう。彼はここにくるまで沢山実戦経験を積んでいる……」
伏見から七輝のことを詳しく聞いた月詠は悟った。彼は元観測捜査本部長身真田正雄氏から血反吐を吐く以上の数々の修行と幻妖との戦いをしてきた。彼の実力と自由気ままさはその苦しい日々を積み重ねて死に物狂いで得たものだと。
「私としてはたった1人で力を磨いた彼には仲間がいることの大切さを知ってほしいな……」
たった1人でここまで登り上がってきた七輝の実力を月詠は認めていたが、服部はそれでも傍若無人に振る舞う七輝に敵意を抱く。
(あの問題児め……先輩を唆しやがって!必ず痛い目に合わせてやる…!)
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「えーっと、ユッキーはこの辺りに……」
七輝は皆でゲーセンに行くために、最初に結城のいる場所を探し回っていた。他のクラスメイトに尋ね、訓練棟付近にある技術倉庫と呼ばれるガレージに赴く。
「おーいユッキー、いるかー?」
ガレージの入り口からひょっこりと顔を覗かせると、ドリルやらペンチやら様々な工具が壁にかかっており、油のニオイが漂う部屋の奥に結城はいた。作業台で黙々と何やら金属製の大きな腕を工具で修理しているようだ。
「ようユッキー!何してんだ?」
何をしているのか興味津々に尋ねる七輝の声にようやく結城は気付く。
「な、七輝くん!?き、来てたんだ……」
「皆でゲーセン行こうかと思ってたんだが……それユッキーの盡器か?」
「あ、これは……これは修理中の汎具の一部。僕の盡器でこうやって汎具に繋げて動かすんだ」
結城は指から光る小さな糸を伸ばして汎具の腕に繋げて指を動かすとカチャカチャて腕が動きだした。突然動いたことに七輝は目を輝かせる。
「うおおおお!?すっげー!!ユッキー、かっけぇな!」
「お、大袈裟すぎるよ……」
大喜びする七輝に結城は照れて苦笑いをするが直ぐに俯いた。
「……結城家は代々から汎具を修理する技術を持つ一族なんだ。いわば戦闘にあまり出ない裏方で、戦闘に出されても治療や補佐しかできない後衛でさ……」
結城はカチャカチャと動く腕の汎具から糸を外し接続を切り、虚しく己の手を見つめた。
「他の陰陽師からは役に立たないお荷物と言われたりしたんだ。僕は七輝くんみたいに強くないし、チームを組んでも役立たずだし……僕は七輝くんがうらやま――」
「せいっ」
結城がいい終わる前に七輝が彼の頭に拳骨を入れた。
「あいたっ!?な、七輝くん何するんだ!?」
「俺の嫌いな奴ランキング、ベスト3……自分を役立たずと思う奴」
「……えっ?」
「ユッキー、お前さ……汎具とやらを修理できたり、仲間を治療できたりするってのはすんげぇじゃねぇか。俺よりもすげーぞ?」
目を輝かせる七輝に結城はキョトンとした。
「俺は暴れるしか今は取り柄ないけどさ、ユッキーは皆を助ける力があるじゃんか。裏方達の補佐があるからこそ戦えてんだ、それを忘れちゃいけないってじいちゃんから教わったし。それに、役立たずな奴なんていねぇよ。誰だって誰かの為に役に立たつ、大事な役目があるんだ」
七輝は無邪気な笑みを浮かべて結城の肩を叩く。
「ユッキー、その役目を見逃すなよ?頼りにしてるぜ?」
「な、七輝くん……!」
結城は嬉しくてたまらなかった。今まで同級生から役立たずと言われてきた。力の無い己が誰かの役立つかと自分さえも卑下していたが、七輝の言葉に救われた。
「な、七輝くん!あ、ありがとう…!」
「ほら、泣くな泣くな。んなことよりゲーセン行こうぜ?」
「だから切り替え早いって!?」
さっきまでの真面目な雰囲気が一瞬で消し飛んだ。台無しだとツッコミを入れる前にガレージから愛蓮と彩葉がひょっこりと顔を覗かせた。
「真田ー、いつまで待たせてんの?」
「早くゲーセンに行こうでごさるよ!」
「ふ、二人ともいつの間に!?」
「あーユッキーが話してる間にメールで呼んだ。ユッキー話長いからさ」
真面目なのか不真面目なのか、自由すぎる七輝に結城はため息をこぼして項垂れた。
今回はほのぼの回でした……ええ、ほのぼのでした